障害者の生命の価値と損害賠償額
裁判所は死亡事故の賠償額を決めるに当たって、その人が生きていればどれだけの収入が得られるかを最も重視する。
命の価値が、収入の多寡によって極端なまでに左右されるのが裁判所の世界である。
その結果、重度障害者の死亡事故の賠償額は、健常者の4分の1から5分の1という低水準になる。
収入で生命の法的価値を評価する裁判所の手法は、生命価値の平等という憲法の根本原理(個人の尊重、法の下の平等)に反する結果をもたらしている。
すでに1965年に民法学者西原道雄が「人を利益を生み出す道具として扱うものだ」との痛烈な批判を浴びせているが、どこ吹く風の裁判所は、50年以上経っても、なお生命価値の平等に反する判決を無数に出し続けている。(西原道雄論文 )
今から10年ほど前、15歳の重度知的障害児の施設内死亡事故で健常児の4分の1としか評価されないのは命の尊厳の平等に反するとして、提訴し、支援者からは勝訴的和解と評価された和解で解決した事件(障害者の命の尊厳に平等を裁判)に関わった関係で、末尾に記事が掲載された「ハヤト裁判」にも復代理人として関わっている。
判決は、2月22日午後1時10分に言い渡される。
これまでと同様の命の格差を是認し、その差を縮小するような工夫もない判決であれば、敗訴である。
しかし、それは生命価値の平等を求めて困難な裁判に立ち向かった原告の敗訴ではなく、憲法の基本的価値原理を生命侵害の不法行為における損害賠償額に反映することができなかった裁判所の敗北という意味においてである。
原理的な問題を問う、この裁判は、おそらく上級審へと係属することは必至と予想される。
実は、ずいぶん前から署名サイトを立ち上げているが、思わしく署名が集まっていない。
よろしければ、ご署名をお願いする次第である。
ちなみに、この事件の最終準備書面中、僕の担当部分はこちら である。
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愛知県安城市で2013年、重度の知的障害のあった鶴田早亨(はやと)さん(当時28歳)が障害者支援施設を抜け出して死亡した事故を巡り、遺族が施設を運営する社会福祉法人に約7200万円の賠償を求めた訴訟の判決が22日、名古屋地裁で言い渡される。遺族は訴訟で、将来働いて得られたはずの「逸失利益」を基に賠償額が算定されることに疑問を投げかける。
訴状によると、鶴田さんは13年3月22日、施設を抜け出し、近くの商業施設に陳列してあったドーナツを大量に口に詰め込んで窒息死した。食べ物を口に詰め込んでしまうため施設では食事を一口ずつ小皿に移していた。施設側は内側から開けられない構造の扉が何らかの原因で開き、鶴田さんが抜け出したとみられると説明した。
事故後、施設側は遺族に1800万円の支払いを申し出たが、遺族側は「同世代の健常者に対する死亡賠償金の4分の1にも満たない」と折り合わなかった。鶴田さんの兄明日香さん(39)は14年8月、事故は施設の安全配慮義務違反が原因として提訴し、施設側は鶴田さんが抜け出すのは予測不可能などと請求棄却を求めている。
死亡に関する損害賠償訴訟では、慰謝料などを積み上げて賠償金額を決めるが、大きな部分を逸失利益が占める。逸失利益は、生前の収入や死亡しなかった場合の勤続可能年数などから計算する。
明日香さん側は、就労が難しかった鶴田さんには逸失利益が認められず、最低賃金や障害年金を基に算定しても「法の下の平等に反する低額なものになる」と主張し、全年齢の男女の平均賃金をベースに逸失利益を計算するよう求めている。
重度の知的障害者の死亡事故を巡っては、青森地裁は09年、当時16歳の男性の就労可能性を認め、最低賃金をベースに逸失利益を認める判決を出した。12年には名古屋地裁で、当時15歳の男性について障害年金から算出した逸失利益を認める和解が成立し、大阪地裁では17年に当時6歳の男児に関して、全労働者の平均賃金に基づいた逸失利益を認める和解が成立している。
しかし、明日香さんの代理人の森田茂弁護士は「これらは少数例で、一般的になっていないのが実情」と指摘する。また、将来の就労可能性が逸失利益を認める大きな要因となっており、鶴田さんのような成人で逸失利益が認められた例はないとみられる。森田弁護士は「逸失利益は就労の実態や将来の可能性を基に考えるべきではない」と話す。
明日香さんは「早亨が命を懸けて提起した問題だから」と集会や街頭でマイクを握り、思いを訴える。「命の価値に収入という要素を入れて考えるのはおかしい。社会の格差が広がる中、障害者だけの問題ではない」と話す。【野村阿悠子】
◇逸失利益
事故や犯罪の被害者・遺族らが損害賠償を求める際、死亡や後遺障害がなければ得られたはずの収入を仮定して算出するもの。生活費を差し引いた年収に就労可能だった年数と利息を考慮した係数をかけて計算する。
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