ライトノベル年代記 [1998, 2004]

 文学部での読書会に参加。新城カズマ『ライトノベル「超」入門』(ISBN:4797333383)を参照しながら,“ライトノベルを論じる”ことについて語り合う。
 レポーターのAさんは,今回が初報告。読書量は多い人なので知識はあるものの断片的な情報になってしまい,うまく繋がらない(感想の開陳になってしまい,Aさんも苦労していた)。読書会においては,(1)先行研究による到達点を示し,課題図書の位置づけを明らかにする,(2)課題図書の内容を要約してポイントを浮き彫りにする,(3)それらを素材として討論すべき議題を報告者が設定する,(4)呼び水として報告者としての私見を添える――という手続が必要なのだけれど,これは場数を踏んで身につけてもらうものだしね。
 そんなこともあって,いつもより多めに口を挟んできました。
 私が提示した《作業仮説》は,第1にカドノ・インパクト(1998年),第2にサブカルチャーにおけるまいじゃーたる地位の獲得(2004年)。

第1仮説

 現在におけるライトノベルの本流が電撃文庫であるとすれば,その前の時代にあって勢力を誇っていたのは富士見ファンタジア文庫。この力関係が変化したのは1998年頃のことであり,上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』(ISBN:4840208042)の登場が影響したと言えるのではないか。
 ここから次世代グループに時代が移行したものと仮定し,それ以前に主流をなしていた作品群――具体的には,RPGの作法を小説に持ち込んだ神坂一『スレイヤーズ!』(1990年〜)等と比較することによって,小説を成り立たせる構造レヴェルの変化(例えば,視線人物の複数化)を論じてみてはどうだろう。
 同じ1998年に,ファンタジア文庫では賀東招二『フルメタル・パニック!』(ISBN:4829128399)が,コバルト文庫では今野緒雪『マリア様がみてる』(ISBN:408614459X)がお目見えしているので,レーベル内部における勢力の変化ということも言えそうではないか(標語を与えるなら,ファンタジーから学園へ)。
 ミステリー好きな参加者からはメフィスト賞(1996年〜)受賞作とラノベの関係を問う声がありましたけれど,この対比も面白そうですね。

第2仮説

ライトノベル☆めった斬り!

 これは「美少女ゲーム年代記」(g:rosebud)を書くために,大森望=三村美衣『ライトノベル☆めった斬り!』(ISBN:4872339045)を読んで周辺状況を調べている中で感じたこと。
 おたくカルチャーにおいて高位に位置するものがアニメ(メジャー・メジャー)やマンガ(メジャー・マイナー)なのは数十年に渡って不変ですが,「マイナー・メジャー」の地位を占めるものは移り変わりがある。で,およそ1996年から2004年にかけては,美少女ゲーム(特にビジュアルノベル形式のもの)が影響力を持っていたのです。それは,アニメの原作となった数(下位コンテンツから上位への昇格現象)で端的に表される*1。

 見えにくいところでは,かつて美少女ゲーム業界には人材の吸引力が働いており,《業としての物書き》になりたい人を獲得していたのでしょう*2。
 そのような状況が変化したのは,ライトノベル評論が急激に活発化した2004年前後のこと。以降,美少女ゲームは「マイナー・メジャー」の地位を譲って一歩後退し,新進クリエイターの登竜門としてライトノベル(の新人賞)が相対的に浮上したのではないでしょうか。
 すなわち,ライトノベルを読者の側から作品として鑑賞していたのでは観測できない地殻変動が,作り手の側において生じていた――というのが「ライトノベル論ブーム」の実態であり,対外的には「ライトノベルの発見」だと見るのです*3。
 ちなみに,「クリエイターの個人化」という観点からみれば,2000年暮れから始まるTYPE-MOON『月姫』の動向も対応させられそうです(奈須きのこがギャルゲーとラノベの境界を〈空〉にしたことで,越境が容易になった)。やや牽強付会になりますが,2002年2月に『ほしのこえ』が発表された時,新海誠が個人として注目されたことはアニメの領域におけるシンクロニシティかと思います。
――と,アイデアを散らかしている間は気楽でいいんだけれどねぇ。


▼ 関連

 奈須きのこよりも桑島由一・ヤマグチノボルあたりのほうがライトノベルとエロゲの越境者としては重要かと。(中略)
 三重の『カナリア』ショック、ということを俺は常々言っているわけですが、もう一回繰り返しておきます。(後略)
http://d.hatena.ne.jp/./K_NATSUBA/20061111

*1:なお,「ノベライズ」については議論が紛糾したことを書き添えておく。報告者のAさんからは「ノベライズ作品は売れているのに評価されていない」という問題提起があった。

*2:美少女ゲームにおいてシナリオライターが個人として着目されるのは VisualArt’s/Key の登場後のようです。『PC Angel』誌を調べていて気がついたのですが,作品情報にシナリオライターの項目が加わるのは,1999年に入ってからのこと。以前,id:cogniさんと話していた時に「私はシナリオを(ヒロイン単位でもシナリオライター単位でもなく)作品単位で把握しているんです」といって怪訝に思われたことがあるのですが,これは1990年代の前半,ゲームデザイナーの方が重視されていた時代に自分の評価基盤を形成したせいではないかと自己分析しています。

*3:「まいじゃー」が交代した理由を美少女ゲーム側の事情から考察するならば,(1)モチーフに関しては『CROSS†CHANNEL』等で行き着くところまで辿り着き,進化の袋小路に入ったから,(2)「ボリュームたっぷり\9,240」というビジネスモデルが限界を来したから,(3)コホート(cohort)現象が起こって消費者が年老いてしまったから,などを挙げられるのではないでしょうか。