踊れアナーキー! 映画『ジョーカー』を観る

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なんの休みかしらないが、2019年10月14日、横浜の朝は寒かった。おれは寒さで目を覚ました。目覚ましより30分以上早い。それならば、起きてしまおう。起きて、コンビニに寄って、そうだ、映画館のある桜木町のモスバーガーで朝モスしながら馬券でも買うか。よーし、そう決めた。

そう決めたおれは、シャワーを浴びて、家を出た。まだ長袖の準備もままならない。白いシャツの上に網目模様のadidasのジャージを羽織った。下はジョーカーじみた紫色のズボンだ。おまえは紫色のズボンを持っているか?

おれは桜木町のモスバーガーに行った。行って、朝モスのB.L.T.セットを頼んだ。B.L.T.といってもバイセクシャルもレズビアンもトランスジェンダーも関係ない。ベーコンと、レタスと、T……? だ。これが、バンズがなにかパリパリとしていて美味しかった。おれは一気に平らげた。そして、コーヒー片手に優雅に日刊スポーツの競馬欄を開いた。日刊スポーツはセブンイレンブンで買った。「楽天ペイを初めてご利用で150ポイント」開催中だったので、10円のお釣りがくる日刊スポーツだ。

東京メーンの府中牝馬ステークスはクロコスミアから。それとちょっとフロンテアクイーンからワイドを。西のメーンのオパールステークスはおれのなかでクロコスミアとごっちゃになるカラクレナイから流す。少し重い馬場、父ローエングリンに流れるサドラーズウェルズの血よ……。

……って、なんで『ジョーカー』の話しねえんだ、と思ったお前に言う。おれに映画を論評する能力も知識もない。ましてや先生にほめられる感想文を書く能力もねえ。だからおれは、おれが読み返したときに「そんなこともあったな」と思える、おれの「映画体験」について書くのだ。映画の日記、だ。

まあいい、上機嫌のおれだったが、おれはなぜか腹を壊していた。女との待ち合わせは10時半。10時ごろモスバーガーを出て、おれは桜木町駅のドラッグストアでチュアブルの下痢止めを買った。「どこもかしこもドラッグストアだらけだな」とか思っていたが、こうなるとありがたいといえる。チュアブルの下痢止めを噛み砕いた。女が来た。急に寒くなったね、などと言う。そしてブルク13に行った。

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ようやく、『JOKER』だ、文句あるか。というか、おまえもとっくに観ただろう。

 

そういう前提で書く。

 

たしか、Twitterで深町秋生先生が「いつまでも観ていたい」みたいなこと書いてたと思うが、まさにそのとおりだ。異議なしだ。ちくしょう、脳を、精神を病んで、病気の母とボロビルで二人暮らし。いいことなんてありゃしねえ。どん底だ、どん底の人間にふとしたことから拳銃が転がり込む。そしてぶっ放す。リアルな拳銃の発砲音なのかどうかは知らねえ。けれど、その発砲音はいろんな映画の中でも「これだ!」という迫力があった。リアルな暴力があって、おれは「よーし!」と思った。これはアメコミ原作の、PCに配慮したような、生やさしい、結局は勧善懲悪の話に落ち着いたりしねえ、ぶっ込んできた映画だ。いいぞ、やってやれ、ホアキン・フェニックス! おまえこそがジョーカーだ!

おれは腹の痛さも忘れてスクリーンに見入った。躍動するホアキン、その動き、その踊りよ。踊り念仏よ。アナーキーは自由な精神と、肉体の動きのなかにあって、抑圧と、その解放よ。ダンス、ダンス、ダンス、そしてショット! ぶっ放せ! ぶっ放したな! たまらんよな。そうだ、おれもきちがいだし、おまえもきちがいなのだ。薬の量を増やしてくれ、苦しいのはもうたくさんだ。でも、そこからも見放される。つかの間の幻想、脳みそを、吹きとばせ。そして、踊るんだ、踊り、踊れ。そして、キル・ザ・リッチ! 暴動だ。混沌だ。体制をぶっ壊せ、ぶっ壊すのにべつの体制なんていらねえんだ。みんな、めいめいに自由にやれ。人殺しの顔をしろ! Make Some Noise!

僕らは今の音頭取りだけが嫌いなのじゃない。今のその犬だけが厭いやなのじゃない。音頭取りそのもの、犬そのものが厭なんだ。そして一切そんなものはなしに、みんなが勝手に踊って行きたいんだ。そしてみんなのその勝手が、ひとりでに、うまく調和するようになりたいんだ。

大杉栄も言ってるぜ。アナーキは踊りなんだ。好き好きにメイクして、自由に踊れ、車を燃やせ、権力者を撃ち殺せ。それが調和に行き着くのかは知らねえ。現実に悲観的すぎて、理想に楽観的すぎるのがアナキストの悪い癖だ。だから、それは知らねえ。でも、人間がネアンデルタール人あたりを打倒して、人間らしくなって以来つづいてきて、奴隷根性をぶち壊すにはそれしかねえんだ。若松孝二は「なんで飢えてる人間が立たなきゃならねえんだ」といったが、それでも、飢えたるもの、病めたるものが立って、最後の力で銃を撃ちまくれ、くわえタバコで踊ってやれ。そこに痛快さがある。なんて爽やか!

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おれはずいぶん前に見たジョーカーに、ちょっともどかしさを感じていた。

スイッチ押すよな、押すだろ、押せ、押せ、押さないのか? 押すよな? 押すでしょ、押すって、マジ押す、押さないの? ウソ? 押すでしょ、ええい俺が押す、みたいな、そんな感じ。

だが、今度のジョーカーは完璧だった。完璧にいかれていて、それでいて社会に対して中指立てて、脳みその混乱の極みを世間にうつしてみせた。「うつしてみせた」の「うつす」にどの漢字を入れてくれてもいい。どんな漢字を入れても、通底するものがあるのがやまとことばいうもんよ。精神疾患者の貧乏人である私もジョーカー、あなたもジョーカー、ジョーカー・ブルース、ってなもんだ。

おれは、じつにいいものを観たなァと思って映画館をあとにした。台風が来て、三連休の最終日だったその日、映画館はえらく混んでいた。同じビルのレストランも混んでいたのでマークイズの方まで行った。もちろん混んでいた。さらに横浜の方に歩いていって、やけに空いている海鮮居酒屋の昼営業みたいなところに入った。おれと女は偶然にも鯵のたたき丼を注文した。注文してしばらくして、「鯵がありません」と言ってきた。おれは次点評価だった炙りサーモン丼を選んだ。女もそうした。ドラフト一位指名をして両者とも外れ、さらに外れの一位が競合したような形になった。あとから来た年配の男性二人組はそれぞれ「鯵のたたき丼」と「炙りサーモン丼」を注文した。さすがに「鯵のたたき丼」を注文した人間が次点に「炙りサーモン丼」を選びはしなかった。「ランチでは現金支払いのみとさせていただいております」。

そのあと、新しいビルで景色が変わったみなとみらいの奥の方を歩いて、コレットマーレに寄って、帰ることになった。おれは桜木町の駅のホームで朝買った馬券の結果を見た。

何個か的中の赤帯が出ていたが、これがでかかった。馬連三万馬券! 三着の人気薄まで馬連でおさえているのだから、三連系で買っていれば……などと贅沢は言うまい。京都の内回り芝二千メートル、北村友一はインを突くのがうまい。佐藤哲三がそう言っていた。そして、バゴの子が昨日G1勝ったばかりじゃねえか。ボーナス・レースだぜ、こんなの。しかし、二着の人気薄、名前はバイオレントブロー!

そして帰宅したおれは、南部杯の結果を調べた。調べたら、まだ出走前だった。おれは朝の10時、発売直後に適当にゴールドドリームからの三連単をちょっとだけ買っていた。しかし、それではつまらんし、せっかくの万馬券の後だ。買い足すことにした。

おれはまた万馬券を獲った。こんな日もある。

女にメールした。

「帰ってからまた万馬券を当てました。しかし、今後、バットマンシリーズの続編がつくられたとして、バットマンを応援する人がいるのでしょうか?」

「同感」

それでもおれは、おれは、安いピエロのマスク被って、街の商店をバールのようなもので襲っていたら、変なモービルに乗ったバットマンに轢き殺されることだろう。たぶん、そういうことだろう。でも、踊るんだアナーキー、アナーキー、おれ、ジョーカー、咲き狂え!