住宅ローン金利の税控除の経済的意味

ケイシー・マリガンが住宅ローン金利の税控除を支持する論陣をEconomixで張り、フェリックス・サーモンから強烈な批判を浴びている。以下に各論点を簡単に紹介してみる。

マリガン
住宅ローン金利の税控除自体はそれほど住宅市場を歪めない。むしろ売上税などの各種税金が住宅を対象外にしているせいで持ち家が過剰に建てられた。
サーモン
無関係な話を結び付けている。また、売上税が課税されないというのも誤り。ニューヨーク市では、不動産移転税や百万ドル以上の不動産に掛かる「大邸宅税」やモーゲージ税によって、税率が売却価格の4.75%にも達することがある。
マリガン
ある人の住宅ローン利払いは、他の人もしくは企業の利子収入になる。貸し手は利子収入に対して税金を払う。理論上は、貸し手に掛かる税率の方が借り手よりも高ければ、財務省の得る税金はむしろ多くなる。
サーモン
住宅ローンの貸し手は銀行であり、銀行の住宅ローンの利鞘は極めて薄い。従って、銀行の利益に対する課税額が住宅ローンの税控除の額を超えることはありえない。しかも、現在の住宅ローンの貸し手は何らかの形で大部分が政府になっている。ファニーとフレディが引き受けたモーゲージに対しどれだけの税金を払っているというのか?
マリガン
大家が支払い金利の税控除を行った結果、家賃を安くするかもしれない。従って、住宅ローン金利の税控除は持ち家だけに有利に働くとは限らない。
サーモン
金利の税控除はあくまでも借家人ではなく大家が利用可能なもの。一方、家賃は市場で決まる。大家は自分の課税収入の額がどうなろうと、家賃収入を最大化しようとするだろう。


サーモンはまた、住宅ローン金利の税控除を廃止すべき以下の明白な理由をマリガンが無視していると非難している:

  • 分配の著しい不平等。主に沿岸部の富裕層が恩恵を受けている。
  • 厳しい財政事情の中、年間1億ドルものコスト要因になっている。

なお、マリガンの論説は、税制の専門家からも批判を浴びている。その一人はNYUのDaniel Shaviro(デロング経由)。

Shaviroに言わせれば、問題は住宅ローン金利の税控除そのものではなく、帰属家賃が課税対象収入にカウントされないことにあるという。帰属家賃が収入にならないのは市場取引の形で測定することが不可能なためであるが、もしそれを収入として把握できるのであれば、住宅ローン金利の税控除もそれほど問題にならないだろう、とShaviroは言う*1 *2。
また、耐久消費財購入に対する利払いが税控除の対象にならないためにそれらの財への投資が住宅や企業活動への投資に比べ不利になっている、とマリガンが書いたのに対し、Shaviroは、消費財には税制が捕捉できない経済リターンがあるが企業活動への投資へのリターンは原則としてすべて課税されているという公共経済学のイロハも知らないのか、と批判している。


さらに、ShaviroがリンクしたTaxProf Blogによると、マリガンのEconomix記事に3番目にコメントした“Bill”は、ノースカロライナ大学のWilliam J. Turnierだという。Turnierはそこで、シカゴ大のヘンリー・シモンズが作り上げたヘイグ・サイモンズの所得の定義*3をシカゴ大の教授が知らないのは信じ難いこと、とマリガンの無知をあげつらっている。ヘイグ・サイモンズの定義によれば、所得は消費と貯蓄の合計であり、それは税制の専門家によって広く受け入れられた定義である。その定義の適用が意味するのは、消費に対応する費用は税控除の対象とはならず、ビジネスのような利益追求に対応する費用は税控除の対象となるということである、とTurnierは述べている。

*1:後続のエントリでは、マリガンの抗議を受けて行き過ぎた言葉遣いを詫びつつも、その論点を補強している。

*2:cf. 関連記事。

*3:cf. 日本語での検索結果。