「東大モデル“キャリア確立の10年”支援プラン 成果報告会」にパネリストとして参加しました。
いつもお世話になっている
男女共同参画オフィスの方がお声をかけてくださいました。
東大がこの3年間進めてきた、
文部科学省科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成」事情の報告会です。
2人の理事、男女共同参画室長の挨拶のあと、成果報告というはこび。
東大130年の歴史で初の女性理事という江川雅子氏の話が印象的でした。
氏は外部から招聘されて理事に就任したそうですが、その際に、
まずは東大の理事に女性が加わるということを意義深いと思うのでお引き受けします、
しかし、今後は外部から呼んでくるということではなく、ぜひ中からも育てていってください、
ということを仰ったそうです。
これまでのところ、女性の学部長すら1人も出ていないという状況ですが、
今後に期待しています、と。
成果報告の前半は主にキャリア支援について。
オフィスの 都河明子特任教授から。
■大学院5年、学位取得後5年の10年支援
■基本理念は「知の頂点を築く豊かな多様性」
■女性職員採用数は13%から19%へ上昇
・理、保健分野では目標達成、農は未達成だが大幅上昇(目標値がもともと高い)、工は割合は横ばいだが実数は増加(母数が大きいため割合の増加にはなかなか結びつかず)
■幹部の人数3人から9人へ増加(8%くらい)
・目標は倍増→3倍に
■研究支援員の配置
採用数削減が進められる中、かなり健闘しているという印象を受けました。
4つの柱は職場整備、環境整備、進学促進、ポジティブアクション。
非常に大きな施策は各キャンパスにおける保育園の設置ですが、
他にも、公的な会議は17時以降行わないことを規則としたり、
採用ページに女性を歓迎します!と目立つように表示したり、
ポジティブアクションにより女性を採用したりと、様々な取り組みを行ってきたそうです。
2020年までに、女子学生30%(学部?博士はすでに超えている),
女性教員20%、幹部20%(学部長や理事など)を目標としており、
この3年で大きく成果は上がったが、
目標達成のためにはより積極的に進めていく必要がある、とのお話でした。
ちなみに、女性登用の数値目標については賛否がありますが、
ここまで圧倒的に女性が少ない状況においては、
ある一定のバランスに増えるまでは有効であると私は考えています。
とくに、意思決定に関わる幹部で(増えたとはいえ)女性が8%というのは少なすぎると思います。
続いてライフ支援について。
オフィスの渡井いずみ特任助教から。
■学内保育園の設置について
・全キャンパスに、新設、旧来からのもの合わせて7つに(世界的にもトップレベル)
・福利厚生が目的ではなく、大学の国際力向上が目的
・女性研究者が働きやすい環境を整え、成果を上げられるように
・学生や任期付など、認可保育園に入りづらい世帯も平等に扱う
・7:30から21:00まで開園
・年度前半はわざと空きを作って、年度途中でもはいれるように
・無認可では非常に珍しく、世帯収入に応じた保育料←大学からの補助が大きい、4つの直営保育園の運営に年2億円
■座談会の開催
・各キャンパスで合計4回
■女性研究者コミュニティサイト
「フルート/FREUT」開設
■個別相談室(員)の設置
・学生、ポスドクの利用が多い
とにかく、女性が研究を継続できるように。
女性研究者に魅力ある東京大学を目指して。
保育園の目的が、大学の競争力をあげること、というのは非常にもっともだと思います。
研究者が子育て期間にどの程度研究に時間を割けるか、
成果を上げられるかというのは人によって意見が異なるところですが、
大学側としては、環境は整える、必要な支援をする、だからきちんと成果を上げてほしい、
というのが大変明確です。
こちらも、3年間でよくこれだけのことを成してくださったものだ、
という印象を受けました。
続いてパネルディスカッション。
登壇者はまず、それぞれ以下のテーマでお話ししました。
■工学系研究科准教授:研究支援員制度を利用して
・出産後、どうしても教育、研究に割ける時間が減少
・支援員に年度末の経理事務を行ってもらうことに
・そのため研究、教育に時間を割くことができ、学生が優秀な成績を収めるとともに、ハイペースでの論文投稿も可能に
・より柔軟な運用を
■医学系研究科准教授:座談会の登壇者として
・女性ならではの差別を受けたことも、仕事を辞めようと思ったことも度々ある
・しかし自身の率直な体験談に、励まされた、元気になったという声をたくさん頂いた
・自分自身への励みにも
■理学系研究科助教:ポジティブアクションで採用されて
・女性限定の公募ということに気づいていなかった
・むしろ理学系全てで1人の採用ということに厳しさを感じた(90人の応募から選出)
・女性限定であろうとなかろうと、出せるものには出す
■薬学系研究科RPD:本郷けやき保育園を利用して
・研究への復帰、研究継続への支援として非常に重要
・親同士のつながり、コミュニティもできた
・入りたい人全てが入れるように
■理学系研究科博士課程:相談員制度を利用して
・男女共同参画オフィスができたと聞いて訪問
・子育て中の研究者同士のつながりや情報共有が大切では
・相談をきっかけに、
院生子育てサークルの発足に参加
・せっかくある制度を、多くの人が知り、利用できるように
フロアからの積極的な意見は少なかったのですが、
東大の取り組みや成果に感銘を受けたという他大学からの意見や、
今後の継続および発展を期待する声などがあがりました。
また登壇者たちからは、保育園の拡大の希望(大学内待機児童の解消)や、
支援を受けて自分たちが成果をあげていくことの大切さ、
環境や制度が整えられつつあるからこそ、
人を育て情報を共有していく大切さなどが述べられました。
その後の茶話会では、
登壇者や参加者の方々とざっくばらんに様々なお話をしました。
そこで伺った話。
とある研究所で、有給取得ゼロの人と、適度に有給を消化している人の成果を比較したところ、
後者の方が業績を上げている、という調査結果が出たそうです。
そういうの、ぜひ公表してほしい!と皆で盛り上がりました。
他にもいろいろと興味深いお話や、
それぞれが苦労したり工夫したりしながら研究を続けられている様子をうかがって、
報告会での頼もしい成果とともに、私は大変元気づけられました。
3年間、本当に熱心に事業を進めてきてくださった男女共同参画オフィスの方々には、
心から感謝しています。
個人的には、こういった取り組みや催しを、
求めている人がちゃんと知ることができるということや、
逆に現在全く興味関心のない人も自然な形で触れることができるようにということが、
とても大切になってくると思っています。
ずーっと思っているのですが、
サイエンスコミュニケーションや科学広報とも通じるものがありそうです。