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2014年2月

ほほ染める野菜たち

今頃の野菜といえば、ブロッコリーやナバナなどアブラナ科野菜が多い。この寒い中でもそれらの野菜はゆっくりと、だが確実に大きくなっている。しかし、ここのところの低温や霜によって葉などがいためられ、畑でそれらの野菜を見かけると、外側の葉ほど赤くなっているのを見たことはないだろうか?

それらの葉の色は、赤というより赤紫といったほうがイメージに合うかもしれない。それらは、なぜ赤くなっているのだろうか?

多くの植物でそうだが、それらの色はアントシアニンという色素である。アントシアニンとは花青素ともいわれ、多様な植物で花や果実などその鮮やかな色の元となっている。花青素の字面どおり、ヤグルマギクの青い色がアントシアニンを含むアントシアンの語源(ギリシア語で青い花の意味らしい)となっているが、条件によってはアントシアニンは青から鮮やかな赤まで変化するのである。

では、なぜ普段は顔を出さないアントシアニンが表面に出てくるのか。これらアブラナ科野菜の場合、よくあるのは寒さに当たることである。特に、ブロッコリーの葉や花蕾に霜が降りると顕著に赤くなる。また、栽培中に肥切れを起こしたときも下の葉から赤くなることがある。つまり、これらはストレスによって生成する。

アントシアニンは一般に紫外線をよく吸収するといわれ、必要以上の光が当たると表皮細胞にあるアントシアニンが紫外線を吸収し、葉緑素を保護するといわれている。このことから、低温になると炭酸同化作用が低下してくるので、過剰の光を吸収するためにアントシアニンが増加してくるのである。肥切れのときの赤色発現については、窒素が不足してくることにより葉緑素(クロロフィル)を分解して窒素を取り込むことによってアントシアニンが目立ってくると思われる。

アントシアニンはアスパラガスなどでも発現し、極端なものとしては紫アスパラガスなどの品種もある。他の品目でも紫キャベツやレッドオニオン、はつか大根など赤くなる品種がある。また、イチゴの赤もアントシアニンである。

アントシアニンはポリフェノールの一種であり、機能性栄養成分として有名である。よく言われるのがブルーベリーなどの視力回復、眼精疲労軽減効果であろう。これらがどの程度の効果があるのかはわからないが、とりあえず一般にそういう認知があることは間違いない。しかし、本来そういう色をしている品目のものの場合は別として、通常緑色をしている野菜類でアントシアニンが発現しているものは、そういう機能性があるにもかかわらずたいていは等級を落とし、単価が下がってしまう。それは、そういう色が出ることが古かったり、傷んだりしているイメージがあるからだろう。アスパラガスでも、紫アスパラならありがたがられるのに、グリーンアスパラで根元が赤く着色しているものは出荷規格ではねられてしまう。このアスパラガスにしても、あるいはブロッコリーなどでもゆでればアントシアニンは退色し、きれいな緑色になるのだが・・・。イチゴでも低温などでへたの部分が赤紫に着色することがあるが、これも傷んでいると誤認されてクレームなどの原因となることがある。

というわけで、今頃の季節はブロッコリーやキャベツなどが赤くなっていても寒さのせいだし、特に今年は生長も遅れているので価格は高めかと思うが品質は悪くないので何とか買っていただきたい。赤い部分を食べてもポリフェノールがたくさん取れたと言うことで、かえって健康にいいかもしれないので(栄養学の専門家には怒られるかな?)ご勘弁いただきたい。

なお、赤い野菜といえばトマトやニンジンなどを思い浮かべる方もおられるかも知れない。しかし、それらはアントシアニンではなく、カロテノイドという物質(群)である。トマトのほうは効酸化作用で有名なリコピンというカロテノイドが主成分で、ニンジンのほうはこれも機能性成分として有名なβ-カロテンである。β-カロテンはどちらかというとオレンジというイメージであるし、実際サツマイモやマスクメロンなどもそうであり、アントシアニンの赤とはずいぶんイメージが違う。こちらの赤には傷んでいるとか古いとかいうイメージはほとんどないが、アントシアニンだって機能性でも負けてはいないので、差別することなくいろんな野菜を幅広く食べていただけると非常にありがたい。

ただし、機能性の部分については、あくまでこれらは食品であるので過剰な期待はしないようにお願いしたい。←とってつけたような結び(笑)。

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化学肥料、何が問題なのか

さて、今まで化学肥料の問題点については色々と論じてきたような気がするので、いまさらという感じもなくはないが、これをテーマとしてまとまった話をしたことはないと思うので、取り上げておこう。

化学肥料を「化成肥料」だとするとその定義は、窒素(N)、リン酸(P)、加里(K)のうちいずれか2成分以上を含み、化学反応をともなって製造された複合肥料のことをさす。ただ、化学肥料というと一般的なイメージとしては、単肥(成分が1種類のもの)でも化学合成されていれば「化学肥料」ということになるだろう。

化学肥料の起源といえば、なんといっても1906年に開発されたハーバー・ボッシュ法による大気中の窒素からのアンモニア合成だろう。窒素は植物の生育に最も大きくかかわってくるが、大気中の窒素分子は極めて安定しており、反応によって植物栄養として使える形にはしづらい(そういうことから考えると、微生物の窒素固定は酵素の触媒としての力に驚愕するしかない)。そのため、工業的に利用するためには高温高圧状態を作り出せる技術が発達することが必要だったのである。それまでは有機窒素かチリ硝石のような天然産物を利用するしかなかったのである。
※ハーバー・ボッシュ法についての詳しい解説はリンク先を見ていただくか、化学に詳しい方の解説をお願いしたい(他力本願)。

ちなみに、今まで何度も解説しているが、植物は窒素成分としてはほぼ硝酸態かアンモニア態で利用する。一部例外としてアミノ酸やペプチドの形でも吸収、利用することがわかっている。詳しくは過去記事を参照いただきたい。

ハーバー・ボッシュ法によって大気中の窒素を利用できるようになったわけであるが、それまでは大気中の窒素といえば主にマメ科植物と共生する窒素固定菌(根粒菌)やそのほか嫌気性の光合成細菌などによって固定されるしかなかった。つまり乏しい窒素量によって作物の生産量は制限されていたのだが、これが化学肥料の登場によって一気に増産が可能になったのである。

化学肥料の特徴としては植物に直接またはすばやく利用できる形態であること、有機質肥料に比べて肥料成分量が多いことなどがあげられるだろう。このため肥料の施用による成分量が正確に計算でき、肥料による植物の生育コントロールが容易である。また、肥料成分量が多いということはそれだけ肥料散布の労力が少なくて済むということにもつながっている。

では、このような良い特徴も持っている化学肥料の何が問題なのだろうか?

現代の農業技術を否定する方々にとっては、そもそも化学合成された肥料成分そのものが自然に存在するものではないため、環境にも人体にも良くないというイメージがあるのだと思う(これは、一言一句そのままの言説を見たというわけではないので、藁人形論法に近いが、そう大きく間違ったものでもないだろう)。しかし、化学肥料はその製造過程における化学反応を人為的に起こしているというだけで、分子の世界で起きていることはまったく同じである。先ほども説明したように、有機質肥料といっても植物に吸収される段階では窒素は硝酸イオン(NO3-)あるいはアンモニウムイオン(NH4+)になっていることがほとんどである。リン酸もリン酸イオン(PO4-)、加里もカリウムイオン(K+)の状態で吸収される。これについてはまったく有機質肥料と化学肥料に違いはない。

ただし、状況によっての違いはあるが、有機質肥料は微生物等によって分解されながらじっくりと肥料成分を溶出させていく。また、はじめから持っている無機成分も塩基類(石灰(Ca)、苦土(Mg)、加里)やアンモニウムイオンなどの陽イオンは有機質肥料に含まれる腐植酸などの持つ陰電荷に引き付けられ、急速には溶出しない。それに比べて化学肥料は土壌水分に溶けてしまえば、急激に土壌中の成分濃度を上げることがあるため、根痛みを起こす心配はある。この場合、省力化につながるはずの成分濃度の高さがあだとなるわけである。農家の中には肥切れを心配するあまり肥料を多投入する人がいるが、こういう弊害もある。

また、化学肥料を使用した野菜類の栽培では特に日本では流亡も織り込んだ元肥偏重による施肥体系で栽培されることが多く、特に硝酸態窒素の環境中への流出も多い。このため、地下水が硝酸態窒素で汚染されるという事態も発生している。この点については資源の有効活用とも連動する話なので、緩効性肥料や側条施肥などの肥料成分を有効活用する技術を進めていく必要があるだろう。

現在の化学合成窒素肥料がすべてハーバー・ボッシュ法およびその類似法によって製造されているわけではなく、他の化学産業における副生成物が流用されている場合も多い。例えば代表的窒素単肥である硫安などは、コークスの製造時に出るアンモニアに硫酸を反応させて作っている。こういった場合、副生成物であるがゆえに予期できない不純物が含まれている可能性も考えられ、こういったものについて健康被害を心配されているならまだ理解はできる。しかし、今のところ私が調べられる範囲では化学肥料の製造過程における不純物での健康被害は見つけられていない。

しかしそれでも、有機質肥料のほうがより自然に近く、環境への負荷も小さいのではないか、との意見もあると思う。

化学肥料による元肥偏重のところでも話したように、有機質肥料の緩効性を生かして環境への肥料成分流出を抑える、という考え方は成り立つ。しかし、有機質肥料の肥料成分溶出は土壌条件や温度、水分に大きく左右され、思ったとおりの肥効が得られないことが多い。特に水稲などでは作型によっては食味に大きな影響のある時期に急激に気温が上がり、効かせたくないのに窒素成分が溶出してしまう、ということがある。また、家畜糞肥料なら季節や飼料によって肥料成分含量は大きく変わり、栽培されている植物にとって最適な肥料バランスにすることも難しい。

とはいえ、化学肥料だけで作物を作っていたのでは土壌は無機の母岩由来の鉱物粒子だけになってしまい、硬く締まりすぎて空気の流通が悪く(根も呼吸を行なう)根が十分に張ることができなくなったり、肥料成分をいったん捕まえてゆっくり離す緩衝力もなくなってしまう。先ほど述べた肥料のやりすぎに耐える力がなくなるのである。また、土が固く締まることにより、排水性ばかりか保水性も低下する。それ以外にも硫安や塩安など生理的酸性肥料が多く、土壌の酸性化を促進することもある。

整理すると、化学肥料のメリットは以下のようになる。
1)肥料成分量が高いため、施用量が少量で済み、省力化になる
2)成分溶出が早く、想定どおりの肥効が得やすい
3)成分量が細かくコントロールでき、植物に合わせた施肥がやりやすい
4)窒素肥料の場合、大気中にほぼ無尽蔵にある気体の窒素を原料にできる

それに対して、デメリットは以下のとおりである。
1)肥料成分量が高いため、施肥過剰になりやすい
2)工業生産物の副生成物が使われることがあるため、予期しない不純物が含まれる可能性がある
3)土壌中の微生物が利用しにくく、土壌物理性が低下しやすい
4)化成肥料の過剰投入により、環境中への肥料成分(特に硝酸態窒素)の流出が増え、また土壌の酸性化を招くおそれがある

以上のようなことから、やはり最適解は有機質、化学肥料のそれぞれをうまく組み合わせ、土壌をいい状態に保ちながら肥効をコントロールすることだと思う。わかりやすく言い換えれば、堆肥で土作りをしながら、肥料成分は化学肥料でコントロールする、ということになるだろうか。もちろん、作物の種類や土壌条件によってその組み合わせは様々に変わってくる。結局は現場でその状態をしっかり把握し、作物の生育状況に土壌診断などを組み合わせ、それぞれに最適なやり方を探っていくことなのだろう。

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