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2022年7月18日 (月)

河野龍太郎『成長の臨界』

28340 パリバ証券の河野龍太郎さんから『成長の臨界』(慶應義塾大学出版会)をお送りいただきました。ありがとうございます。最近ヒットを連発している慶應出版会の増山さんの手になる薄緑色の表紙の重厚な本です。

https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766428346/

 「別の未来」は手にできるのか?
ローマクラブの『成長の限界』から50年、世界経済は新たな局面に突入している。地球風船は永遠の繁栄が続くという幻想を極限まで膨らませ、いつ破裂してもおかしくない緊張の中を漂っている。現状はもはや維持できないのか? 新しい秩序はどう形成されるのか? 著名エコノミストが経済・金融の視点からのみならず、政治学・歴史学・心理学などの知見も交えて現況を怜悧に分析し、迫り来る次の世界を展望する、読み応え十分の一書!
▼経済・金融分野でわが国きっての実力派エコノミストが満を持して書き下ろした本格経済解説書!
▼単なる時事解説とは一線を画す、深い洞察を伴った現代経済社会分析。 

リンク先の目次を見ればわかるように、まことに広範な領域を片っ端から一刀両断して回るような本です。とはいえ、いわゆる経済論壇の関心はいわゆるリフレ派やアベ政策を批判的に扱う第5章の金融政策や、はやりのMMTにも批判的に言及する第6章の財政政策にあるのでしょう。しかし、それだけに着目して読むのはあまりにももったいない。

恐らくわたくしのようなものにも送られてきたのは、「第3章 日本の長期停滞の真因」の「3 日本型雇用システムの隘路」で、わたくしの議論を引きつつ、日本のメンバーシップ型が変容して労働市場の二極化という問題を生み出していることを、経済停滞の一因として指摘しているからでしょう。

一昨年以来「ジョブ型」「メンバーシップ型」を口走るエコノミストはやたらに増えましたが、きちんと深い認識をもって語る人はそれほど多くありませんが、河野さんはさすがにその社会システムとしての複雑な連関をよく理解したうえで論じています。

ブログではよく取り上げた話ですが、(自分の専門分野ではないためもあって)活字ではほとんど論じたことのない「スマイル0円が諸悪の根源」系の生産性の議論と通じる一節もあります。

諸外国に比べてサービスの水準が高いのに、それを安く売るものだから(付加価値)生産性が低くなるという話を、消費者余剰が大きいという風に解説します。このあたりの文章は、私の言いたかったことを経済的に説明するとこうなるんだな、という感慨でした。

という具合に、一つ一つのトピックをいちいち取り上げて論じていくときりがありませんが、経済学の門外漢としては、やはり第5章と第6章で一刀両断される「様々な意匠」への批評の鋭さが印象的でした。ああ、広くて深い議論というのはこういうのをいうんだな、と、ページをめくりごとに感じさせられる本というのは、それほど多くあるわけではありません。

はじめに

第1章 第三次グローバリゼーションの光と影

 1 ホワイトカラーのオフショアリングが始まったのか
 2 権威主義的資本主義 vs リベラル能力資本主義
 3 ICT革命と際限のない人類の欲望の行方

第2章 分配の歪みがもたらす低成長と低金利

 1 債務頼みの景気回復が招く自然利子率の低下
 2 常態化する「資本収益率>成長率>市場金利」の帰結
 3 経済成長と社会包摂の両立
 4 テクノロジー封建主義の打破

第3章 日本の長期停滞の真因

 1 「失われたX年」はいつまで続くのか
 2 過度な海外経済依存が招く内需停滞
 3 日本型雇用システムの隘路
 4 日本人は2010年代に豊かになったのか

第4章 イノベーションと生産性のジレンマ

 1 景気回復の長期化と生産性上昇の相剋
 2 日本企業のイノベーションが乏しいのはなぜか
 3 消費者余剰と生産性の相剋
 4 グリーンイノベーションの桎梏
 補論 外国人労働と経済安全保障

第5章 超低金利政策・再考

 1 「デフレ均衡」崩壊までの距離
 2 漂流する日銀の金融政策
 3 公的債務管理に組み込まれる中央銀行
 4 円高回避の光と影

第6章 公的債務の政治経済学

 1 財政政策の復活と進行するMMTの二つの実験
 2 超長期財政健全化プランの構想
 3 人類の進化と共感

第7章 「一強基軸通貨」ドル体制のゆらぎ――国際通貨覇権の攻防

 1 金融イノベーションの帰結
 2 ドル一強とその臨界
 3 「トゥキディデスの罠」を避けられるのか

終 章 よりよき社会をめざして

 1 豊かだが貧しい社会
 2 成長の臨界
 3 コミュニティ再生のためのヒント
 4 多面的にアプローチする視点を持つ


おわりに

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