結婚の壁
えっ?と、一瞬思いましたが、編著者の名前を見ると、佐藤博樹・永井暁子・三輪哲とあって、なるほどとわかりました。佐藤先生、いつもありがとうございます。
http://www.keisoshobo.co.jp/book/b73938.html
>「婚活」が活発化している一方、「結婚難民」の存在も大きな社会問題となっている。本書は、男女の出会いの機会や結婚への意欲、結婚に至る経路を決めるさまざまな要因について、多様な調査データを用いて実証的に明らかにする。若者の結婚に立ちはだかるさまざまな「壁」に接近し、乗り越えるための方策を提示するものである。
ということで、目次は次の通りです。
はじめに[佐藤博樹・永井暁子・三輪哲]
序章 「出会い」と結婚への関心[佐藤博樹・永井暁子・三輪哲]
1 なぜ結婚に関心が向けられるのか
2 結婚への多様な関心
3 現代の結婚事情─人生のパートナーがいない
4 本書の研究関心と分析データ
第Ⅰ部 「出会い」への期待と機会
第1章 現代日本の未婚者の群像[三輪哲]
1 未婚者の実像はいかなるものか
2 現代日本の若年層における結婚・交際の状況
3 未婚者の独身理由はどのようなものか
4 どのような結婚活動を誰がしているのか
5 結婚活動の成果・効果はあるのか
6 現代未婚者の群像
第2章 職縁結婚の盛衰からみる良縁追及の隘路[岩澤美帆]
1 配偶者選択に依存する社会
2 職探し理論と晩婚化
3 結婚市場と仲介メカニズムの役割
4 配偶者との出会いのきっかけ
5 職縁結婚低迷の背景
6 「婚活」か結婚後の協調か
第3章 なぜ恋人にめぐりあえないのか?─経済的要因・出会いの経路・対人関係能力の側面から[中村真由美・佐藤博樹]
1 「少子化」と「恋人にめぐりあえない人々」
2 なぜ婚姻率が低下するのか?─3つのアプローチ
3 だれが恋愛から遠ざかっているのか?
4 どうすれば恋人に出会えるのか?
第Ⅱ部 揺らぐ結婚意識
第4章 同棲経験者の結婚意欲[不破麻紀子]
1 同棲の普及とライフコースの多様化
2 日本の同棲の状況
3 同棲のタイプ
4 同棲経験者は結婚をどのようにとらえているか
5 同棲か,交際相手の有無か?
第5章 結婚願望は弱くなったか[水落正明・筒井淳也・朝井友紀子]
1 結婚意識と実際の結婚
2 2つのコーホートと結婚意識の設問
3 結婚意識の変化のコーホート間比較
4 結婚意識が結婚の決定に与える影響
5 なぜ女性の結婚願望は弱くなったか
第6章 結婚についての意識のズレと誤解[筒井淳也]
1 結婚への躊躇─なぜ一歩踏み出せないのか
2 結婚の意味の変化と多様性
3 各国の「パートナー状態」の比較
4 結婚をめぐるミスマッチ
5 結婚をめぐる思い違い
6 やっぱり結婚は幸せなのか?
7 案ずるより産むが易し?
第Ⅲ部 結婚を左右する要因
第7章 男性に求められる経済力と結婚[水落正明]
1 男女間の経済力の関係は結婚に影響するか
2 一定以上の経済力を求める女性はどの程度いるか
3 地域ごとにみた女性の希望と男性の現実
4 男女間の経済関係が女性の有配偶確率に与える影響
5 結婚の要因としての意識の重要性
第8章 結婚タイミングを決める要因は何か[朝井友紀子・水落正明]
1 結婚相手を探す市場の存在
2 結婚タイミングを左右するのは個人の特性か?結婚市場か?
3 男女で異なる個人特性と結婚市場の影響
第9章 友人力と結婚[田中慶子]
1 「選べる」時代の出会いの困難
2 友人関係は結婚へつながるのか─先行研究と仮説
3 検証の手続き
4 加齢・結婚による友人関係の変化
5 友人力の効果と限界
第10章 未婚化社会における再婚の増加の意味[永井暁子]
1 最近の離婚・再婚事情
2 広まる再婚市場と時間差一夫多妻制
3 誰が再婚しているのか
4 再婚で幸せになれるか
5 再婚という選択
終章 結婚の「壁」はどこに存在するのか[佐藤博樹]
1 第Ⅰ部 「出会い」への期待と機会
2 第Ⅱ部 揺らぐ結婚意識
3 第Ⅲ部 結婚を左右する要因
本ブログの関心からすると、岩澤美帆さんの書かれた第2章「職縁結婚の盛衰からみる良縁追及の隘路」が大変興味深いです。
43頁の「結婚年別、配偶者との出会いのきっかけの構成」という表がまず大変面白い。1982年には紹介型(フォーマル)の見合い結婚が29.4%だったのがどんどん減って2005年にはわずか6.4%。職場型は、1982年には25.3%でしたが、徐々に増えて1992年に35.0%、ところがここから逆に減りだして、2005年には29.9%。
見合い結婚の中身も、親族中心から職場中心に移行していったこともあり、結局1970年代以降の日本人の結婚は職場中心であったものが、そこが減ることで結婚自体が減っていったときれいに説明できるようです。
>・・・結婚市場における配偶者選択の効率性という観点から考えてみると、・・・自分と釣り合いのとれた相手が高い密度で存在する比較的狭い結婚市場における配偶者選択であった。・・・企業の採用基準というフィルターによって、資質の近い男女が密度高く存在していると考えることができる。
>・・・さらに・・・生涯にわたっての社会経済的地位の見通しを判断する上で、仕事ぶりを間近に見ることや、仕事関係者からお墨付きをもらうことほど強力な保障はないであろう。
では、なぜそれが低迷するようになったのか。
>企業は従業員を「個」として位置づけ、従業員の結婚、家族の問題には目を向けなくなった。また、一般職女性が担っていた補助的業務は外部化が進み、仕事内容の専門化、個別化とも相まって、大量の独身男女が同一企業内で交流するという形も難しくなってきたといわれる。
>こうして職場は、次第に配偶者選択に関する特別な場所ではなくなってきたと考えられる。では職場以外の出会いは増えているのだろうか。・・・そのような気配は見受けられない。職縁を通じた見合い結婚や恋愛結婚のような、資質の釣り合う独身男女が密度高く存在する結婚市場を構築するためには、多大なコストがかかる。・・・こうして、広く社会的に負担されていた結婚市場の形成や探索にかかるコストは、今日、結婚を望む当事者にすべて降りかかっている。
>・・・中には、あまりの負担の多さ(コストの高さ)に、就業意欲喪失者ならぬ、結婚意欲喪失者となってしまう場合もあろう。・・・日本における晩婚化は、・・・探索コストの高騰による結婚市場からの離脱によって引き起こされている可能性もある。
この記述からも分かるように、労働経済学におけるジョブサーチ理論のアナロジーで結婚市場の動きを見事に説明していて、読みながら思わず引き込まれる論文です。是非手にとって読んでみてください。
ちなみに、この「結婚市場」という言い方について、第6章の筒井淳也さんが
>そもそも結婚市場というのはきわめて不完全な市場である。・・・結婚市場が不完全である最大の理由は、恋愛や結婚においては出会いがローカルなものにならざるを得ないということにある。自分が現在つきあって結婚しようとしている男性よりももっと条件のよい男性が居るかも知れないのに、自分の周囲にはたまたまいないために出会いが生まれないことが起こりうる。市場が完全ならばこういう悩みはない。すべての異性の情報が与えられた上で、順にマッチングが行われ、自分お手持ちの資源に見合った人が必ず見つかるはずである。・・・
と述べておられるのですが、ちょっと違和感があります。というのは、上でなぞらえられている労働市場だって、実は結構ローカルなものであって、本気で「もっといい就職先があるんじゃないか」と悩み出したら、いつまでたっても決められないのではないでしょうか。むしろ、かつては不完全市場だからそれなりにうまく回っていたのに、なまじ完全情報に近い状態になってしまったために、かえっておかしくなってしまっているのがいまの大卒就職市場なのではないでしょうか。
経済学の教科書に出てくる完全「しじょう」よりも、ローカルな「いちば」という観点で言えば、まさに日本の職場社会は、かなりよくできた結婚「いちば」だったのでしょう。
(追記)
ちなみに、第2章にはいくつかの国における「出会い」の特徴が書かれていて、これがまた実に良くできたエスニック・ジョークになっています。
>職縁結婚は日本では最も多い出会いとなっているが、諸外国では必ずしもそうではない。それぞれの国の特徴を示すと、韓国は親・親戚の紹介、アメリカは学校、フランスは幼なじみ・隣人関係、スウェーデンはサークル・クラブなどのシェアが他国に比べて多い。
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