氷菓 第5話「歴史ある古典部の真実」 感想!
やばい、泣いてしまった。
神酒原は原作既読ですが、ネタバレは一切しません。
ネタバレを避けるために、「感想」ではミステリー部分に関する言及を極力避けます。ミステリーはネタが命、感情に任せて書くとうっかりネタバレしかねないので、自制をかけます。
「考察」(アニプレッション)では触れます。
45年前の真実
高校生活といえば薔薇色だ。だがその高校生活を途中で打ち切ってしまうほどの、強烈な薔薇色は、それでも薔薇色と呼べるのだろうか。
折木のモノローグから一番印象的だった部分を抜粋してみました。いやはやほんと、セリフの力ってすごいですね。余談ですが、やたら相手の名前ばかり呼びまくるアニメがときどきありますが、もう少しセリフ作れないもんかねと常々思っております。その点『氷菓』はいいですね、原作もいいし脚本もいい。いつかこのよさを考察してみたい。
というわけで、関谷純にまつわる45年前の全てが判明しました。
折木の推理は間違っていなかったわけですね。当事者の一人である糸魚川先生が太鼓判を押すくらいだから、本当に見てきたようなものなのでしょう。ただし、客観的事実のみを見たら。
歴史的遠近法の彼方で古典になっていく。
このフレーズはこの作品の舞台が古典部という部活動であるところに由来していますので、一般的な文にパラフレーズするとなると、古典は「歴史」と言った方が近いでしょう。
歴史とは、なんでしょうか。
例えば教科として学習する場合、歴史はフィクションだと思った方がいいそうですね。織田信長が日本統一を為そうとした、しかし志半ばで明智光秀の謀反に倒れた、ところが豊臣秀吉がその悲願を継いで達成した。こいつをセンセーショナルに感じることができれば歴史は面白く、また学習としてもはかどるわけです。歴史は英語で書くとhistoryとなりますが、偶然か必然か、この語の中にstoryという語が隠れています。
しかし、フィクションだと思った方がいい、と受け手である我々が感じ方をコントロールする必要があるということは、実際にはフィクションではないということ。
実際には歴史とは、事実の羅列です。誰がああした、彼がこうした、何がこうなった。織田信長が何故日本を統一しようと思い立ったのか、その心の動きを知っている人がどれだけいるでしょうか。ちなみに僕は知りません。心の動きが現代にまで伝わっているのかどうかすらも知りません。
これと反対に位置する教科が、倫理・哲学ですね。倫理・哲学も、やることは歴史と近いのですが、しかし見るのは「誰が何をやったか」ではなく、「誰が何を考えたか」。僕は高校時代、歴史がてんで駄目で嫌いでしたが、倫理はすこぶる面白くて、全体的な席次は全校30~50番台をうろうろしていたのですが倫理のテストだけは1、2を争うトップランナーでした。
……とまぁ、これは教科として見た場合ですけどね。研究対象として見たら、また違う見解をしなければならないでしょう。
折木の前回の推理は、歴史的観点のみを見ていて、倫理的観点を無視していたわけです。
いや、折木は責められまい。あれだけの資料から歴史的観点だけでも正解してしまったのだから大したものです。
そして今回、倫理的観点が明らかになりました。
関谷純は全校の意思を一身に受けて活動し、英雄として学校を去ったのではなかった。
決して、薔薇色なんかじゃなかった。
歴史的遠近法の彼方で古典になってしまった今、完全に対岸の火事となってしまった今45年前の事件を見ると、英雄の輝かしい活躍に見える。
しかし、いくら学生が活動的な時期だったからといって、たかだか高校生だ。そんな大層な自己犠牲精神など、持てるものだろうか?
答えは否。
関谷純だってただの高校生だった。
隠れ蓑としてトップに担ぎ上げられ、それでも生徒の自主性が守られればと思って活動していたのに火事にまでことが発展して、一人生け贄として退学を余儀なくされる関谷純の気持ちはいったいどれほど悔しいものだっただろうか。
僕は原作既読ですので、この答えを知っていましたし、アニメも原作通りに展開したから予想外も何もないのですが、なんというか、45年前の関谷純に思いを馳せていると、涙がこみ上げてきてしまいました。
ただただ、悔しい。
やってられない。
そんな、等身大な高校生の感情。
氷菓の意味が分かった時に顔を手で覆った里志の気分です。なんてことだ、と。文化祭を守って去ったと思われていた英雄は、なんのことはない、ただの犠牲者だった。
やり切れない思いが、こちらにもひしひしと伝わってきます。キャッチコピーの「ほろ苦い」とは上手く言ったものです。
狼に食われるウサギと、それを遠くから見て見ぬフリをするウサギたち、の映像がセンセーショナルですごいですね。一人だけ犠牲になって、残りの全校生徒が守られた文化祭や残りの高校生活を薔薇色に染め上げるのだろうと思った関谷純の悔しさはどれほどのものだろう。ウサギの絶望に濡れる表情が胸を突きます。
氷菓の意味も、icecream → I scream
珍しいではあるでしょうが、唯一無二というわけではない、折木も言うような下らないダジャレですね。このダジャレは僕も以前にどこかで聞いた覚えがあるものです。
しかし、ダジャレでも遺しておかないと気持ちを整理できなかったであろう関谷純を思うと、また目頭が熱くなります。せめて、自分の思いが残るように。古典部の後輩たちにしっかり伝わるように。
折木共恵が弟を古典部に入部させたのも、「姉の青春の場を守りなさい」と言っていましたが、どちらかというと関谷純の思いを守るためだったんじゃないでしょうか。
共恵も在学中、恐らくたまたま、関谷純の思いを知った。だからどこからか古典部が廃部寸前だと聞き、弟を入部させた。
ということは、共恵も折木同様頭がいいのでしょうね。いや、むしろ折木以上に。
当初の予定通り、この事実を文集のネタにするのですね。一番ページ数が多いと面倒くさがる折木が面白いです。
しかしそうなると、今までこのことを文集のネタにして後世に残そうとする部員は歴代の古典部にいなかったということになりますか。まぁI screamに気付いたとしても、このメッセージは古典部が続く限り残されていくわけだから、わざわざ書こうとは考えないかも知れません。
折木たちが書こうと思い至ったのは、面倒くさがり屋の折木が千反田の好奇心を埋めるついでに文集のネタにしてしまおう、という省エネを実施したからですね。きっかけは千反田が関谷純の姪だったというところですが、折木の省エネ主義がなければこの事実がさらなる後世に伝わることは難しかったでしょう。彼の省エネも捨てたものじゃないですね。
三好一郎(木上益治)がすごすぎる
さて、今回のお話。
絵コンテ・演出が三好一郎でしたね。
京アニのアニメで、最初のエピソードのクライマックスを三好一郎が担当するのは二回目となります。一回目は『CLANNAD』の風子編、第9話「夢の最後まで」。神演出を連発して、僕はこの回で号泣しました。『CLANNAD』は3周見ていますが、3周とも泣きました。
いやぁ、ものすんごく面白かった!
それぞれが抜きん出ている京アニの演出陣の中でも、やはり彼の演出は飛び抜けて素晴らしい。
一つひとつの絵のレイアウト、説得力。
キャラクターの動き。
カメラワーク。
そして氷菓恒例の、アイディア溢れる特殊演出。
どれを取っても最高級!
三好一郎の演出回でこれほど単体の回で神回だと思ったのは、『AIR』の第11話以来です。美鈴が「ママー!」って言う回。
いやもう、30分間、幸せすぎた。
これについて僕に語らせるといつまでもしゃべり続けるので、ここでセーブするとしましょう。
しかし一つだけ言及させて下さい。
三好一郎の演出の特徴の一つに、フィックス(カメラ固定)を多用する、というものがあります。
これが一番表れているのは監督を務めた『ムント』シリーズで、その他の作品で演出をする場合はその作風に合わせてフィックスが強かったり弱かったりします。『日常』ではそこそこ強かった。
その点『氷菓』は、監督の武本康弘らしい演出が今まで徹底されていましたので、フィックスはもしかしたらないかもなー、と思っていました。武本康弘はカメラを固定するというより、がんがん動かしたがりますからね。
しかし、ちゃんとありましたよ!
図書館でお話しているシーン。まぁ完全なフィックスではありませんでしたが、折木・千反田・里志・糸魚川先生が会話している横で摩耶花が返却作業をしていましたね。
まさにここです! いやぁ摩耶花が動く動く。他の4人が動かないので摩耶花に自然に目が行き、その可愛らしい動きにメロメロ。これがフィックスの醍醐味ですね、動かない画面で動くキャラを思う存分に堪能できる。
目は摩耶花、耳は折木たち。ついていくのに大変ではありましたが、今回の中で僕が一番面白いと感じたシーンでした。アニメって幸せ。
今回は他に、作画監督に堀口悠紀子。キャラの表情の描き込みに関しては隋一を誇ってもいい方ですね。『けいおん』シリーズでの仕事が有名ですが、僕は『CLANNAD』での彼女の仕事が好き。
原画に植野千世子。どこのパートだろう、わたし、気になります。それより植野作監回はまだかね!
次回
さて次回のサブタイは、今までの「○○古典部の○○」という定型から外れて「大罪を犯す」。
今回で原作1巻のお話が終わったので、次は2巻……かと思いきや、これは4巻の短編集からですね。ハルヒでない限り、アニメは時系列順に展開します。
余談ですが、ハルヒを知らない世代というものがもうあるんですねぇ。今の高校生、例えば2年生はハルヒ放送時には小学5年生……。時代の流れって早いです。
その次の第7話まで短編エピソードが続きます。2巻の長編ストーリーに入る前のクッションとして、気軽に楽しめそうです。
次回の絵コンテ・演出担当は坂本一也。京アニの中ではベテランの一人……と言えるのかな?
僕は『CLANND』EDのだんごの人、って覚えています。あ、AFTERの方です。
ちなみに『氷菓』のEDでは千反田のパートを担当したそうですよ。つっても原画マン10人もいるので、どの千反田なのかは不明ですが。
追記というか余談
前回感想ブログを回ったところ、「創刊号を発見しなければ」「次回創刊号が出てくる」みたいな意見がいっぱいありました。今回も、まだちょっとしか回ってないですが、「また出てくるんじゃね?」的なことを書いているブログがあります。
しかし、第3話の時点で、もう創刊号が出てくるわけもないことは証明されていたりします。そのことを僕は「こんなにも面白い『氷菓』の世界 第3話 - アニプレッション」で解説したのですが、ブロガーにはあまり読まれていないようで少しショック。
自分で宣伝するのもなんですが、かなりの評価をいただいている記事ですので、ぜひご一読下さい。
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アニプレッション「こんなにも面白い『氷菓』の世界 第5話」は、5月22日の夜から深夜にかけて投稿予定です。
(5月23日0時49分)投稿しました。合わせてどうぞ。
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参考推奨リンク
失われた何か
僕と同じ点に言及していてニヤリ。作画・演出については僕より彼の方が何倍も詳しいので、是非読んで下さい。
所詮、すべては戯言なんだよ
アニメ感想とはかくあるや。うーん、クライマックスということでヨークさんの感想は楽しみにしていましたが、読ませる読ませる。
つぶやき
今朝部屋の電気を点けると、「バチバチバチッ」って音がして電気が点かなくなった。豆球も点かない。スイッチ入れる時に電球の方見てなかったから原因不明、たぶんスターターがぶっ壊れたんだとは思うんだけど。
朝から夕方までは窓明かりでどうにかなるが、夜はどうしたものか。今日スターター買おうにも時間ないし、買ったところでスターターが原因かどうかはちょっと微妙だし。
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