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厄介な植物のウイルス病 ~アザミウマが媒介するトスポウイルスとは~

植物病害のうち、糸状菌や細菌の場合、胞子の飛散や土壌、水媒伝染などにより病気が拡散しますが、ウイルスは基本的には生体内でしか増殖、生存できませんのでそういった伝染形式はほとんどありません。直接の接触や剪定鋏での作業などによる汁液感染、害虫のアブラムシやアザミウマ、コナジラミなどを通じた虫媒伝染、挿木や接ぎ木、花粉や種子などの生体内に残存しての世代間伝染などになります。

そこで、対策ですが同じほ場内部での汁液感染については、作業する上において発病株の早期発見と剪定用の鋏などを随時消毒や交換しながら使うなどの工夫をすることがポイントになります。世代間伝染ではいわゆるウイルスフリー株を使う、またはそれらを使って生産された無病の挿し穂や苗を使うことが対策となるでしょう。

厄介なのが虫媒伝染です。最近メロンやキュウリで猛威を振るっているメロン黄化えそウイルス(MYSV)はミナミキイロアザミウマが、トマトに甚大な被害をもたらすトマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)はタバココナジラミ(シルバーリーフコナジラミ含む)が媒介します。

TYLCVについては、最近になって耐病性品種が多数開発され、比較的容易に、また品質も従来品種と変わらず生産できるようになってきています。もちろん耐病性品種といっても、まったく発病しないわけではないので、従来通りの防除は必要です。

露地栽培では侵入防止対策が極めて難しく、施設栽培でもネットの展張などの侵入防止対策をしても、100%の侵入防止はほぼ不可能であると言えます。アザミウマなどの微小害虫が通過不可能なネットだと換気効率が極端に落ちるため現実的ではありませんし、たとえそういうネットなどを使用したとしても作業者の出入りなどの際に侵入があったり、気を付けているつもりでもビニールハウスなどではどこかに隙間はできるものです。

ですが、完ぺきではなくても例えば0.6mm目合いのネットではアザミウマなら侵入率を30%程度までには下げられますし、光線を拡散する資材(白いタイベックシートなど)をほ場周辺に使うことでアザミウマやアブラムシなどの視覚をかく乱して飛翔を妨害し、侵入しにくくすることはできます。

また、それでも不幸にして黄化えそ病などの致命的なウイルス病が発生してしまった場合、発病株の抜き取りと適切な処分(ビニール袋に入れて廃棄、土中への埋設、焼却など)を行い、同時に保毒虫の撲滅を目的とした薬剤による防除が必要になります。

さて、虫媒(主にアザミウマ)伝染によるウイルス病の防除対策についてお話しして来ましたが、メロン黄化えそウイルスなどトスポウイルスの場合、アザミウマが一度ウイルスを含む汁液を吸っただけで生涯にわたって感染能力を持ち続けるのですが、それはなぜでしょうか?

実は、トスポウイルスは、種としては動物ウイルスBunyaviridac科の仲間に含まれ、その中でもMYSVなどはアザミウマの体内で増殖が可能なのです。主に1例幼虫の時に保毒植物から吸汁してウイルスを獲得し、その後アザミウマの体内を移動し、唾液腺に到達してそこで増殖しながら植物への感染機会を待つ、という戦略をとるわけです。また、それらのウイルスはアザミウマの行動も制御し、感染植物には雌成虫が集まりやすく、強い産卵選好性もあるという報告もあります。元になる文献が確認できていませんが、トスポウイルスは元々アザミウマなどに感染するウイルスが変異したものではないかという説もあるようです。

それにしても、元々アザミウマのウイルスだったのならアザミウマとの共同で植物を冒すのではなく、アザミウマの方を脅かしてほしいものですね。

参考サイト:
『むしコラ』 虫媒性ウイルスの巧妙な手口

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コメント

にんにくのスポンジ玉について
青森県では一つ玉あるいは玉ねぎ玉と呼んでいます。
発生条件:鱗片分化期前の給水量増大とチッソ過多(副次的に高温がこれを促進する。)とみています。
寒地の青森県ですが、ハウス栽培にんにくでは作り方を知らないとてきめんに発生する症状です。ご参考まで

投稿: 長谷川修 | 2018年6月21日 (木) 14時34分

>長谷川修さん
コメントありがとうございます。二年近く気づかなくて申し訳ありません。

窒素過多はこちらでも言われていますし、経験的にその傾向はあると思います。こちらではトウ立ちすると鱗片分化は確実になりますので、栄養生長と生殖生長の切り替わりが鍵になっていると思われます。なので、窒素が効くタイミングが重要なのかな、と…。

投稿: がん | 2020年5月 2日 (土) 19時00分

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