仕事においては、やはりカラダが資本。多忙な中でも最高のパフォーマンスを発揮し続けるには、日ごろからの健康管理が欠かせない。一流人が実践する健康マネジメント術を紹介する本コラム、今月はローソンの玉塚元一会長CEOにご登場いただく。学生時代はラグビーに打ち込み、厳しいトレーニングに明け暮れていたという玉塚さん。厳しいトレーニングを乗り越えた経験は、その後の人生において大きな財産になったといいます。
学生時代は中学から大学まで、ラグビーに明け暮れました。練習がとにかく厳しくて、骨折や打撲などのケガが絶えず、頭は延べ40針以上縫っています。
体が動かない日でも1時間の山道ダッシュ
とくに大学時代の夏の山中湖での合宿は地獄でしたね。普段も毎日4~5時間の猛練習をこなしていましたが、山中湖合宿では3週間にわたって連日、早朝、午前、午後と8時間はしごかれました。合宿所は小高い山の上にあり、その麓から山道を駆け上がって、また戻る。全力でダッシュすると1周3分くらいなのですが、それを10周、20周と休みなく繰り返します。でも、これはまだ序の口で、体をほぐすためのウォーミングアップなんですよ。
「ゴロゴロ」と呼んでいた練習もきつかったですね。コーチが蹴ってゴロゴロと転がったラグビーボールを、全力で追いかけ、飛び込んで押さえる。起き上がってコーチの元に戻ってボールを渡すと、またすぐにボールを蹴ってゴロゴロと転がし、セービングに走る。試合で相手とのボールの取り合いに勝つために大切な練習なんですが、これをひたすら続けるわけです。当時のグラウンドは芝ではなく土でしたから、セービングのたびに皮膚が擦り剥けて傷だらけ。終わるころには疲れと痛みで涙が自然にこぼれ、最後は気を失ってぶっ倒れることもありました。
1週間くらい過ぎると心身ともにボロボロで、朝起きたときに「もう絶対に動けない!」と思うんです。それでも15分後には、山をダッシュで駆け上がっているんですよね。こんな経験を乗り越えると、怖いものはなくなります(笑)。たいがいのことでは「死にはしない」と思えるんですね。この「死にはしない」という感覚がいつも根底にあって、ビジネスでの逆境を乗り越える力にもなっていると思います。
メンタルを磨いてくれた“根性練”、現代では難しい
大学最後の年、84年度の大学ラグビーで、選手の素質や体格にはそれほど恵まれていなかった慶應が、優秀な人材を引き抜いていた明治や早稲田といった強豪を倒せたのは、「ゴロゴロ」のような地道で厳しい練習を耐え抜いたからこそでしょう。全国大会決勝の同志社戦では、慶應が終了間際に同点トライを決めたと思われるシーンがありましたが、スローフォワード(ボールを前方に投げる反則)の判定で惜敗、準優勝に終わりました。人は勝利よりも敗北から多くのことを学びます。「なにくそ!」という悔しさが、次への原動力になるんですね。
ただ、もし今、当時のような厳しい練習をやれといわれたら、いくらお金を積まれても絶対にやりません(笑)。個人的には人生の大きな財産といえる経験だったと思っていますが、コンプライアンスに厳しい今の時代ではいわゆる“根性練”は難しい。現代ではできる限り科学的なトレーニングで、プレーヤーの潜在能力や強さを引き出していくことが重要でしょう。ビジネスでも、限られた時間で効率的に生産性を上げていくことが求められています。スポーツにおけるコーチも、ビジネスにおけるリーダーも、このことをしっかりと考えていく必要があると思います。
7人制ラグビーで膝を大怪我、それでもトライアスロンにランニング
大学を卒業後は旭硝子に入社して、27歳のときにシンガポールへ赴任。そのときも、地元のクラブチームに所属し、ナショナルチームの代表にもなりました。駐在最後の年となった31歳のとき、「香港セブン」という7人制ラグビーの世界的な大会が香港で開催され、オーストラリアの強豪チームと戦うチャンスが巡ってきました。
スペースのある7人制ラグビーでは、スピーディーにパスを回すのが基本。でも、自分がボールを受けたとき、20mほど先にティム・ホランという憧れの有名選手の姿が見えました。これは一生に1度のチャンスだと思って、ティムのほうへまっしぐらにアタックしていったんです。そこで脚に強烈なタックルを受けてしまい、左膝がガクッと真横を向いてブラブラの状態にクラッシュ。そのまま担架で運び出されてしまいました。
検査を受けると膝の靭帯と半月板が損傷していて、手術を3度受けました。この大ケガがもとで、ラグビーのような激しいスポーツや、膝に負担がかかる運動は断念せざるを得なくなりました。
その後に出会ったのが、トライアスロン。トライアスロンもハードなスポーツではありますが、スイム、バイク(自転車)、ランの3種で、体にかかる負担を分散できるんですね。スイムとバイクは膝にはそれほど負担はかかりません。「アイアンマン」のレースでは最後のランが42kmあるので私には難しいですが、「オリンピックディスタンス」のレースなら10kmなので、これならいけると喜んで始めました。経営者仲間とロタ島などのレースに参加していましたが、ローソンに来てからは多忙でトレーニングの時間をとるのが難しいので、最近はジョギングを楽しんでいます。
(まとめ:田村知子=フリーランスエディター/インタビュー写真:竹井俊晴)
ローソン代表取締役会長CEO
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