特集「今こそ明るい未来予測 先行き不安を吹き飛ばせ」連動記事の1回目は、世界各地をバイクで旅行しながら、独自の観点で投資先を見出す「冒険投資家」ジム・ロジャーズ氏のインタビュー。ロシアを推す背景や、他に注目する複数の国など、その大胆な未来予測に迫った。
ロシアを今後有望な国に挙げています。現状をどう見ますか。
ロジャーズ:経済は底を打ったとみています。原油価格が上昇に転じ、原油など天然資源の輸出で稼ぐロシア経済への悪影響が薄らいだからです。資源の輸出で潤い、政府債務が少ないことも評価する理由です。
ロシアには原油や天然ガス以外にも、世界を救うような、知られざる天然資源があるでしょう。国土が広大で農業も発展しつつあります。 ウクライナへの軍事介入で欧米諸国が対ロ制裁を続けています。このことでロシアは中国などアジア寄りになっています。中国がインフラ建設をテコに、欧州などと結ぶ新たなシルクロード「一帯一路」構想を進めることも、ロシアにはプラスに働くでしょう。
温暖化で農業生産に適した環境に
なぜ農業に注目するのですか。
ロジャーズ:ロシアでは冬場に寒く、土壌が凍る地域が多いです。しかし、他の季節は良好な環境。気候の変化で、これまで涼しい夏場に暖かくなる地域も出てきました。穀物などの生産に適した環境になってきているのです。
世界の人口が増え続けて食糧の供給が課題となっているのに、世界の農業は恐ろしい状況になっています。それは農家の平均年齢の高齢化で、米国では58歳、日本では66歳になっています。世界では農家の自殺も増えています。ロシアは第2次世界大戦で国土が焼かれたので、農業をやめて都市部に移住する人が増えました。
ロシアはあれだけ国土が広大なのに、人口は日本より少し多い1億4000万人程度。特に極東では人口密度が低く、空いている土地が多くて非常にチャンスがあるのです。ですが、ほとんどの人はこの実態を知らない。だから米国やドイツ、オーストラリアに移住しようとするのです。
だからもし興味があれば、あなたもぜひロシアに移住して農業を始めなさい。
ロシアへの移住は進んでいますか。
ロジャーズ:一部の人が移住しています。主にカザフスタンやウズベキスタンなど、旧ソビエト連邦諸国からです。ドイツや米国、オーストラリアのように、様々な国の移民を積極的に受け入れていて、移民が続々と入っていく、という形にはすぐにはならないでしょう。
ロシアではウラジーミル・プーチン大統領の長期政権が続いています。独裁体制への批判など、政治リスクはありませんか。
ロジャーズ:政治リスクは日本や米国も含めて、世界のどの国にもいつでもあります。ロシアだけに限ったことではありません。
プーチン氏の後も、ロシアで強いリーダーは登場するでしょうか。
ロジャーズ:プーチン氏はまだ63歳と若く、これからもしばらくは政権を担うでしょう。もしプーチン氏が去ったとしても、強い指導力を持つ人物が現れ、次のトップになるでしょう。
ロシアは今後の世界経済でどのような地位を占めますか。
ロジャーズ:将来、世界1位の経済大国は中国になるでしょう。私はロシアが、中国に次ぐ第2位の経済大国になる可能性があると予想しています。
朝鮮半島、あと数年で統一される
他に注目する国や地域の状況も教えてください。
ロジャーズ:まずは朝鮮半島です。あと数年で、韓国と北朝鮮は統合するでしょう。1つの国家になれば人口は約7600万人。北朝鮮の中国との国境付近には、教育水準が高い、安価な労働力が豊富にあります。北朝鮮には天然資源があるし、国土を開放して農家をたくさん受け入れようとする動きにもなるでしょう。また韓国ではたくさんの資本や知識が集積しています。
あなたもバイクで今すぐ朝鮮半島に行くべきです。やるべきことはたくさんあります。
ロジャーズ:次にカザフスタン。この国も豊富な天然資源を持ち、ヌルスルタン・ナザルバエフ大統領も経済の解放を掲げています。ですが、人口は約1700万人とそれほど多くはありません。世界を引っ張っていく力を持つ大国にはならないでしょう。
コロンビア、マリフアナ輸出で成長
面白いのはコロンビアでしょう。約半世紀にわたった内戦がほぼ終わりました。この国ではマリフアナ(大麻)が医療用などで生産され使用が合法化されています。マリフアナは他の国や、米国の州でも使用を合法化する動きが広がっています。この流れで、いつか日本やシンガポールでも合法化されるでしょう。コロンビアはマリフアナの輸出大国として経済成長するのです。美しい国で明るい未来があるので、もしあなたがスペイン語を話すなら、ぜひ現地でのビジネスや生活を考えてみなさい。
明るい予測の一方で、米国は悲観的に見ていますね。
ロジャーズ:米国政府は巨額の債務を抱え、幾つかの州や年金基金は実は破綻しています。米国が存続している唯一の理由は、通貨のアメリカドルを発行する権限を持っているからです。米ドルは現在、最も良い通貨と言えます。なぜなら投資家が他の通貨を買いたがらないから。
確かに英国のEU(欧州連合)からの離脱決定、シリア内戦などの影響で買われている面はありますが、米ドルはバブルのような状況で、過大評価されていると感じます。私は2008年のリーマンショック以降、米国経済の先行きに強気になることができません。
米国の代表的な株価指数、ダウ工業株30種平均も最高値圏で推移しています。
ロジャーズ:確かに指数としては上がっていますが、構成する一部の主要企業の株価が大幅に上がっているだけです。米国株全体で見ると、値下がりしている銘柄も多くあります。今年は年間では、株式相場が下落する年になるのではないでしょうか。
11月に行われる米大統領選の行方も気がかりです。
ロジャーズ:大統領選で仮に共和党のドナルド・トランプ候補が選ばれて、彼が主張する政策をその通りに進めたら、様々な破産や、他国との戦争を引き起こすでしょう。メキシコとの間で貿易戦争が起こり、経済に悪影響を及ぼすでしょう。民主党のヒラリー・クリントン候補が新大統領になっても、状況はあまり変わらないと思います。
日本の若者はロシアや韓国に移住を
日本の先行きも悲観的に見ています。
ロジャーズ:日本では2009年をピークに、人口減少が続いています。これは他のどの国にとっても望ましいことではありません。日本は素晴らしい国で、東京は日本で私が最も好きな都市の1つです。しかし今の日本は、巨額の借金のために借金を重ねている状況で、全てが悪い方向に進んでいます。安倍晋三首相は日本を救うべく努力していますが、政策が成功するとは思いません。
では何をすれば良いか。私は日本の若者に対して、ロシアや韓国に移住した方が良いとアドバイスしたいです。
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