(前回から読む)
“店持ち小売り”を越える
川島:これからのビームスについて、設楽さんはどんなビジネスを考えているのですか。
設楽:eコマースの時代になっていくと、前回もお話したように、リアル店舗の果たす役割が、もっと明確になっていくと思うのです。自分たちが“店持ち小売り”であることを越えなきゃいけないって強く感じていますね。
川島:“店持ち小売り”を越えるってどういうことですか?
設楽:うちの持っている特徴って何だろうと考えてみたのですが、行き着いたのは“キュレーション”ということ。そこが、これからうちのビジネスになっていくと思っています。
川島:“キュレーションビジネス”ですか? 何だかインターネットのメディアビジネスと同じですね。
設楽:おととし、実験をやってみたんです。楽天の三木谷浩史さんから「ビームスを出店してほしい」と言われたのですが、うちは既に、アマゾンにもゾゾタウンにも出ているし、自社サイトもやっている。だから、単に楽天に出店しても面白くない。
じゃあ何ができるだろうか。そこで、三木谷さんに、楽天にどれくらいの商品数があるのか、聞いてみたら、何と1億3000万点もあるというじゃないですか。そこでピンときた。ビームスが楽天のキュレーターになって、この1億3000万点の商品を “選ぶ=キュレーション”して、ひとつのビームス仮想店舗を作ってしまおうと。
川島:“キュレーション”つまり「選んで組み合わせる」ということは、バイヤーの仕事そのもの。それをそっくり売り物にするということですね。それって考えてみると、リアルなセレクトショップのビジネスと同じといことですね。
設楽:そうそう。「Rakuten meets BEAMS」というページを作って、ビームスが選んだ楽天の商品を提案してみたんです。これって、ラグジュアリーブランドもファストファッションブランドもできないことじゃないですか。セレクトショップのビームスだからこそできるウェブビジネスなんです。
川島:確かに。でもその場合、誰が選んだかがポイントになってきます。知名度や信頼度が低い人がキュレーションしても、お客さんにとって価値がないわけだから。
設楽:そこに、うちがやる意味があると思ったのです。言ってみれば、ビームスのキュレーションライセンス! 選ぶことによって成立するビジネスということです。そう思ったら、うちには、いろいろなジャンルの“キュレーター=目利き”がいるわけです。アウトドアにめちゃくちゃ詳しいやつとか、自転車のことなら何でも知っているやつとか。
センスがいい人たち向けに特化したキュレーション
川島:信頼できる専門家が選んで提案するって、『ポパイ』のような雑誌の編集者の仕事と同じですね。
設楽:僕はもともと、ファッション小売りの中で、ビームスのような「セレクトショップ」は雑誌に近いと感じていました。なぜなら『ポパイ』なら『ポパイ』ならではの情報を、ビームスならビームスならではの情報を選んで編集しているから。コンテンツビジネスという点でも、ビームスと雑誌はよく似ています。たとえば、トレンドの先端を行く服はグラビアページ、ロングセラーの定番アイテムは連載ページといった具合です。
川島:だとすると、いろいろな編集の切り口、考えられそうです。楽天以外の場でも、ビームスはそういった取り組みをされているんですか。
設楽:あります。東急ハンズさんと「ワークハンズ」というのをやっています。これは、農業やガーデニングに使うものを、ハンズさんの品揃えの中から、うちのバイヤーが選んだり、ハンズさんと一緒に仕入れたり、場合によってはオリジナルを一緒に作ったりして、売り場作りするプロジェクトです。
川島:インターネット時代のビジネスの重要な切り口のひとつが「キュレーション」。そのキュレーションをビジネスにした元祖がセレクトショップのビームス。だったらウェブ時代は、ビームスの強みを生かしたビジネスが、いろいろと展開できそうですね。
設楽:大量のビッグデータを持っている企業、それこそアマゾンやグーグルや楽天などが強みを発揮していくのは間違いない。でも、ビッグデータがどかんとあっても、新しいものに反応する人たち、センスがいい人たちに特化した情報の取り出し方というのは、まだ出現していないと思っています。うちがやろうとしているキュレーションビジネスは、そこに大きな可能性があると考えているのです。
かっこいいとは「外し」あるいは「抜き」
川島:最後の質問です。設楽さんにとって「かっこいい」とは何でしょうか?
設楽:よく言っているのは、「外し」あるいは「抜き」ということです。“ファッションはコミュニケーションツール”なんです。びしびしに決めると、ただの自己主張に終わってしまう。どこかに「抜き」を作ることで、他人とつながるファッションになる。そんな心がけをしているのです。
川島:設楽さんからいただく年賀状が、毎年物凄く面白くて。どういうものかっていうと、「時の人」に設楽さんが扮装して登場する。衣装からメイク、ポーズまでばっちりで(笑)。もうそれがなぜか似ていて、くすっと笑えて。マツコデラックスさんのバージョンは、特に思い出深いです。あれも「外し」と「抜き」というわけですね。じゃ、今日のファッションだったら?
設楽:そうですね。(ポケットから小箱を出して)これは僕の名刺入れなんですが、昔の煙草入れ。恐らく江戸時代とかの車引きが、これに煙管を差して、ここに煙草を入れていたわけですが、僕は根付を付けて名刺入れにしちゃってる。こういうのって、見せて話すと「へえ」となるじゃないですか。
川島:確かに。
設楽:これは、名刺入れであると同時にコミュニケーションツールなわけです。そして、「にやっ」としたり「くすっ」とする要素も、かっこいいの中で大事なこと。
川島:最近のファッション業界、そういうかっこいいが減っている気がしますが。
設楽:僕もまずいと感じています。たとえば、ファッションより、飲食の世界の方が面白いし、勢いがあるなって感じます。女の子たちが、レストランやカフェで、どんどん写真を撮ってSNSにアップしているじゃないですか。あれってお店の宣伝になっているし、楽しい雰囲気をどんどん伝えていっているわけです。
一方で、洋服屋はどうかというと、撮ってる子が圧倒的に少ない。もっと撮ってSNSにアップしたくなる雰囲気の店にしていかないと。極端に言えば、「ここで撮るとフォトジェニックだよ」というようなコーナーがあってもいいくらいです。
川島:そうやって、社長のアイデアは泉のように湧いてくるわけですね。
予想を裏切りながら、期待値を上回る
設楽:先ほどお話した「外し」と「抜き」の話で言えば、「こう来たか」ということを忘れちゃいけないんです。つまり、相手の予想を裏切りながら、期待値を上回ることをやっていく。これは、ビームスがビームスであるために、必要不可欠だと思っています。
そして最後に「ビームスジャパン」の話にもどると、日本人の特徴のひとつは、この「外し」と「抜き」のセンスにあると思っていて。海外から輸入した文化を、自分なりに解釈して、「外し」や「抜き」を加味し、新しいものを生み出していく。歴史を辿ると、アートや工芸の中で、そういうことってたくさんあったわけじゃないですか。そこは自信を持って、もっとアピールしていいと思っています。
川島:なるほど「外し」と「抜き」は、「こう来たか」と相手に思わせるものでもありますから。
設楽:かつてウォークマンが世の中に登場した時も、iPhoneをジョブズが発表した時も、「こう来たか」というところ、あったわけじゃないですか。それも、表層的な思いつきじゃなくて、徹底したテクノロジーの追究や伝統伎の掘り下げみたいなことをやった上で、「こう来たか」に持っていくわけです。
川島:何でもかでも「外し」と「抜き」ではなくて、考え抜かれた「外し」と「抜き」ってことですね。しかもそれを、ミーハー的感覚で軽やかに見せるのが、設楽さんっぽいし、ビームスっぽいと思います。
設楽:うちは何か「面白そう」という感じを大事にしてきたんです。
川島:「面白い」じゃなくて「面白そう」ですね。
設楽:「面白そう」には、未来に向けた期待や希望が込められている。そこが大事だと思うんです。いろいろな業界とビームスがコラボする時に、「ビームスに言うと、何か面白いことができるんじゃないかと思って」と言っていただくことが多いのですが、まさに、そこのところ。逆に言えば、そこが薄まってしまったら、うちはおしまいと思っているのです。
川島:そのあたり、最近のビームスもばっちりですか。
設楽:完成した舗装路を上手に運転する人は、確実に増えているのですが、道なきところに新しい道を引ける人が少なくなったと感じています。もちろん、人材の質は確実に上がっています。良いものとか悪いものとか、どういう風にするのがおしゃれかというのも、昔に比べたら格段にわかるようになってきている。
ただ一方で思うのは、自分たちも気づかないまま、固まっているのかもしれないということ。だから、もっと拓いていかないといけないなって思うのです。「面白そう」っていう人たちが、いつもたむろしている企業みたいなイメージ、もっともっと強くしていきたいと考えています。
川島:規模に負けずに設楽流を貫いてください! 次の「かっこいい」、楽しみにしています。
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