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2013年10月29日 (火)

民族と被害 だから私は嫌われる

僕が、15年にわたって、関わってきた韓国の強制労働被害者の損害賠償請求事件の判決が11月1日に韓国光州地方裁判所で言い渡される予定だ。


強制労働による損害賠償を求める事件で、日韓の裁判所で結論が食い違うことが、民族的な対立を生んでいる。
僕は、極めて不本意だ。
日韓の民族的対立が煽られることは、日本の将来にとっても、決して好ましいとは思わない。


僕が知る限り、日本の裁判所の多くは真摯に被害に向き合い、一部の判決は、不法行為の成立を認めていた。
請求を排斥した理由は、時効や、企業再建整備法等によって新会社と旧会社に分割したので、加害企業と現在の企業は別法人であるとか様々だった。


最終的には、日韓請求権協定によって、「裁判所に訴える権利」がなくなったとする理由に落ち着いた。
(この理由付けは日中共同声明に関する中国人被害者の例と同様である)
請求権は存在するが、「裁判所に訴える権利」だけはなくなったというのである。
韓国の裁判所は請求権があるから勝訴させている。
結論ほどには、日韓の裁判所の判断は開いていない。
むしろ、日本の裁判所の判断の方が、不法行為による損害賠償請求権の存在を認めながら、「裁判所に訴える権利」だけを否定している点で、特殊技巧的であり、政治的な配慮を感じさせる。
しかし、なかなかそうした実態が伝わらず、結論の違いだけが、大きく取りざたされる。
そして日韓の間の感情的な対立に発展している。
(感情的対立に発展するように仕組まれている)


日本で裁判をしていた頃、日経や読売を含め、ほぼ全ての新聞は、原告らの被害に共感を寄せて多くの記事を書いてくれた。


僕は、せめてもう一度、被害者個人の立場に立って、ものを考えるだけの寛容性を日本社会が取り戻してくれることを願っている。
人権という観点からすれば、何らかの救済が必要なまま推移してきたのは、否定しがたい事実だと考えるからだ。


そうした考えに基づき、以下の文書を弁護団は発表している。


ここでは、具体的には述べていないが、日本政府、日本の加害企業、韓国政府、受益企業(請求権資金で潤った企業をいう)の4者、それぞれに責任があることを踏まえ、4者の拠出する基金による被害救済という問題の抜本的解決を構想している。
提訴が相次ぐような事態を避けたい筈の加害企業の予測可能性を担保する上でも、こうした基金構想は有益でる。ドイツの『記憶・責任・未来』基金などの先例もある。
この基金による解決の構想は、むしろ韓国の弁護団から提示されており、日韓の弁護士や運動体の間では共通の構想となっている。


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              名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟弁護団
              名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟を支援する会

  強制労働関係韓国裁判所の判決に関するマスメディアの論調に関する意見

  1 問題の所在
     戦時中、日本に徴用された韓国人労働者が新日鐵、三菱重工業に損害賠償を求めた裁判で、韓国の高等裁判所が相次いで賠償を命じたことが、議論になっている。
     国内世論は、徴用工などの問題は、日本の裁判で最高裁で敗訴が確定しているのだから、このような矛盾した判決は日韓の間に新たな緊張をもたらすものとして、批判的な論調が一般的だ。批判の根拠は判決の結論的な食い違いのほか、日韓請求権協定で日韓両国間及び日韓両国民の間の権利及び請求権の問題が、完全かつ最終的に解決したと明記されていることを根拠とするものが多い。
     私たちは、一貫して人権尊重の立場から韓国の強制労働被害者の救済に取り組んできた。被害者の人権の観点から意見を表明したい。

  2 日韓請求権協定における「5億ドル」について
     まず、多くのメディアが、事実関係として誤解を生みかねない報道をしていることを指摘したい。
     多くの場合、強制労働被害者の問題が解決したとされる根拠に日本が日韓請求権協定に従い、韓国政府に3億ドルを供与し、2億ドルを低利で貸し付けたことが挙げられる。5億ドルの提供と引き換えに被害者の請求権問題は解決したとする論調であるが、この点は多分に誤解を招きかねないことを懸念する。
     5億ドル提供の事実は、韓国政府が責任を負うべき立場にあることを指摘する理由にはなるが、個々の被害者に対して、加害企業や日本政府の責任を免責する十分な理由にはならない。
     日韓請求権協定では
5億ドルは現金で払われるものとされていない。「日本国の生産物及び日本人の役務」で提供するとされている。5億ドル相当の円に等しい「日本国の生産物及び日本人の役務」が提供され、あるいは貸与されるとしている。しかも、「前記の供与及び貸付けは、大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない。」とされており、少なくとも法的には、5億ドルは被害救済に充ててはならない経済協力資金である。被害者に対する賠償に充てられる余地のない「経済協力資金」の枠組みは日本政府が主導したと言ってもよい。
     「日本国の生産物及び日本人の役務」で5億ドル相当を供与・貸与するのであるから、当然、経済協力資金によって、どのような事業を行うか両国の協議が必要となる。日韓請求権協定では、実施のための日韓合同委員会を設置することを定めるとともに、実施のための取り決めを別に行うことを規定している。
経済協力資金によって展開される事業については日本政府も関与する仕組みになっていたのである。
     つまり、日韓請求権協定上、5億ドルは、個人の被害の回復とは全く無関係である。
     5億ドルは、ダム、道路などインフラの整備に当てられ、日本の生産物及び日本人の役務が提供され、貸与された。
韓国最大の製鉄所である浦項製鉄所はこの請求権資金を使って築造され、築造工事は強制労働加害企業である新日鐵株式会社の前身に当たる会社が受注している。加害企業は、韓国人に強制労働を強いて利益を挙げ、請求権資金によってさらに利益を挙げたのだ。
     高度成長を実現して、政権基盤を確立した韓国政府に強制労働被害者の救済のため相応の責任を果たすべき責任があることは明らかである。しかし、韓国一般の社会生活が向上したのだから、人権侵害の被害者である個人に対して、日本政府や加害企業の加害責任の問題が解決されたというのは無理がある。
     
韓国政府は強制労働問題については相応の責任を果たすことを表明している。また経済協力資金によって利益を受けた代表的な韓国企業であるポスコも強制労働問題の解決のために資金を提供することを明言している。問われるのは日本政府及び日本の加害企業の姿勢である。
   
  3 サンフランシスコ平和条約
     それでは、日韓請求権協定による「解決」が、なぜ被害者を排除するような「日本国の生産物と日本人の役務」で行われることになったのだろうか。
     この問題は、
戦後日本が主権を回復して国際社会に復帰したサンフランシスコ平和条約までさかのぼらざるを得ない。日本の判決も、日韓請求権協定はサンフランシスコ平和条約による枠組みに沿うものであると指摘している。
     サンフランシスコ平和条約では、日本には戦争賠償を負担するだけの経済力がないことが確認され、賠償問題は被害国と日本との二国間で解決すべきものとされた。その結果、
アメリカを初めとする多くの西側先進国は日本に対する賠償を放棄した。また、対日賠償を求める場合でも、「日本人の役務」による形式に限定された。
     その後、日本は主として東南アジア諸国との間で二国間の賠償交渉を進めたが、これらの賠償は、いずれも
日本人の役務提供によりダムや発電所などのインフラの建設などの形で行われた。また、これらの事業を受注する中には日立や東芝、三菱等、戦争により利益を得た企業が含まれ、これらの企業に製品の製造を注文して発電機等を製造させて被害国に無償で輸出し、被害国に発電所を建設するといったことが「賠償」であった。
     いうまでもないが、ここには、戦後秩序に関するアメリカの思惑が作用している。
     サンフランシスコ平和条約と同時に発効した日米安全保障条約により、アメリカは、日本の独立後も全土に米軍基地を置くことを可能にした。他方、日本を駐留米軍の補給基地とするためには日本の経済復興が必要であった。そのためにアメリカは、日本に対する戦争賠償を大幅に軽減させた上、経済復興に有益な役務賠償の方法に限定したのである。
   
  4 結論
     以上のように、サンフランシスコ平和条約の枠組みによる限り、戦争被害者個人に対する賠償は基本的になされない仕組みになっていた。

     被害者の人権は置き去りにされたのである。
     とりわけ直接的に甚大な人的被害が発生していた韓国や中国における問題は深刻である。両国との国交回復に当たっては、両国が何ら関与していないサンフランシスコ平和条約の枠組みが適用されたことから、多数の被害者の救済が置き去りにされた。被害者の人権が基本的に回復されないまま長い期間が推移したのは厳然たる事実である。
     ここに、戦後70年近くを経て、なお私たちが韓国被害者の訴えに直面せざるを得ない根本的な理由がある。

     サンフランシスコ平和条約を初めとする冷戦下のアメリカの対日政策が、いわば冷戦の果実として日本の経済的繁栄を支える一つの要因となった。
     アメリカの国力が相対的に低下し、アジア諸国が台頭する中、私たちは多極化が想定される新たな世界秩序に直面しようとしている。
     近隣諸国との友好関係の確立は決定的に重要である。
     人権という普遍的価値を再確認し、人権を基本的価値とする友好関係を韓国との間で結ぶことができるかは、私たち自身の切実な課題でもある。



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