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2014.10.07

日本人イスラム国兵士志願問題が微妙に面白い

 日本人イスラム国兵士志願問題が微妙に面白い。不謹慎な、と思われるかもしれないが、微妙に面白いのである。ブログのネタにしかならないんじゃないかというくらい。
 昨日、イスラム過激派組織「イスラム国」の志願兵になろうとしてシリア渡航を計画したとされる日本人の大学生の関係先が捜索を受けた。日本人からもイスラム国への志願兵が現れたのかと、驚きをもってそのニュースを聞いた人もいるだろう。私もその一人だった。しかし、どうもこの問題、シリアスな問題というより、微妙に面白い。
 なにより、この問題の発端となる募集が単なるイタズラだったようだ。
 このネタは以前からネットのネタで流れていたのは私も知っていた(参照)。まさか、このネタがこの事件の募集張り紙だったとは思わなかったが、NHKの報道映像を見たら同じだった。

 NHK報道によると背景は次のように、ただのイタズラだったらしい(参照)。


 その後の警視庁の調べで、大学生は東京・秋葉原の古書店にあったシリアでの勤務を募集する貼り紙を見て応募していたことが分かりました。
 貼り紙はことしの春に貼られ、「求人」、「勤務地:シリア」などと書かれていたということです。
 貼ったのは古書店の関係者の男性でNHKの取材に対し「誰かに頼まれたのではなく、これを貼ればどうなるかと思って、おもしろがって貼っただけだ」と話しています。
 また、この関係者は応募してきた複数の若者をイスラム法学が専門の大学教授などに紹介したということです。

 つまり、元々ツイッターとかに流されることを想定した上でのバイラル用のネタだったと理解してよさそうだし、流れて来たこのネタについて、私もまたネタかあと笑って終わりにした。
 で、このネタに警視庁がまじめくさってぱくついたのはなぜなんだろうか?
 しかも、当初の報道はけっこう大まじめに読めるものだった。「日本人 「イスラム国」に参加計画か」(参照)より。

警視庁によりますと、この大学生はシリアに渡航する求人に応募し、渡航を計画したということで、任意の調べに対し「シリアに入ってイスラム国に加わり、戦闘員として働くつもりだった」と話しているということです。

 しかし、そもそも求人はネタではないかと思われるのに、どうしてこういうふうな情報を警察は流したのだろうか。
 理由を少し考えてみると、その「求人に応募し」というのは疑問だとしても、学生がシリアに渡ろうとしたことは本当だったのかもしれないからだろうか(参照)。

 イスラム過激派組織「イスラム国」に戦闘員として加わるためにシリアに渡航しようとしたとして日本人の大学生の関係先が捜索を受けた事件で、この大学生が7日、成田空港から出国する計画だったことが警視庁への取材で新たに分かりました。
 ことし8月にも渡航しようとしていたということで、警視庁で詳しいいきさつを調べています。

 トルコ経由でシリアに行こうとしても別に違法でもないし、手引きする裏の組織についてこの時点ではなんら報道もないので、このニュースもよくわからない。印象だと、特段に計画もなく、とにかく「シリアに行く!」と騒いでいた変な学生さんということのような印象は受ける。そう思える報道も出て来た。FNN「「イスラム国」戦闘員事件 北大生の男「なれないなら自殺する」」(参照)より。

 イスラム過激派組織「イスラム国」で戦闘員になるために、北海道大学生の男がシリア入りを計画していた事件で、男は、ジャーナリストのインタビューに、「義勇兵になれないなら自殺する」と話していたことがわかった。
 シリア行きを計画していた北大生は「そこには戦場があって、全く違う文化があって。イスラムという強大な宗教によって、民衆が考えて行動している。このフィクションの中に行けば、また違う発見があるかな。それくらい」と話した。
これは6日、「イスラム国」で戦闘に参加する私戦予備の疑いで、警視庁公安部の事情聴取を受けた北海道大学生(26)が、取材のため、一緒に渡航する予定だったフリージャーナリストのインタビューに答えたもの。
 男は、この中で「義勇兵になれないなら、自殺すると思う。たとえシリアで死ぬことになっても同じことだ」と話していたという。
 インタビューをしたジャーナリストの自宅も、6日、家宅捜索を受けていた。
 フリージャーナリストの常岡浩介氏は「警視庁公安部捜査員7人が来まして、支度している機材を洗いざらい押収していった。『(北大生は)もしもシリアに行かないとしたら、ことし中か、来年にも、間違いなく自殺しているから、シリアで死ぬことになっても、全く変わりがありません』という言い方をしていた」と話した。
 男は、秋葉原の古本を扱う書店でシリア入りを募るビラを見て、シリアに渡航歴のある元大学教授の手配で、トルコ経由でのシリア入りを計画し、イスタンブールに向け、7日、成田から出国する予定だった。
 この元教授は、8月にも今回の北海道大学生と、千葉県出身の23歳の元アルバイトの男性をシリアに連れていく予定を立てていたが、男性の親の反対などにより、頓挫していたという。
 警視庁は、7日朝からこの元教授の関係先を捜索し、裏づけ捜査を行っている。

 相談に乗った常岡浩介氏によるとどうもこの大学生には特段イスラム国に賛同して志願兵になりたというものでもないようだ。一種の鬱憤晴らしみたいなものようでもある。
 その後、ツイッター周りの情報を読んでいくと、該当の学生さんはその界隈では有名な人らしく、どうやら、イスラム国への支持というわけでもなそうだ。
 警察の対応も、その異常さ加減が微妙だ。なんで「刑法93条 私戦予備及び陰謀罪」なんか持ち出してきたのだろうか。
 これ、ちなみに、法的な根拠はNHK報道ではこう(参照)。

 刑法の私戦予備及び陰謀罪とは、外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その準備または、陰謀をした者を罰する規定で3か月以上5年以下の禁錮刑にするとしています。
国家の意思とは無関係に私的に外国に対して武力の行使を行う目的で武器や資金の調達、それに兵員の募集を行うことなどが、「準備」に当たるとされています。
また、「陰謀」とは、2人以上の人が戦闘を実行するために謀議などを行うこととされています。
 この規定が実際に使われるのは、極めて異例です。
 中東地域の紛争に詳しい桜美林大学の加藤朗教授は「日本でこうした法律が適用されるのはこれまで聞いたことがなく、大変驚いている。イスラム国はプロが作ったような宣伝用の動画をインターネット上で公開するなど世界を対象に巧みな宣伝活動を行っていて、イスラム教の教義を知らない日本人でも、影響を受けかねないと思う」と指摘しました。

 警察としては、これ死文化していると思われるのもなんだから、ちょっと使ってみようかというノリだったのかもしれないし、この死文ならみなさんも警察の冗談だってわかるよねって親心だったのかもしれない……それはないだろうなあ。ただ、親心じゃないけど、パターナリスティックに日本人に脅しをかけたという意味合いはあるだろう。なんかそれでも権力の濫用だなあというのも面白い……いや面白いと言っていいか微妙かあ。
 そういえば、これ当初朝日新聞が「逮捕」と誤報を出していたが(参照)、どうにも、そもそも逮捕できるような事件ではありませんね。
 まあ、微妙に面白いということについては以上の通りで、もっとこの学生さんについての情報など(参照)を掘ると面白おかしく書けるのだけど、率直に言って、この学生さんがこの事件の中心的な課題ではない。
 ただ、これ、イスラム国と関係ない実に日本人らしい頓珍漢な話だよなで終わるかというと、ちょっと考えてみると、欧米からイスラム国に参加する若者も案外この程度のノリというか、いや生死も賭けているくらいだからこの程度とか言っちゃいけないのだろうなとは思うが、この日本の学生さんが言ったみたいに「そこには戦場があって、全く違う文化があって。イスラムという強大な宗教によって、民衆が考えて行動している。このフィクションの中に行けば、また違う発見があるかな」として乗り込んでヒャッハーしちゃうということはあるのだろう。
 その意味では、イスラム国の問題がきちんと日本に日本らしく影響したということかもしれないとも思う。
 
 
香港・真正的普選
 
  

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「時事」カテゴリの記事

コメント

この方、北海道大学・数学科の学生ですよね。
私も数学科に居たので直接的ではないですがTwitterを通して知っています。(余談ですけど、数学を専攻している人って書いている内容で結構分かっちゃうんですよ。分野の壁が高いので、専攻まで分かってしまいます。)

ネットだと気違いみたいにいわれてますけど、自分がTwitterで見ていた限りでは、非常に頭がよく真面目な人だけど思い込みが激しい、という感じがしました。結構大変な経験をしてきた人なんだなとも。
(まあ、気違いの真似したら気違いという言葉もありますが。)

一緒に住んでいたという人(大司教ってアダ名の人)も元々東京大学・数学科の人ですね。数学科ということで話が合ったのかなと思います。やっぱりものの考え方が似ますから。あそこらへんは旧帝大の数物系や人文系の人達が集まっている感じですね。学歴とか言いたい訳じゃないですけど、研究したい人ってやっぱり旧帝大に集まっちゃうんで。学問系の界隈って滅茶苦茶狭い世界ですよね。2ホップで全員に辿り着けるくらい。
まあTwitterのアカウントも絶賛運行中ですね。

今回の件は、全体的には記事の通り学生の悪ノリという結論になると思いますが、記事の通り実際にシリアに行こうとしてみたいだし、洒落にならないところにならなくて、よかったなぁとも思ってます。
やっぱり、殺されたみたいな話が出てくるのは嫌ですから。

投稿: 唯の感想です | 2014.10.07 23:37

世界中に「挫折した高学歴者の鬱憤の行き先としてのテロリズム」というテンプレがありますけど、実態はこういう下らないものなのかな、という気もします。日本もこれまで知らなかったけど、そういう土壌を整備しつつあるのかな、という。
不謹慎ながら、妙な面白さのある変な事件ではあるのですが、この日本的な幼稚さが束になって一定の影響力を持ったりするような未来はちょっと怖いです。ありそうな気がするだけに。

投稿: toggle | 2014.10.08 00:30


『気分はもう戦争』(1982:矢作俊彦・大友克彦、双葉社)

投稿: 昨日な世界へようこそ | 2014.10.08 05:58

日本赤軍のこと思い出すと、警察も過敏になるのかもしれませんね。
国際ニュース見ると欧米だけでなくイランでもイスラム国に参加しようとしていたとして若い人が逮捕されたそうで、この件は日本の警察も、そういう世界的流れに合わせようとしているのかな。

投稿: nessko | 2014.10.08 13:07

まあ、人種にかかわらず、参加したい人が一定数いるのはごくごく自然なことでしょう
今回の学生さんについては、かなり前向きな理由だったと思いますよ

ネット含む各種メディアで、検閲じみた、いわゆる脅しがあるだけで
実際にこの学生を批判しているのは面白がった子供くらいじゃないかと


何らかのテンプレートは必要なんでしょうけども
今回みたいに後ろが見えると、ていのいい吊し上げに見えてしまって
信頼を失うというか、やるせない気分になります

そういうところから、イスラム国側に行ってしまう人もいるでしょうし
そこで充足を得られるかは別問題としても、そういう選択はあり得るのでしょう


まあ、イスラム国の動画を見ていると、異教徒は殺せ!とかやってて
国家として認められたがっているというよりは、イスラム的なものへのヘイトを煽っているようにしか見えない、、、と言ったら穿ち過ぎかも知れませんが

いまいち、ああいう人たちの思考レベルが読めないんですよね

投稿: ad | 2014.10.09 16:35

他の先進諸国でもイスラムに傾倒してというより、社会に対する不満や自分の将来への悲観からイスラム国に参加してしまう若者が多いのです。
別段面白くもないし、日本だからという訳でもないし、警察の反応も異常ではありません。寧ろちゃんと仕事してたんだなって久々に思いました。

投稿: | 2014.10.09 18:38

こういう、リアリズムに欠けたファンタジーな若者が「シリアは遠いから日本で戦争始めるかー」みたいなノリで何かやらかしそうな。そうならないといいけど。

投稿: tamtamoo | 2014.10.10 01:54

てっきり、日本赤軍の逃亡犯が関わっていると思っていたが。まあ、派遣やフリーターで仕方なく?働いている若者よりはマシだと思うので、行かせてあげれば良かったのでは?

投稿: ♪春の木漏れ日の中で | 2014.10.12 18:35

イスラム国は怒らせてはいけない国、日本をなめすぎだ、イスラム国を滅する時だ。日本人を知らないかも知れないけど。

投稿: ケルブ | 2015.01.20 17:11

私戦予備の適用については、今後の成り行きの方に興味が湧きます。

安保理決議2718を読んでみると、「・・・訴追し刑罰を科すことができるように、国内法令の重大犯罪に関する規定を確実に調整しなければならないと決定する。」という一文もありました。

湯川氏、後藤氏の殺害という最悪の結果を経た現在、この事件が報道された時とは、テロに対する現実味といいますか、切迫感が随分と異なるように感じます。

現状が、私戦予備の適用では「そもそも逮捕できるような事件ではありませんね」ということであれば、改正または新法により確実に渡航を禁止できるような方向へ、議論が進みそうな気がします。

投稿: 須永均 | 2015.02.02 03:30

この渡航歴のある元大学教授という中田氏とやらが口利きしたせいで,己れも 湯川遥菜さん救出の、出発日に警察の捜索が自宅に入り,いっしょに湯川さんを救いに行く予定の常岡浩二さんまで家宅捜索で, イスラム国の幹部との面会も通信手段も切れてしまい, 後藤健二さんがかわりに湯川さんに行く羽目になってしまい,あげく公開処刑で,
 ほんっと最初のボタンのかけ違いの始まりは,この中田氏とやらの北大生のISILへの手引きである.(イスラム学者なのでISIL員と知り合いなのは特に問わない.)
なんと中田氏は罪なことをしてしまったのだろう。(この大学教授の下の名は「考」)

投稿: 木村由起子の教え子 | 2015.02.20 17:30

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