After Effectsの調整レイヤーを使いこなすためのTips
- 2017/01/29
今回は、After Effectsの「調整レイヤー」の使い方について説明してみたいと思います。
本気でAfter Effectsを使いこなしたいなら、調整レイヤーの働きを正確に知っておくことが重要です。使っているときに「なんでこういう結果になるんだろう?」と疑問に思うことがなくなって作業が速くなりますし、うっかり不適切な処理をしてしまうといったミスもなくなります。そこで、After Effectsの調整レイヤーがいったいどのように働いているかということを解説しようと思うのです。
ではさっそく調整レイヤーについて説明します。After Effectsの調整レイヤーは、エフェクトをまとめて掛けたいときに便利な機能です。たとえば、すべてのレイヤーにまったく同じエフェクトをかけたいとき、各レイヤーにエフェクトをコピーするのは面倒ですし、修正しにくくなります。
調整レイヤーを使えば、まとめてエフェクトをかけられます。簡単ですし、修正が容易になります。
Adobe公式ヘルプでは、このように説明されています。
つまり、こういうイメージですね。
しかし、この説明は完全に間違いです。この説明のせいで、初心者ユーザーはおかしなことを言い始めます。例えば、「調整レイヤーを途中で止めたい」「調整レイヤーを特定のレイヤーにだけ適用したい」「調整レイヤーの影響から除外させる方法は?」といった具合です。結論から言うと、調整レイヤーの下にあるレイヤーは、その影響から逃れることはできません。
なぜ調整レイヤーの影響は途中で止められないのでしょうか?その理由をちゃんと分かっていた方が良いと思うのです。
答えは、そもそもレイヤー合成とは何か、という所にあります。一般的に合成というのは、2つの画像を1つにするというだけのシンプルな処理を、何度も繰り返しているにすぎないのです。たとえば、こんな感じです。
◆ステップ1・・・「空」の手前に「森」が合成される
◆ステップ2・・・「ステップ1の合成結果」の手前に「鳥」が合成される
こんなふうに、2つの画像を1つにするという処理を、奥の方から何度も繰り返してるだけなのです。1番下のレイヤーに1枚ずつ固めているわけです。ということは、あるレイヤーが重ねられる瞬間、実はその下にはいつでも「合成済み画像」しか存在していない、と考えることができます。これこそ、正しいレイヤー合成のイメージです。
話を調整レイヤーに戻しましょう。もう調整レイヤーの正体が何なのか分かったと思います。調整レイヤーのエフェクトが働くとき、そこにはすでに「合成済み画像」しか存在していないのです。
調整レイヤーのエフェクトは「すべてのレイヤーに適用」されているのではありません。合成結果に対してエフェクトを適用しているのです。実はヘルプにもちゃんと書いてあります。凄く分かりにくいですが!
これが、調整レイヤーを途中で止められない理由です。もし「調整レイヤーを一部のレイヤーにだけ適用したい」という場合は、プリコンポーズを行うしかありません。プリコンポジションの中は事前に計算され、レンダリング済の1枚の合成結果になるので、結果として一部のレイヤー群だけにエフェクトを適用することが可能になります。
誤解されがちですが、プリコンポジションというのは「単にレイヤーをまとめる」という機能ではありません。レイヤーを事前に合成済みにするという、非常に重要な機能なのです。
調整レイヤーにマスクを切る、というのはよくやります。画像の一部だけ色を変えるようなカラコレを行うことができます。「マスクの境界のぼかし」機能も便利です。
ただ、調整レイヤーにマスクを切るときには注意して欲しいことがあります。このとき何が起きているのか、という点です。「画像の一部にだけエフェクトを適用している」という考え方は間違いです。理由は、色調補正ではなくブラーなどのエフェクトを加えたときに分かります。
実際にやってみましょう。ここでは分かりやすいように市松模様にエフェクトを掛けてみようと思います。まず、調整レイヤーでブラーを掛けてください。次に、この調整レイヤーにマスクを切り、マスクのエッジをぼかします。ボケマスクの境目のあたりには、ブラー量が小さくなるのではなく、2つの画像がダブって見えます。
どうやら「元画像」と「ブラー適用後の画像」がブレンドされているようです。これは調整レイヤーが合成を実行していることを意味しています。例の、2つの画像を1つにするという処理です。「元画像」の上に「ブラー適用後の画像」を重ねています。
ということは、「画像の一部にエフェクトを掛けたい!」と言って調整レイヤーにマスクを切るというのが不適切な場合があるということです。色調整のエフェクトなら良いのですが、問題はブラーやディスプレイスのように形を変えるエフェクトです。たとえば一部だけブラーを掛けるとき、徐々にブラー量が変わっていくような表現は調整レイヤーにボケマスクを切ってもできません。徐々にブラー量が変わっていくようにしたい場合は、[ブラー(合成)]エフェクトや[ブラー(カメラレンズ)]エフェクトのようなグラデーションマップを元にぼかすエフェクトやプラグインを使うべきです。
同じ理由で、ディスプレイス効果をやるときも要注意です。画像の一部だけ揺らぎ・歪みエフェクトを掛けたいと言って、[タービュレントディスプレイス]エフェクトを適用した調整レイヤーにボケマスクを切るのは、あまりオススメできません。揺らぎに強弱をつけたいなら、[ディスプレイスメントマップ]エフェクトを使い、マップレイヤーをつくるプリコンポジションの中で調整しなければなりません。
調整レイヤーにマスクを切ることについての誤解は本当に多く、Adobe公式にさえ「悪い例」があります。[Creative Cloud 入門] マスク機能を利用して一部だけにエフェクトを適用するというウェブページでは、調整レイヤーに[拡散]エフェクトを適用してマスクを切っています。それによってアルファベットの「E」だけには[拡散]エフェクトが掛からない……という説明ですが、よく見ると「E」にも[拡散]エフェクトが掛かってしまっています。ただ、[拡散]エフェクトが適用される前の「E」が合成されているため、分かりにくくなっているだけです。これは不適切なコンポジットに見えます。この場合の正しい方法は、まず「E」レイヤーと「After ffects」レイヤーに分離して、「After ffects」レイヤーの方にだけ[拡散]エフェクトを適用するという手順です。
調整レイヤーの不透明度についても、正しい理解が必要です。調整レイヤーの不透明度を下げると、エフェクトの効果が弱まるような気がしますが、実際は違います。
ブラーエフェクトを調整レイヤーで適用して、不透明度を下げると分かりますが、ブラー量が小さくなることはありません。なんだかホワッとした合成結果になるだけです。
これは「元画像」と「ブラー適用後の画像」の2つがブレンドされているだけです。ここでもやはり、2つの画像の合成が行われています。
調整レイヤーにエフェクトを追加すると、合成モードが機能するようになります。[通常]から[スクリーン]や[オーバーレイ]などに切り替えることができます。個人的には使いません。しかし、調整レイヤーの合成モードを好んで変更するユーザーもいます。
どんな効果を得られるか、実際にやってみるのが早いと思います。まず、調整レイヤーでブラーを掛けてください。次に、この調整レイヤーの合成モードを[スクリーン]に変更します。そうすると、画像が明るくなります。
何が起きているのか、もうだいたい想像がつきそうです。この合成結果は、「元画像」に「ブラー適用後の画像」をスクリーン合成した結果と一致します。やはり2つの画像を1つに合成しているのですが、そのときのブレンド方法がスクリーンになっています。つまり、このような処理をイメージできます。
これで調整レイヤーの正体はつかめたと思います。調整レイヤーは「透明なフィルター」のように思われがちですが、それは間違ったイメージです。ソフトの内部で何が起きているかイメージすると、正しく理解できます。実際の調整レイヤーは、「その下にあるレイヤーの合成結果の複製」というイメージです。
調整レイヤーの使い方がだいぶ分かったような気がします。調整レイヤーにマスクを切ると、正しくない処理になってしまう場合があります。でも、「正しくない処理だけど分からないから別にいいじゃん!」という判断もよくあることで、それもまた合理的だったりします。
大事なのは自分が何をしているか、きちんと分かった上でソフトを操作するということです。迷いなくソフトを操作できるようになれば、効率も上がり、ミスも減ります。なにより、コンポジットがもっと楽しくなると思うのです!
本気でAfter Effectsを使いこなしたいなら、調整レイヤーの働きを正確に知っておくことが重要です。使っているときに「なんでこういう結果になるんだろう?」と疑問に思うことがなくなって作業が速くなりますし、うっかり不適切な処理をしてしまうといったミスもなくなります。そこで、After Effectsの調整レイヤーがいったいどのように働いているかということを解説しようと思うのです。
1. 調整レイヤーとは何か?
ではさっそく調整レイヤーについて説明します。After Effectsの調整レイヤーは、エフェクトをまとめて掛けたいときに便利な機能です。たとえば、すべてのレイヤーにまったく同じエフェクトをかけたいとき、各レイヤーにエフェクトをコピーするのは面倒ですし、修正しにくくなります。
調整レイヤーを使えば、まとめてエフェクトをかけられます。簡単ですし、修正が容易になります。
Adobe公式ヘルプでは、このように説明されています。
調整レイヤーに適用したエフェクトは、そのレイヤーの下にあるすべてのレイヤーに適用されます。(略)調整レイヤーのエフェクトはその下にあるすべてのレイヤーに適用されるので、一度に多数のレイヤーにエフェクトを適用する場合に便利です。
つまり、こういうイメージですね。
しかし、この説明は完全に間違いです。この説明のせいで、初心者ユーザーはおかしなことを言い始めます。例えば、「調整レイヤーを途中で止めたい」「調整レイヤーを特定のレイヤーにだけ適用したい」「調整レイヤーの影響から除外させる方法は?」といった具合です。結論から言うと、調整レイヤーの下にあるレイヤーは、その影響から逃れることはできません。
なぜ調整レイヤーの影響は途中で止められないのでしょうか?その理由をちゃんと分かっていた方が良いと思うのです。
2. レイヤー合成とは何か?
答えは、そもそもレイヤー合成とは何か、という所にあります。一般的に合成というのは、2つの画像を1つにするというだけのシンプルな処理を、何度も繰り返しているにすぎないのです。たとえば、こんな感じです。
◆ステップ1・・・「空」の手前に「森」が合成される
◆ステップ2・・・「ステップ1の合成結果」の手前に「鳥」が合成される
こんなふうに、2つの画像を1つにするという処理を、奥の方から何度も繰り返してるだけなのです。1番下のレイヤーに1枚ずつ固めているわけです。ということは、あるレイヤーが重ねられる瞬間、実はその下にはいつでも「合成済み画像」しか存在していない、と考えることができます。これこそ、正しいレイヤー合成のイメージです。
3. 調整レイヤーの正体
話を調整レイヤーに戻しましょう。もう調整レイヤーの正体が何なのか分かったと思います。調整レイヤーのエフェクトが働くとき、そこにはすでに「合成済み画像」しか存在していないのです。
調整レイヤーのエフェクトは「すべてのレイヤーに適用」されているのではありません。合成結果に対してエフェクトを適用しているのです。実はヘルプにもちゃんと書いてあります。凄く分かりにくいですが!
“詳しく説明すると、調整レイヤーは、レイヤーの重なり順で調整レイヤーの下にあるすべてのレイヤーから作成されたコンポジットにエフェクトを適用します。”
これが、調整レイヤーを途中で止められない理由です。もし「調整レイヤーを一部のレイヤーにだけ適用したい」という場合は、プリコンポーズを行うしかありません。プリコンポジションの中は事前に計算され、レンダリング済の1枚の合成結果になるので、結果として一部のレイヤー群だけにエフェクトを適用することが可能になります。
誤解されがちですが、プリコンポジションというのは「単にレイヤーをまとめる」という機能ではありません。レイヤーを事前に合成済みにするという、非常に重要な機能なのです。
4. 調整レイヤーのマスクとは何か?
調整レイヤーにマスクを切る、というのはよくやります。画像の一部だけ色を変えるようなカラコレを行うことができます。「マスクの境界のぼかし」機能も便利です。
ただ、調整レイヤーにマスクを切るときには注意して欲しいことがあります。このとき何が起きているのか、という点です。「画像の一部にだけエフェクトを適用している」という考え方は間違いです。理由は、色調補正ではなくブラーなどのエフェクトを加えたときに分かります。
実際にやってみましょう。ここでは分かりやすいように市松模様にエフェクトを掛けてみようと思います。まず、調整レイヤーでブラーを掛けてください。次に、この調整レイヤーにマスクを切り、マスクのエッジをぼかします。ボケマスクの境目のあたりには、ブラー量が小さくなるのではなく、2つの画像がダブって見えます。
どうやら「元画像」と「ブラー適用後の画像」がブレンドされているようです。これは調整レイヤーが合成を実行していることを意味しています。例の、2つの画像を1つにするという処理です。「元画像」の上に「ブラー適用後の画像」を重ねています。
ということは、「画像の一部にエフェクトを掛けたい!」と言って調整レイヤーにマスクを切るというのが不適切な場合があるということです。色調整のエフェクトなら良いのですが、問題はブラーやディスプレイスのように形を変えるエフェクトです。たとえば一部だけブラーを掛けるとき、徐々にブラー量が変わっていくような表現は調整レイヤーにボケマスクを切ってもできません。徐々にブラー量が変わっていくようにしたい場合は、[ブラー(合成)]エフェクトや[ブラー(カメラレンズ)]エフェクトのようなグラデーションマップを元にぼかすエフェクトやプラグインを使うべきです。
同じ理由で、ディスプレイス効果をやるときも要注意です。画像の一部だけ揺らぎ・歪みエフェクトを掛けたいと言って、[タービュレントディスプレイス]エフェクトを適用した調整レイヤーにボケマスクを切るのは、あまりオススメできません。揺らぎに強弱をつけたいなら、[ディスプレイスメントマップ]エフェクトを使い、マップレイヤーをつくるプリコンポジションの中で調整しなければなりません。
調整レイヤーにマスクを切ることについての誤解は本当に多く、Adobe公式にさえ「悪い例」があります。[Creative Cloud 入門] マスク機能を利用して一部だけにエフェクトを適用するというウェブページでは、調整レイヤーに[拡散]エフェクトを適用してマスクを切っています。それによってアルファベットの「E」だけには[拡散]エフェクトが掛からない……という説明ですが、よく見ると「E」にも[拡散]エフェクトが掛かってしまっています。ただ、[拡散]エフェクトが適用される前の「E」が合成されているため、分かりにくくなっているだけです。これは不適切なコンポジットに見えます。この場合の正しい方法は、まず「E」レイヤーと「After ffects」レイヤーに分離して、「After ffects」レイヤーの方にだけ[拡散]エフェクトを適用するという手順です。
5. 調整レイヤーの不透明度とは何か?
調整レイヤーの不透明度についても、正しい理解が必要です。調整レイヤーの不透明度を下げると、エフェクトの効果が弱まるような気がしますが、実際は違います。
ブラーエフェクトを調整レイヤーで適用して、不透明度を下げると分かりますが、ブラー量が小さくなることはありません。なんだかホワッとした合成結果になるだけです。
これは「元画像」と「ブラー適用後の画像」の2つがブレンドされているだけです。ここでもやはり、2つの画像の合成が行われています。
6. 調整レイヤーの合成モードとは何か?
調整レイヤーにエフェクトを追加すると、合成モードが機能するようになります。[通常]から[スクリーン]や[オーバーレイ]などに切り替えることができます。個人的には使いません。しかし、調整レイヤーの合成モードを好んで変更するユーザーもいます。
どんな効果を得られるか、実際にやってみるのが早いと思います。まず、調整レイヤーでブラーを掛けてください。次に、この調整レイヤーの合成モードを[スクリーン]に変更します。そうすると、画像が明るくなります。
何が起きているのか、もうだいたい想像がつきそうです。この合成結果は、「元画像」に「ブラー適用後の画像」をスクリーン合成した結果と一致します。やはり2つの画像を1つに合成しているのですが、そのときのブレンド方法がスクリーンになっています。つまり、このような処理をイメージできます。
これで調整レイヤーの正体はつかめたと思います。調整レイヤーは「透明なフィルター」のように思われがちですが、それは間違ったイメージです。ソフトの内部で何が起きているかイメージすると、正しく理解できます。実際の調整レイヤーは、「その下にあるレイヤーの合成結果の複製」というイメージです。
7. おわりに
調整レイヤーの使い方がだいぶ分かったような気がします。調整レイヤーにマスクを切ると、正しくない処理になってしまう場合があります。でも、「正しくない処理だけど分からないから別にいいじゃん!」という判断もよくあることで、それもまた合理的だったりします。
大事なのは自分が何をしているか、きちんと分かった上でソフトを操作するということです。迷いなくソフトを操作できるようになれば、効率も上がり、ミスも減ります。なにより、コンポジットがもっと楽しくなると思うのです!
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