北朝鮮による拉致被害者、蓮池薫さんのお兄さん、蓮池透さんのインタビュー記事が6月8日(紙面では9日)のハンギョレ新聞に載っていました。ここで蓮池徹さんは、強硬な制裁一辺倒の対北朝鮮政策では拉致問題を解決できないと訴えています。
そうですよね。国際的な足並みが揃わないなか、日本だけが制裁を打ち出したところで、制裁をしない国(たとえば中国やロシア)と北朝鮮の関係が強化されるだけで、日本はますます“蚊帳の外”に置かれるというのは、今までの経過を見れば明らかでしょう。もちろん、今回の核実験に対する制裁措置と、拉致問題とは別個の問題として扱わなければならないのは当然なわけで。
それでは、ハンギョレの記事です。どうぞ。
「拉致被害者の家族を率いる右派に懐疑」
蓮池透・前“家族会”事務局長
“北朝鮮への強硬制裁”の立場から“対話解決”へ
「拉致された後に戻ってきた弟から多くのことを学んだ」
»蓮池透(54)前家族会事務局長
北朝鮮による日本人拉致問題は、日本社会の“ホット・イシュー”だ。その中心に、対北朝鮮世論を左右する団体である“北朝鮮による拉致被害者家族連絡会”(家族会)と“北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会”(救う会)がある。
蓮池透(54・写真)は、1997年から2005年まで家族会の事務局長として、対北朝鮮強硬制裁の先鋒に立っていた人物だ。彼は先月、『
拉致-左右の垣根を超えた闘いへ』という本を出し、対話による拉致問題の解決を提案しながら“転向”を宣言した。1979年に北朝鮮に拉致され、2002年10月に帰国した蓮池薫(52・新潟産業大専任講師・韓国語翻訳家)の兄である彼の転向は、日本社会に波紋を広げている。
今月2日の『ハンギョレ』とのインタビューで、彼は「北朝鮮の核実験により、拉致問題の解決がさらに遠のいたが、対話を通じて問題を解決しなければならないという所信には変わりがない」と語った。彼は著書で「拉致問題集会のたびに日章旗を振り、サングラスをかけた“怖いおじさん”方がいちばん前に出て、家族会は後ろに回るのを見て、これはおかしいなと思った」と、家族会を支援する団体である救う会の右翼イデオロギー的運動路線に懐疑を抱くようになったと語った。救う会の幹部の中には、日本の核武装や、対北朝鮮先制攻撃を主張する人が少なくないと彼は指摘した。また、拉致された後に帰国した弟、薫の話を聞いて北朝鮮と対話しなければならない必要性に目覚めたと話した。
-現在、日本の対北朝鮮世論は強硬制裁一辺倒だが。
「日本社会は北朝鮮に対して“日本は正義であり、北朝鮮は悪い”という、きわめて感情的な態度をとっている。日本が過去に朝鮮半島でどのような悪いことをしたのかに対する認識はない。日本が近代史教育をちゃんとしていないからだと思う」
-家族会の事務局長時代、自らも北朝鮮に対して強硬な主張をしていたのではないか。
「家族会を支援する団体である救う会の意見が、強く反映されていた。救う会には北朝鮮崩壊を主張する右翼的な人々が多く参与している。これらの影響のため、拉致問題が北朝鮮を崩壊させようとするイデオロギーに利用された側面がある」
-本の中で、拉致問題が解決されないのは日本政府の責任も大きいとあったが。
「核とミサイル、拉致問題の包括的解決方式を含んだ平壌宣言は、拉致被害者の人権を完全に無視したものだ。平壌宣言をはじめ、(日本人拉致被害者の)一時帰国問題や遺骨返還問題、昨年8月の拉致再調査および対北朝鮮制裁の一部解除など、何度も北朝鮮と合意しながらも日本国内の強硬世論に押されてしまった。北朝鮮も謝罪のみに汲々とするあまり、被害者の人権をおろそかにし、結果的に日本の悪化した対北朝鮮世論に引き回されてしまった。あのときちゃんとしていれば拉致問題も解決し、国交も正常化していただろう」
-家族会と決別したのは、北朝鮮に拉致されていた弟の影響もあったのか。
「弟から多くのことを学んだ。日本が昔、犯したことについて、北朝鮮が強く憤怒しているという点を学んだ。弟は『北朝鮮は、日本が昔、数十万人の朝鮮人を拉致したのだから、日本人10~20人を拉致したことがなぜ大きな問題なのかという考えを持っている。だから日本は昔のことをちゃんと謝罪し、補償しなければならないのに、制裁をするばかりなので、日本とは対話できないと考えている。』、『どんなに悪い国であっても、対話しなければ問題解決の方向に進めない』という話を聞かせてくれた」
東京/文章・写真=キム・ドヒョン特派員
『ハンギョレ』2009年06月08日