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2005.09.26

孤独死問題への違和感

 私はテレビをリアルタイムで見ることはほとんどないのだが、先週土曜日、台風の進路が気になって夜九時前にNHKをつけ、たまたま消し忘れていたら、NHKスペシャルが始まっていた。テーマは孤独死。タイトルは「ひとり 団地の一室で」(参照)。


 いま、全国各地の団地では、誰にも看取られずに亡くなる、いわゆる"孤独死"が相次いでいる。常盤平団地でもこの3年間で21人が孤独死した。その半数が40代、50代そして60代前半までの比較的若い世代の男性だった。

 へぇと思ったのが運の尽きでなんとなく小一時間見てしまった。
 NHK的な話の展開としては、団地のボランティア組織「孤独死予防センター」の活動をヒューマニズム的に描いていた。確かに活動されている人は立派だと思う。
 だが話の全体から受ける印象は、私には奇妙な後味を残した。もちろん孤独死という問題そのもの重要性や、未婚者・パラサイトといった人々の増える日本の未来の暗さというのもあるのだが、なにか問題設定が間違っているような印象を受けた。なんだろうかとつらつら考えてみたが、はっきりとはわからない。が、少し書いてみたい。
 まず、団地の孤独死というのが団地というもののありかたと歴史的に結びついているのだろうかという疑問がある。NHKの番組の該当番組は常盤平団地を対象にしていたこともあり、その歴史背景についてはこう説明していた。

 総世帯数5,300戸を抱える常盤平団地は、昭和35年、全国のニュータウンの先駆けとして誕生した。ダイニングキッチンや洋式トイレなど、最新の設備を備えた団地は、当時"夢の住まい"として入居希望者が殺到した。
 しかし団地は変貌してしまった。高齢化が進み、住民は年々減少。単身での入居も認められるようになり、独り身の男性などが、数多く移り住むようになった。
 長年支え合ってきた古くからの住民は、地域の絆を取り戻し、"孤独死"を防ぐために動き始めた。

 このあたりの説明が番組の映像でもぼやけていたように思う。というのは、団地住民の高齢化が孤独死をもたらしているのではないようだ。そうではなく、団地という居住のありかたが廃れ、新しくそこに流れ入る単身の人々に孤独死が発生しているようだ。
 そして、その単身の人々というのは男性が多い。さらに、番組で特に私は奇妙に思ったのだが、単身者には中国人も多そうだ。なぜなのか。言い方はよくないのだが、孤独死リスクの高い人を政治的にこうした団地に集結させているようにも見える。そうした政治はどこから発生しているのだろうか。
 別の面でこの番組で奇妙に思えたことに、番組で描かれていた孤独死は現代の平均寿命からすると高齢者とは言えそうにないというのがある。以前からそうだったのだろうか。気になったので、十年以上前の新聞を眺めてみたのだが、一九九八年の読売新聞大阪版”大阪市の「孤独死」10年で3倍 男性が多数 京都府立医大講師ら調査”(10.31)には、こういう示唆的な記事がある。

 死後一週間以上たってから自宅で見つかった「孤独死」が、大阪市内で十年間に約三倍に増え、男性が全体の八割を占めていることが、京都府立医科大法医学教室の反町吉秀講師らの調査でわかった。阪神大震災後、仮設住宅での被災者の独居死亡が問題になったが、反町講師は「被災地だけの問題ではない。社会的な要因を分析する必要がある」と話している


 反町講師らは、死後一週間以上たってから自宅で見つかったケースを独自に「孤独死」と見なして、大阪府監察医事務所が扱った大阪市内の死体検案書を分析。孤独死は八五年が七十四人、九〇年が百二十四人、九五年が二百一人で、十年間で二・七倍に急増した。死者数をそれぞれの年の国勢調査に基づく同市内の単身世帯数で割った「孤独死率」も十年間で一・九倍。
 いずれの年も男性は八割を超え、九五年は百六十一人(80%)。年齢別にみると、女性は六十五歳以上のお年寄りが占める割合が78%と多いのに対し、男性は六十五歳未満が65%で壮年世代が目立った。

 十年くらい前までは孤独死という判定に「死後一週間」という条件の含みがあったようだ。が、その後の関連記事を経時的に見ていくと、次第にそうした条件期間の意識が薄れていく。
 孤独死の記事をさらに十年間経時的に見ると、阪神大震災の仮設住宅に関連したものが多いのだが、それらを除くと、時間の推移によって、高齢者の孤独死から六十歳未満の男性へと話題の焦点が移っていくように感じられる。これらは単に話題の作り方というより、実態側の変化なのだろう。
 全体的な傾向として現時点では、孤独死は高齢者の問題というより、中高年男性の自殺などと関連しているようだ。極めて男性学的な問題にも思える。
 フェミニズムが女性学であったかどうか私はわからないが、いずれにせよ社会に根ざした性差がもたらす不平等の構造的な解明を求めたものであれば、同じ理論の枠組みからこうした中高年男性の孤独死について性の問題から説明しうるのではないか。しかし、私はそうした説明の試みを知らない。

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「社会」カテゴリの記事

コメント

中高年男性の自殺の多さは、いじめを苦にした自殺が男子生徒に多いことと合わせて、伊藤公雄さんがとりあげていたように記憶しています(『男性学入門』)。今手元に本がないので確認できませんが。まあ、いずれにしても男の問題ですから、フェミニズムとか女性学に頼るのではなく(それはある意味ないものねだり)、関心がある男性が自分の手でとりくむべき問題でしょうね。

投稿: たかはし | 2005.09.26 19:42

政治的に集結させている、というのは行政が裏で干渉しているという意味でしょうか?地域の不動産業界がそうしむけているということでしょうか?そうであればユニークな見方ではありますが、全国津々浦々でそこまで意図的にやれるとは思えません。もちろん裏付けるソースもありませんが。(特定の地域においては影響力を及ぼせる集団が意図的にやっているということはあるかも)

あるタイプの人々に孤独死が集中しているというのは納得がいきます(それが中高年男性というのも)。
自分としては、そういう人たちが住まいを選ぶと似たような場所になるというのが当たっているような気がします。意図的に他が集中させずとも、経済要因、周辺環境等でそれはどうしても自然にある程度絞り込まれてしまうのではないでしょうか。

上の記事を読んで、昔、老女のホームレスや精神を病んでいる若いホームレスを初めて見た時感じた驚きを思い出しました。今では中高年男性以外のホームレスもそう珍しくはないでしょうが、初めておばあさんのホームレスを見たとき、逆に自分は自分の感覚が中高年男性のホームレスは当たり前の存在と感じていることに驚いたのでした。ホームレスが単に収入だけの問題で起こっているならあれほど男性女性の構成が偏るわけもないし(というかむしろ老女のほうが多くなるはず)若い人だってもっとたくさんいてもいいはずなのに、実際に見かけるホームレスはなぜこれほど中高年男性に偏っているのだろう、と。
個人的には、これは同じ問題であり、それを別の角度から見ているだけなのだと思います。

投稿: 印象派 | 2005.09.26 21:35

>言い方はよくないのだが、孤独死リスクの高い人を政治的にこうした団地に集結させているようにも見える。そうした政治はどこから発生しているのだろうか。

東京下町、我が家の前に東京五輪のころに建てたアパートが5棟あります。4年間で6人の孤独死をだしましたが内二件は区役所の人が発見しています。
他は腐臭で通報というケースですね。ここ10年くらい中年男性の単身者の入居が増えました。見た目にも障害者だとわかる方がほとんどです。障害があれば生活保護を受けやすいのでしょう。大家の方も区役所が保証人代わりですから家賃の取りっぱぐれはありません。その大家もあまりの孤独死の多さに考えをあらためて二棟は閉鎖してしまいました。「こういうアパートがないと困ります」役所の担当者の声です。

都では昨年からホームレスの支援事業を本格化させていますね。
" 都の計画では、2年間で2000室を確保し、家賃は月額3000円程度。新年度より順次実施する予定。"
http://www.npoweb.jp/news/news_info.php?article_id=1539

いいことだと思いますが、これでまた孤独死は増えます。松戸市常盤平団地のケースは不明ですが行政の斡旋で入居した人も多いのではないでしょうか。性差どうかわかりませんが男って一回でも躓くとだめなんですよね。コミュニケーション下手だし。


投稿: オヤジ | 2005.09.26 22:47

 田舎だと、まずあり得ない現象ですな。
 孤独死の代わりに「徘徊死」がありますわ。
 多少のキチガイ・痴呆なら家族が責任持って最後まで面倒見ますし。痴呆徘徊→行方不明→山狩り→どっかで腐って発見、が普通じゃないかと。

 政治的な意図がどうたらで一箇所に集結してるんじゃなくて、都会的な人情(機能・実力優先主義)の網の目からこぼれて行き場がなくなったのを、受け入れやすい地域が受け入れているだけというか。

 そうやってなんか政治的な意図が? みたいな考え方する根底に、如何にも都会的な無責任さがあるって自覚はありますかな?

 都会っ子は「基本的に誰からも放っとかれてる」から、いざとなったら逝くとこまで逝くだけでしょう。ご当人の資質(障害持ち等で社会的に振る舞えない・苛めや孤立に弱い)よりも、立場上必然の要素のほうが重要なんじゃないかと。

 都会に住んでるか(田舎でも)身寄りの無い暮らしをしてれば、誰だってああなるでしょ。

投稿: うんこ | 2005.09.27 08:15

「生活保護」という単語が出たので、私の近所にある実例をば。

 某年金生活者で、生活保護を受けている方がおります。いわゆる田舎の老夫婦で、パッと見た感じ、べつに障害がどうとか性格的にどうということもない、普通の老夫婦。
 で、たまたま親戚に商売やってて他家の内情に詳しい人が居るんですが、その人に聞いた限りだと
※年金収入が月15万円ほど
※生活保護を受けているので月18万円支給。
※息子が3人居て、各5万円づつ仕送りを受けている。
※自宅は持ち家。資産はそれなり(貧乏人なり)にある。
※軽自動車支給。
※月の実収入は50~60万円程度。ゆとりある生活をしているので、2,3ヶ月に1回、海外旅行をしている。
 とのこと。

 生活保護の基準って各自治体ごとにまちまちで、うちの田舎の場合、軽自動車が支給されます。車検も無料。壊れたら別途支給。田舎ですから足が無いと話になりませんし。
 持ち家等の資産があっても、受給されるみたいです。そのへんのカラクリがどうなってんだか知りませんが、審査が相当甘いかズルしてるか、どっちかなんでしょう。

 一方でそういう実態があって、親戚の御仁も相当憤慨してましたが(私も)、保護されちゃったモンは、しょうがない。
 行政の歪みって、こんなところにも出てるんだなと思うこと夥しいですね。
 その一方で孤独死問題があるという話を聴くに、やっぱ世の中不平等だなぁとか、知恵のある奴は上手いことやりますなぁとか、そういうことを考えますな。

 都会っ子の繁栄なんて、行政の面倒見なんて、所詮その程度のものでしょう。
 金が仇(かたき)の人間関係なんざ、所詮そんなもんですわ。

投稿: うんこ | 2005.09.27 08:43

他の都市はしりませんが、東京では団地、アパートでの孤独死、行旅死亡人とも圧倒的に地方出身者が多いんです。路上生活送るんでも顔見知りの多い地元は避けますからね。行旅病人でも自分の本名、出身地をなかなかあかさない。忘れた、記憶がない、こう言い張ります。
極東病院があったとすると、極東53男、極東67子などナンバリングしている病院もあるほどです。これでも医療保護は受けられる。大都市や公営団地が掃き溜め化するのは避けられません。そういった中で昔ながらの共同体を維持することは困難になってきました。「火の用心しゃっしゃりませー」と町内を巡回すると「うるせー」と怒鳴られるんですから。

投稿: オヤジ | 2005.09.27 10:58

 アパート、団地が老朽化してくると、他の物件と比べ家賃、入居基準を下げなくてはなりません。そうなると必然的に低所得者の方や身元が明確でない方などが入居してきますし、孤独死が増えてくるのではないでしょうか。また、県営○○団地などの公共団体で運営しているのは特に社会弱者の方が低家賃で優先して入居出来るためだとも思われます。

投稿: | 2005.09.30 11:01

 常盤平団地に、この春から住んでいます。自分が住んでいるから申しあげたいですが、
ここは決してハキダメではありません。
 ただ単身者が多いのは、本当です。生活保護の方も多いです。

 わたしは、単身者の女性ですが、生活保護ではありません。うつ病のため、精神病院に通っており、休職中です。
 この団地に単身者が多いのは、安いのと、
もうひとつ公団住宅は、保証人がいらないためです。わたしは、高知県の出身ですが、親族はひとりもいません。

 前に、不動産やさんに行ったら、「親類の保証人がいない者は、本人が就職していても貸せない」と、断られてしまいました。仕方なく、レオパレスを借りていたのですが、高かったです。公団住宅が保証人がいらないと知り、助かったと思いました。

 ということで、安くて保証人のいらない常盤平団地は、大変ありがたい住処です。
 繰り返しますが、ここでも一生懸命、生きており、決してハキダメではありません。
 
 

投稿: 山田まさ子 | 2005.10.14 20:36

病院でチューブやらなんやらを入れ回られて死ぬのも嫌ですけど、自宅で孤独に死ぬというのは寂しいですね。
人間、静かに消える事はできないものでしょうか・・・

投稿: 山するめ | 2010.02.07 07:36

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