2024年ベスト経済書、2位と3位はこの書籍だ!@『東洋経済』
昨年12月23日に発行された『週刊東洋経済』で発表された2024年ベスト経済書の記事がアップされました。わたくしの『賃金とは何か』(朝日新書)は第2位ということで、わたくしのインタビューとお二人の方の推薦文が載っています。担当は東洋経済編集部の山本舞衣さんです。
2024年ベスト経済書、2位と3位はこの書籍だ! 賃金と日本経済に関する書籍がランクイン
多くの国で賃金が上がる中、なぜ日本の賃金は停滞し続けたのか。カギは「定期昇給」のシステムにあると著者は指摘する。
▼著者に聞く
歴史を見ていくと、日本の賃金が上がらなかった理由は明らかだ。メンバーシップ制の中で、「定期昇給」の仕組みが非常にうまく運用されていたのである。会社員個人は何もしなくても毎年給料が上がる。しかしそれを全部足し上げると、企業が支払う給料の総額は大きく変動しない。企業にとって使い勝手がよく、労働者個人もそれなりに満足できる仕組みだったから、本当の意味での賃上げ、「ベースアップ」なしでもやってくることができた。
昨今、マスメディアで繰り広げられる賃金に関する議論は表層的で、最近のことしか見えていない印象があった。例えば職務給にしても、60年ほど前、池田勇人政権時代に同様の議論が行われており、日本の賃金を考えるなら当時の話は不可欠だ。しかし、それを語る人はいない。まだ「歴史」になってはいないけれども今はもう顧みられない「昔話」を、一度まとめておこうとこの本を書いた。
時に誤解されるのだが、私には「世の中を変える提言をしたい」などというたいそうな発想はない。歴史書として楽しんでほしい。
▼推薦コメント
「ジョブ型雇用」というフレーズが楽観的思考と共に乱用される昨今だが、本書は日本の雇用・賃金情勢について、現状と展望を的確に示す。明治以降の歴史を踏まえつつ日本の賃金制度の現在地を説いており、歴史的、国際的な視点からの学びが多い。(唐鎌大輔)
2024年の春闘で大幅賃上げが実現し、今後もベースアップが期待されている。だが、「それだけで万々歳というわけにはいかない」とする著者の主張は、春闘前の今、傾聴に値する。(宮嶋貴之)
ちなみに、書評サイトの「ブクログ」でも、12月にいくつかの本書の書評が載っていたので、こちらに紹介しておきます。
https://booklog.jp/item/1/4022952741
12/8:bakumon17. 賃金問題を深く考えたことは今までなかった 定期昇給は 人件費を一定に保つため制定されたとは思わなかった 現状のメンバーシップ型雇用を ジョブ型に変更することは並大抵の努力では なしえないと理解できた12/13:masa. 新聞で「ベア、定期昇給」が用語解説に載るほど、賃上げにはとんとご無沙汰だった日本。 先進各国の賃金伸び率を比較すると日本の賃金は全く上がっていないが、個人ベースでは上がっている。だから「上がるから上がらない」。 欧米では賃金表を改訂しない限り同じ仕事をしていれば賃金は上がらないので、ストでもなんでもやって賃金を上げる。「上がらないから上げる」。 言葉遊びの巧みさもあって、賃金のからくりがよく分かる。 また本書では、職務給や職能給などの議論の変遷が興味を惹いた。働き方や賃金体系なんで理屈で説明しても現実の力が圧倒的に強くて、いつの間にか雲散霧消したり、後付けでの理屈になったりの連続だったんだ。 ジョブ型など○○型は言わずもがなだが、分かりやすい賃金論にはこれからも眉に唾して聞かないと。12/30:chocofunk. 賃金に焦点を当てて、戦前から現在までの制度を解説しつつ、賃金を上げる方法を紹介して、最後になぜ日本の賃金が上がっていないのかを解説している。 最低賃金の設定など政府主導で行われる部分もあり、法文が出てくる箇所などはすらすらとは読めなかった。 賃金制度の話の際には日本の伝統的な年功序列のメンバーシップ型と海外のジョブ型との比較がされるが、本書でも取り扱いわかるやすくそれぞれの違いなど解説されていた。 印象的だったのはジョブ型では人事査定がない点、人事異動がない点など。 たしかにその人のその時点でのスキルで給与が決まるのであれば査定はしないし、使用者の都合で業務が変わることもおかしい。 こういった解説部を読めば読むほど現代社会と年功序列による賃金決定が乖離していることを思い知らされる。 また、名目賃金の推移を各国と比較できる図表が挿入されていて日本の変化のなさに驚く。 いくら他国と事情が違うといったって30年でここまで変化がないことがよいことなわけがない。 それでも賃金が上がっていると感じる労働者は多いが、上がっているのは定期昇給によってであり、個々人が働く年数が上がっていることに過ぎないということ。 つまり図表が示すとおり労働者全体で賃金が上がっていることはないのだが、それでもベースアップという仕組みで賃金を積極的に上げていこうとしない国には正直不信感を覚える。 本書では、「上げなくても上がるから上げないので上がらない賃金」と表現していて、定期昇給で個人の賃金は上がるからわざわざ苦労してベースアップをしなくなったため、結果的に日本全体の賃金の上昇が滞ってしまっているとのこと。 労働者自身も、働き続けることで上がる賃金によって勘違いしていると思うので、国が主導してくれるなんて楽観的な考え方はやめて自ら積極的に声を上げていく必要があるだろう。2025/1/1:fujine. 賃金の歴史について勉強。日本の年功序列や長期雇用は、明治以降の重工業発展に伴う熟練工の育成や転職抑止から形成された雇用文化だと知って納得。ベースアップの仕組みは朝鮮特需から産まれたりと、今では合理的ではない賃金の仕組みも当時は有効だったことが窺える。 一方、現代の企業は生産性が重視される傾向にあるも、職能基準の給与体系はまだまだ普及していないのが現実。だが、世界の変化に追随するためには、日本の雇用もドラスティックに変えていく必要があると思う。
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