■ダメ記事が増えた日本の中国報道に喝!海外在住フリーライターという生き方~山谷剛史(3)■
*当社所在地である船橋市の某有名タイ料理店にて取材・撮影。
■日本の中国報道に対する危機感
年200本のコラムを量産する「中国在住のITライター・山谷剛史」の素顔に迫るインタビュー企画。今回はその第3回目となる。前回は山谷さんが海外旅行にはまり、そして会社員時代に書いていた旅日記テキストサイトが編集者に評価されてライターとしての初仕事をもらい……という経歴について聞いた。
最終回となる今回は、海外在住フリーライターの仕事環境、出版不況の影響、そして日本メディアの中国報道についての思いを聞いた。
載目次:海外在住フリーライターという生き方~山谷剛史
(1)連載コラム年間200本のライター術
(2)IT版深夜特急企画と中国在住という選択
(3)ダメ記事が増えた日本の中国報道に喝!
番外編:
読者を惑わすダメ記事が増えた=どこか「おかしい」日本の中国報道(山谷)
■便利になった海外生活
C:
海外在住ライターってたくさんいますけど、どんなふうに暮らしているのか、海外でのライター生活って日本とどう違うのか、何か不便なことはないのかとか知る機会は少ないと思うんです。後に続く者のためにもぜひそのあたりをお話していただければと思うんですけど。
山谷:実は日本でフリーライターをやったことがないので(笑)、日本との比較はできないのですが、
会社員と比べると1日1回の昼寝がメリットですね(笑)。
C:
なるほど(笑)。私も中国で翻訳業やらライターやらをやっていた時期があるんですが、「人民元で支払うから、原稿料も中国物価で」とか言われてびっくりしたこともあるんですが(笑)。
山谷:それは運が悪かったんですよ(笑)。
僕は日本と同じ原稿料をもらってますし、日本の銀行に振り込んでもらってます。まあ、この9年で環境が変わったということも大きいんです。新生銀行のように国際キャッシュカードがデフォルトになっている銀行もあるし、中国銀聯カード加盟店でどこでも使える三井住友銀聯カードもありますしね。それからJALやANAのマイルがたまるクレカを持っていって、ネットショッピングやスーパーでの買い物にせっせと使ってマイルを貯めることもできる。引き落としは日本の口座からですから。
C:
海外といっても、生活や仕事に不便はないわけですね。
山谷:まったくないですね。
9年前だと、トラベラーズチェックを持っていくしかない状況もありましたけどね。環境は完全に変わりました。編集者さんには心配してくださる方もいるんですけど、「日本の口座に振り込んでいただければ大丈夫です」って言ってます。逆に月末の事務処理とか海外在住だから仕方ないとお目こぼししてもらったりもして、助かったりすることもありますね(笑)。
■「福神漬けライター」の営業術
C:
仕事の営業や打ち合わせでの悩みとかもないですか?
山谷:僕が特殊なポジションだからかもしれませんが、営業で困ってはないですね。
「福神漬けライター」と名乗っているんですけど、まあカレーのようなメインにはならないわけです。IT誌だとパソコンの紹介、レビュー、ベンチマークといった堅い記事ばっかりなので、僕の記事はちょっとした清涼剤になるわけです。
そう言う意味では、「月に一度ぐらい山谷の記事があってもいいんじゃないか」と思われているのかなって思ってます。
C:
「清涼剤いかがですか?」と売り込みにいくわけですね。
山谷:そうですね。帰国した時に「福神漬けいかがですか」と売り込みにいくわけです。これぐらいのペースがちょうどいいんじゃないかな。
C:
打ち合わせとかはどうでしょう?山谷:連載の最初の相談だけ直接会うぐらいでしょうか。帰国した時に食事したりはしますけどね。まあ、出版社全般というよりもIT系メディアの特徴で、メールで十分という人が多い気がします。
■新興ウェブメディアの原稿料
C:
なるほど。確かに生活面でも仕事面でもこの9年間で凄まじく便利になりましたよね。海外生活の方がITのメリットをより実感しますよね。さて、少しは暗い話も聞きたいということで(笑)、出版不況の影響とかどうでしょうか?
山谷:うーん、連載数が増えているので収入はプラスです。だからあまり考えていませんが、
実際に連載1本の単価が安くなったりというのはありますよね。
C:
ウェブメディアという仕事場が増えて、ライターのニーズは高まっているはずなのに、単価は上がっていないですよね。むしろ下がっている。
山谷:下がるというのはちょっと違いますね。昔からお仕事しているメディアの原稿料が下がった経験はないですから。ただ新しく登場したメディアだと、原稿料がびっくりするほど安いってことはありました。
C:
これはありえない、っていう原稿料の仕事とかありますか?
山谷:仕事は依頼されるよりも営業して獲得するほうが中心なので、安すぎるオファーにびっくりしたことはないですね。ただ、
営業がてらあいさつ周りしていると、「ええーっ」っていうほど原稿料が安いところはありました(笑)。そういうところには無理に営業をかけない(笑)。機会があればお願いしますぐらいで終わらせて穏便にすませてます(笑)。まあ原稿料が高くなってくれればウェルカムですけど、読者が喜んでくれて自分が生きられるぐらいのお金をもらえればそれで十分です。そういうスタンスなんで。
■中国メディアの原稿料と読者の強烈な反応
C:
山谷さん、中国メディアにもお書きになってますよね。(関連リンク:山谷さんの中国語記事「中国IT文化差異コラム」)山谷:たまにですけどね。
C:
ビジネスとしてはどうですか?
山谷:いやあ、食っていけない(笑)。そのあたりの事情は福島香織さんの『
中国のマスゴミ』に書いてありますけど、自分の広告だと割り切るぐらいじゃないと無理ですね。原稿料は本当に安い。僕が書いているのは趣味といってもいいかもしれません。
ただちょっと面白いこともあります。政治的なクラスタは外国人が中国について書くのを嫌がるというのは確かにあるんだけど、ただそこさえ外せば日本人ライターの記事ってみんな興味津々なんです。
「日本のITってどうなってるの?」「日本の道ってなんであんなにきれいなの?」「日本のパソコンってなんであんなに薄いの?」「日本のネットカフェや漫画喫茶の机がきれいなのはなぜ?」とか、ちょっとしたことにすごく興味を持っている。僕がそういう情報を紹介すると、中国の読者がものすごく喜ぶわけですよ。喜んでもらえると僕もうれしいんです。もちろん将来の糧になればという気持ちもゼロじゃないですが、そんなに将来のことは考えていないんですよね(笑)。
■中国オモシロニュース紹介は他の人に任せました
C:
そろそろお時間となってきました。最後に山谷さんの今後についてお聞きしようかと。新しく立ち上げたブログ「チャイナプラスワンIT事情」ですが、インドや東南アジアなど中国以外も勉強していく宣言をしていますよね。もう一度海外ライターの本業に立ち返りたいってことでしょうか?
山谷:ごめんなさい。更新してないです。時間ないです(平身低頭)。そうですね、海外ライターには戻りたいですね。
C:
正直、中国のニュースは飽和していると思うんですが、インド情報とかは全然ないじゃないですか。東南アジアも少ない。
山谷:中国在住の日本人は公式発表で17万人。非公式だとその倍ぐらいはいるんじゃないでしょうか。一方、インドにはたった2000人。それどころか、対馬から見える位置にある韓国・釜山。日本から最も近い100万都市にも、日本人は1000人しか住んでいないんですよね。
みんな海外のこと知らないし、ニーズもないんでしょうね。それでも中国以外に目を向けたいと思うのには理由があるんです。ブログ「大陸浪人のススメ」管理人の安田峰俊さん
(新刊『独裁者の教養』好評発売中)もそうかもしれないけど、
昔なら「海外ネット民の反応」を紹介している人はあんまりいなかった。だから注目も集まりやすかったんですよ。今はみんなが書いているからね。競争ですよ。
C:
すいません(笑)
山谷:いや、そこは僕以外の人たちが切磋琢磨してもらって、名をあげていってくれればいいやと思ってます。僕は面白いことを書く専門家じゃないから、そこはお任せします。僕は別の場所に行きます。
例えるなら病院を一つ増やしたいと思ったときに東京に病院をもう一つ増やすんじゃなくて、離島に診療所を作りたいんですよね。そのほうが意味があると思うんです。皆さんが書いているようなことを書くという意味では、僕の役目は終わっているのかな。
■日本の中国報道に覚える危機感
山谷:だけど一方で、中国の記事をコンスタントに書かないとダメだなとも思っているんです。今の仕事を捨てたくないという現実的な理由はもちろんですけども(笑)、もう一つ、
最近中国が注目を浴びている中で、今まで中国に縁のなかったライターさんが急に色気を見せ始めてきたんです。語りたがるようになったんです。中国の若者、経済成長、ITがこの数年で融合したのですけれども、
今までインターネットもサブカルもかけらもしらなかった人が急に中国のサブカルを語り出すというような変な事態が起きている。僕の読者には大学生もいるでしょうけど、社会人の方も大勢います。時間がないんです。そういう人が間違った情報をしいれちゃうと、後で補正する時間が必要になっちゃいますよね。
だから、今のポジションをキープして、そういうライターさんをチェックするようなことをしていかないといけないかなと思っています。いや、隙あらば中国のことを語ってやろう、ドヤ顔で語ってやろうというライターさんがいっぱいいますからね。
まじめにね、自分でやっている分野だけやっていただくのはいいことなんですよ。いい加減な気持ちで中国ブームに乗っかるのは困るんです。まずいことに
そういうライターさんは今までの仕事でつかんだファンがいるわけで、そういう人たちは騙されちゃうんです。万単位の人が誘導されちゃうです。知名度ってそんなに大事なものじゃないと思うんですけど、でも結局、それが影響しちゃうんでね。
さっきも言いましたけど、読者さんのためっていうのが大前提なんです。どうしようもない記事を読んで、間違った情報を頭から消すのにまた時間をかけてという無駄な手間を読者に与えたくないんです。この問題は結構気になってますし、僕の仕事かなと思ってます。
(了)
載目次:海外在住フリーライターという生き方~山谷剛史
(1)連載コラム年間200本のライター術
(2)IT版深夜特急企画と中国在住という選択
(3)ダメ記事が増えた日本の中国報道に喝!
番外編:
最終回の内容「偏向した日本の中国報道への提言」については、山谷さんご自身のサイト「チャイナプラスワンIT事情」でも詳細に語られており、当サイトにもご寄稿いただきました。
読者を惑わすダメ記事が増えた=どこか「おかしい」日本の中国報道(山谷)(2011年11月9日)
【山谷 剛史】
1976年東京都生まれ、池袋育ちの海外専門ITライター。区立千川中学校、都立北園高校、駿台予備学校、東京電機大学を経て、独立系ソフトウェア会社に就職後、現在の職に転職。主に中国内陸に滞在する。OSはDOSから触り、大学の学科は理工学部情報系学科、サラリーマン時代はSEのバックグラウンドあり。
海外で住み、海外の人の気持ちを理解しつつ、あくまでも日本人の読者の視点で現地の背景を解説する記事を執筆する。特に対中国人に関しては、中国人の気持ちを日本人視点でヨイショせず解説できるということで、様々なメディアで書かせてもらったり、講演させてもらったりしている。海外の情報を海外に出たがらない日本人に伝えることを使命と感じ、いまだあまり取材されていないエリア、業界など隙間的な事象を取り上げるのを好む。
中国のほか、インド、東南アジア、中央アジア、韓国、北欧の主にIT関連の記事の執筆経験有。また、現在中国以外を勉強すべく、インドや東南アジアなどについて主に執筆するブログ「チャイナプラスワンIT事情」を執筆・勉強中。「海外ITライター、山谷剛史のページ」。
ツイッター:@YamayaT
*2008年にソフトバンク新書より発売された著書「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」。