フォト
2024年12月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ

« 少なくとも労働組合にとっては味噌ではない | トップページ | 若者支援とキャリア形成@BLT »

2011年9月30日 (金)

あごら起業塾に走る前に・・・『<起業>という幻想』

08164l谷口功一さんより、その訳書、スコット・A・シェーン『〈起業〉という幻想 アメリカン・ドリームの現実』をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.hakusuisha.co.jp/detail/index.php?pro_id=08164

さて、本書は題名どおり、今や日本でも鉦や太鼓で持て囃されている「起業」(アントレプレナーシップ)の神話を完膚無きまでに叩きのめしている本です。しかも、その手法が徹底的に実証主義。かつ、これは人によって趣味が分かれるかも知れませんが、翻訳の文体が、あの山形浩生訳クルーグマン風の、ちょいとかっこいい口調であるのも、内容にマッチしています。

>会社を辞めて「起業」に走る前に

 マイクロソフトのビル・ゲイツ、アップルを立ち上げたスティーブ・ジョブズ、オラクル創業者のラリー・エリソン。こうした人物に象徴されるように、身ひとつでたたき上げた「起業」に成功して巨万の富を築くというアメリカン・ドリームは今なお、〈神話〉として米社会を根本で支えている。

 しかし、本書によれば、現実はまったく異なる。連邦準備制度理事会や国勢調査局などの経済統計から浮かび上がる起業のごくありふれた光景はこんな具合だ。

 米中西部の都市ララミー。大学中退歴のある40歳代の白人既婚男性が「よそで働きたくない」という動機から職を転々とし、挙句、生活が逼迫して起業に手を染める!

 もちろん、そんな彼が手掛けるビジネスはアメリカン・ドリームとは程遠く、建設会社や自動車修理工場のようなローテクに限られる。そして、資金繰りは芳しくなく、5年以内に消える運命にある……。

 本書は、経済成長や雇用創出(失業率)、人種や性別まで、統計を駆使して、もうひとつのアメリカを浮き彫りにする試みでもある。職を転々として起業に身をやつす米国人の姿は、産学官が一体になって起業を喧伝する日本社会に一石投じることは間違いない

イントロの一部が立ち読みできるので、ちょっとそこも引用しておきましょう。

>起業(entrepreneurship)という言葉は、現在、もっとも人気のあるトピックの一つである。試しにグーグルでentrepreneurという言葉で検索をかけてみるなら、三七〇〇万件がヒットする。これは一生かかっても読み切れないほどの分量だ。起業に関する情報は、至る所に溢れている。であるにもかかわらず、そこにダメ押しする形で、わたしは本書を新たに出版しようとしているのだが、それは、なぜなのか。

 それは、われわれが起業にまつわる神話にとり憑かれているからだ。この「神話」という言葉が何を意味するものであるのか、皆さんにはすでにお分かりだろう。要するに、高校を中退した文無しの男が一〇ドルだけポケットに突っ込んでアメリカにやって来て建設会社をおこし、あれよあれよという間に億万長者になってしまうとか、あるいは、インターネット電話を開発したエンジニアがベンチャー資本を調達し、最終的には数億ドル規模の会社を作り上げるとか、そういった類の話だ。

 ほとんどの人は、この手の神話を好むものだ。なぜそんな神話を好むのかというと、ホレイショ・アルジャーの小説〔典型的なアメリカの成功譚〕のように困難を克服して成功するヒロイックな物語が大好きだからという向きもあれば、エキサイティングでエキゾチックに見える他人の人生を垣間見ることができるという「覗き見根性」を理由にする向きもいる。われわれは、この手の話を聞くのが好きでたまらないので、そういう話を繰り返し他人に聞かせたり、記事にしたり、時として本にしてしまったりするわけだ。この手の神話を物語る記事や本が書かれると、人々はそれを購入し、さらに多くの人が同じような神話についての記事や本を書くという無限のサイクルができあがるのである。(中略)

 しかし、わたしのこの本は、それらとは異なったものである。多くの人が信じる神話を再生産して提供するよりは、むしろ、起業に関するデータに注目するのだ。ここで用いられるデータは、どんなものでもいいというわけではない。ここでは、筋のいいデータだけを扱う。事実を丹念かつ適切に収集し、精度を保とうとしていると評判を博する機関—たとえば、それはシカゴ大学やミシガン大学、あるいは国勢調査局や労働統計局などの機関—で、研究者や政府のリサーチャーによって得られた、統計上の代表標本に関する調査を用いるのである。

 本書では、起業家にまつわる神話に挑戦するため、わたしは以上のようなデータを用い、実際のところ、それがどうなっているのかを描き出すことにしたい。以下では、アメリカでの典型的な起業家像がどのようなものなのか、彼は何をどのように行うのか、そして、そのビジネスがアメリカ経済に対してどのようなインパクトを持つのかをスケッチすることにしたい。

あと、イントロで、「たとえば」として羅列されている本書の示す驚くべき(しかし当たり前な)事実を示しておくと、

●アメリカは以前に比べるなら起業家的でなくなってきている。

●ペルーは、アメリカよりも3.5倍の割合で新たなビジネスを始める人がいる。

●起業家は、魅力的で目を引くハイテク産業などではなく、建設業や小売業などの、どちらかというと魅力の薄い、ありきたりの業種でビジネスを始める場合の方が多い。

●新しくビジネスを始める動機のほとんどは、他人の下で働きたくないということに尽きる。

●仕事を頻繁に変える人や、失業している人、あるいは稼ぎの少ない人の方が、新しいビジネスを始める傾向にある。

●典型的なスタートアップ企業は、革新的ではなく、何らの成長プランも持たず、従業員も一人(起業家その人)で、10万ドル以下の収入しかもたらさない。

●7年以上、新たなビジネスを継続させられる人は、全体の3分の1しかいない。

●典型的なスタートアップ企業は、2万500ドルの資本しか持たず、それはほとんどの場合、本人の貯金である。

●典型的な起業家は、他の人より長い時間労働し、誰かの下で働いていたときよりも低い額しか稼いでいない。

●スタートアップ企業は、考えるよりは少ない仕事(雇用)しか生み出さない。

これはほんの一例に過ぎません。

やや詳し目の目次がついているので、それもコピペしておきましょう。シェーンがどういうことを語っているか、だいたい目星がつくと思います。

謝辞
  イントロダクション
   起業とは何か/起業に関するイメージ/
   神話を信じ込んでいるとどうなってしまうのか/本書を読むべきなのは誰か/
   本書ではどのような問題を取り扱うのか/たとえば

 第一章 アメリカ──起業ブームの起業家大陸
   起業家の数は増えていない/アメリカでの起業は低調である/
   国によってスタートアップの数が多くなるのはなぜか/
   国内でスタートアップが占める割合の相違/
   地域間の起業の違いを説明するのは何か/結論
 第二章 今日における起業家的な産業とは何か?
   どのような産業分野で起業家はビジネスを始めるのか/
   なぜ特定の産業が起業家の間で人気なのか/結論
 第三章 誰が起業家となるのか?
   起業家のマインド/なぜビジネスを始めるのか/
   起業家は“優れた”人間なのか/起業家になることは若者の専売特許なのか/
   実社会で痛い目に遭うことがビジネスを始める導きなのか/専攻が重要なのか/
   経験の重要さ/生粋の地元育ちよりも移民のほうが起業家になりやすいのか/
   コネより知識/結論
 第四章 典型的なスタートアップ企業とは、どのようなものなのか?
   新たなビジネスのほとんどはとても平凡である/
   たいていのスタートアップは革新的ではない/
   たいていのスタートアップはごく小規模である/
   成長を目指すビジネスはわずかである/
   新たなビジネスの多くは競争優位を欠いている/半数は在宅ビジネスである/
   起業家はどのようにしてビジネスアイデアを思いつくのか/
   起業家はどのようにビジネスアイデアを評価しているか/
   ビジネスを立ち上げる/会社立ち上げは成功例よりも失敗例のほうが多い/
   チームで起業?/結論
 第五章 新たなビジネスは、どのように資金調達をしているのか?
   ビジネスを立ち上げるのにどれくらいのお金が必要なのか/
   主な資金源は創業者の貯金/お金持ちのほうが起業しやすいのだろうか/
   個人的な負債/どんな企業が外部資金を獲得するのか/負債か株式か/
   スタートアップは銀行から借り入れできるのか/
   外部からの株式資本による資金調達/
   ベンチャー資本はあなたが考えるほど重要ではない/
   ビジネスエンジェルの実像/結論
 第六章 典型的な起業家は、どのくらいうまくやっているのか?
   典型的な新たなビジネスは失敗する/ビジネスから撤退する/
   起業家はそれほど儲からない/起業によるリターンは不確実である/
   起業家は投資資金に対する追加的なリターンを得られない/
   起業家はベンチャーの展望について過剰に楽観的か/
   ごく少数の起業家が大成功を収める/創業者の満足/結論
 第七章 成功する起業家とそうでない起業家の違いは何か?
   時間とともに容易になる/どの産業で、ということが非常に重要/
   ほとんどの起業家は愚か者なのか/ほかにやるべきことは何か/
   よりよい起業家になるための準備は可能だ/正しい創業の動機を持て/
   結論
 第八章 なぜ、女性は起業しないのか?
   女性はあまり起業家にならない/なぜ女性起業家の割合は低いか/
   女性のスタートアップの業績は/
   なぜ女性が創業したビジネスの業績は貧弱なのか/結論
 第九章 なぜ、黒人起業家は少ないのか?
   なぜ黒人起業家の割合はかくも低いのか/
   黒人によるスタートアップの業績はどうだろうか/
   なぜ黒人が保有するスタートアップの業績はよくないのか/結論
 第十章 平均的なスタートアップ企業には、どの程度の価値があるのか?
   経済成長/雇用拡大/雇用の質/結論
  結論
   起業の現実/われわれは何をなすべきか 
  訳者あとがき
  註
  神話と現実

まあ、ひと言で言えば、何も考えないであごら起業塾に走る前に、じっくりと読んでおくと人生をムダにしないかも知れない本と言えましょう。

« 少なくとも労働組合にとっては味噌ではない | トップページ | 若者支援とキャリア形成@BLT »

コメント

あごら起業塾の講師も3年前に原著を自分のブログで書評していますね
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51294720.html

「凡人による起業」と、「エリートによる起業」を一緒にしてはならないということでしょうね。

>「凡人による起業」と、「エリートによる起業」を一緒にしてはならないということでしょうね。

それは肩書きの事ですか?ジョブズは大学中退だし、ヨシダソースの社長は立命館落ちてアメリカの短大卒です。

起業にエリートも凡人も無いです。あるのは運と経営のセンスだけ。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: あごら起業塾に走る前に・・・『<起業>という幻想』:

« 少なくとも労働組合にとっては味噌ではない | トップページ | 若者支援とキャリア形成@BLT »