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有機物施用とアミノ酸吸収について

少し前まで、植物は窒素を硝酸イオンやアンモニアイオンなどの無機状態でしか吸収しないと思われていた。もちろん、それが主要な吸収形態であることは間違いないが、最近ではアミノ酸やペプチドの形でも根から直接吸収されることがわかっている。また、たんぱく質であるヘモグロビンのみを窒素源とした水耕栽培で水稲を栽培した場合、稲の根の皮層細胞において細胞膜が細胞内にくびれこんでヘモグロビン粒子を取り込むことも報告されている

無機栄養のみを吸収するという考え方では、土壌への有機物の施用は土壌物理性の改善、塩基置換容量(保肥力)の増大、微量要素の供給、土壌微生物の活性化がその目的となる。しかし、有機窒素源としてたんぱく質を多く含む有機質資材の場合、その発酵(分解)過程で多くのアミノ酸などが生成される事になる。ただ、土壌中ではアミノ酸もそのまま存在していられるわけではなく、土壌微生物の活動によってアンモニア態窒素から硝酸態窒素へと変化していくため、土壌中のアミノ酸含有量は常に変化していると思われる。

それでは、アミノ酸による窒素成分の吸収が無機栄養と比較して植物の生育にどのような違いがあるのだろうか。植物に吸収された窒素成分は大雑把に言うと硝酸態→アンモニア態→アミノ酸→たんぱく質と合成されていくが、その過程でそれぞれ炭酸同化産物と反応する。日照が十分で、光合成が旺盛に行われているうちは硝酸態窒素の吸収のみで問題ないが、冷害のときなど照度が不足していて光合成が十分に行われていない場合はこれらの反応が滞るために硝酸態窒素が植物体内に蓄積していき、軟弱徒長になり、病気にかかりやすくなる。ここで吸収された窒素源がアミノ酸であれば、最初の2つの合成過程(硝酸態→アンモニア態→)が省略できるため、炭酸同化産物が少なくてもタンパク質合成がスムーズにできると言う事になる。このため、この考え方を適用すれば寡日照下でも健全に育ちやすいといえる。このあたりは1970~80年代に東大で研究されていたが、直接リンクできる文献がないので、日本植物生理学会の質問ページへリンクしておく。

ただ、上記リンクにもあるようにどのようなアミノ酸であっても植物の生育に有効であるというわけではない。植物ごとにアミノ酸に対する反応は複雑に違うためただアミノ酸を施用しておけばいいというものではない。アミノ酸を積極的に施用したとしても、土壌中で分解され、すべてアミノ酸のまま吸収されるというわけでもないだろう。

では、有機物を積極的に施用していれば、常に分解によってアミノ酸が供給され、いいのではないかとも考えられるが、それも程度問題である。有機物、有機質肥料であってもやりすぎれば、結局土壌中の無機態窒素が増え、化成肥料をやっているのと変わらない状態になる。また、だからといって化成肥料が悪いというわけではなく、植物の状態に合わせて適正量を施用すれば植物は健全に育つ。何より有機物は植物の必須元素をバランスよく含んでいるわけではない。有機質肥料だけで栽培を行うにしても、その成分を良く知り、うまく組み合わせなければ結局植物は健全に育つことはできない。また、たい肥の連年施用は植物のマンガン、銅などのミネラル不足につながることも東京農業大学客員教授の渡辺和彦氏によって指摘されている。

有機質肥料、資材の施用によって土壌の物理性が改善され、ミネラルやアミノ酸の供給になり、植物の健全な生育に資することは間違いない。しかし、それも程度問題であり、それぞれの有機質資材、植物の性質に合わせて施用することが大事である。アミノ酸は寡日照時などの植物への窒素供給源として有望ではあるが、たい肥など有機質資材の施用だけでは目的とする栄養素の供給がうまくできるとは限らない。私としては、今までにも何度か主張しているが、土壌診断を実施しつつ、たい肥など有機質資材で土づくりを図りながら有機質、化成にこだわらずバランスよく肥料の施用を行うのが理想ではないかと思っている。

ところで、化成肥料を忌み嫌う人もおられるようだが、何度もいうように化成肥料が悪いのではない。その性質をきちんと理解せず、使いすぎる人間側の問題である。化成肥料に含まれる硝酸態窒素、アンモニア態窒素と有機物を分解して得られるそれらとは何の違いもない。化成肥料は微量要素も含めて土壌中の栄養バランスを矯正するのに向いているし、栄養素の含有量が多いため施用労力も少なくて済むのである。上でも述べているように、たい肥と有機質肥料、化成肥料をうまく組み合わせて上手に使うことが土壌・肥料の点において栽培を成功させるコツである。

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