「ギンザシックス」は、銀座中央通りに面して、セリーヌやサンローラン、ヴァン クリーフ&アーペルなど6つのラグジュアリーブランドを配置する。それぞれが2~5層を使った旗艦店が並ぶ形だ。商業施設の全体の面積は4万7000㎡と銀座エリア最大となる。Jフロント傘下の大丸松坂屋百貨店、森ビル、住友商事、仏モエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)が出資する不動産ファンドのL Real Estateの4社が共同出資する会社が、開発・運営にかかわる。年商600億円、来館客数は2000万人を目標とする。
「百貨店はやらないという選択をした」
Jフロントは、これまでも従来の百貨店のあり方にこだわらない「新百貨店モデル」を推進してきた。自社の百貨店に、ユニクロや東急ハンズ、ヨドバシカメラなどの有力テナントを大胆に誘致してきた。
百貨店業界では伝統的にアパレル企業などと「消化仕入れ」という独特の契約を結んで売り場を構成するのが一般的だ。売り場にある在庫の責任はアパレル側がもち、商品が売れた時点で仕入れたと見なし、売り上げの一定割合を百貨店が手にする。これに対して、SCでは賃貸借契約が一般的。Jフロントは、テナント導入を加速しながら、慣習にとらわれずに、SC型の賃貸借契約を売り場によって増やしてきた。今回のギンザシックスは、こうした流れの上に、脱百貨店へと思い切り振り切った形だ。
Jフロントの山本良一社長は「経営の視点で言えば、これまで数十年間築き上げたビジネスモデルや成功体験が通じない面が増えてきた。新たな成長を実現するためには、過去の延長線ではなく道無き道を歩んでいかないといけない。銀座では『百貨店はやらない』という決断をした」と話した。
今年に入って、百貨店業界は厳しさを増している。日本百貨店協会によれば、9月まで全国百貨店の売上高は7カ月連続で前年同月を下回っている。頼みのインバウンド需要は失速しており、旺盛だった富裕層の消費も陰りがみえる。Jフロントの百貨店事業の9月の売上高は7.9%減、傘下でファッションビル運営のパルコも6%減となった。
今回のギンザシックスには、長らく銀座に掲げてきた「松坂屋」の名前は、残らない。大丸松坂屋百貨店として物販を手がけるのは、2階に開く売り場「SIXIEME GINZA(シジェーム ギンザ)」など一部に限られる。シューズ、バッグ、ジュエリーを中心とした雑貨を販売する予定だ。大丸松坂屋百貨店の好本達也社長は「(銀座において、松坂屋という)名を捨ててもグループ全体で実を取れる」と説明する。「そもそも銀座エリアでの松坂屋の存在感は、以前の店のままでは時代対応もうまくいかず、(百貨店として)3番目の存在だった。それよりも、時代に合った店を作ることで、今度は名古屋や大阪にいる、当社のお客様に銀座に来てもらえるチャンスも広がる」(大丸松坂屋の好本社長)という。
フロア構成も従来の百貨店のスタイルは当然、採用していない。いわゆる「デパ地下」や「婦人服売り場」、「化粧品売り場」といった構成にはしない。山本社長は、この点について「大きな挑戦になる」と語る。「美や健康をトータルで提供するようなビューティーフロアなど、従来とはまったく違う姿になる。ファッションフロアも、従来のようなアイテムや性別の区切りではなく、夫婦や家族で楽しめるような新しい売り場にする」と意気込む。
「百貨店アパレル」低い存在感
ファッションのラインアップを見ても、「百貨店アパレル」と言われてきた大手国内アパレルメーカーのブランドは少ない。オンワード樫山は「JOSEPH(ジョゼフ)」、ライセンス契約の「PAUL SMITH(ポール・スミス)」の2つ。ワールドは「DRESSTERIOR(ドレステリア)」のみだ。対照的に目立つのが海外ブランドだ。
松坂屋銀座店は2013年6月に営業を終了した。同店の当時の売り上げに比べて、ギンザシックスが目指す年商600億円は圧倒的に大きな規模だ。一方で、賃貸借契約の形態は、大きな利幅が取りにくいビジネスであり、Jフロントの脱百貨店施策の成果は未知数だ。山本社長は、日経ビジネスの2016年1月のインタビューに答えて、こう話していた。
「確かに婦人服は、粗利益率が高いのですが、従来の高いコスト構造の百貨店のままでいいわけがありません。婦人服が少し縮んでも、他で粗利を稼いでお客様の求めているものが展開できるような、低コストの構造に変わっていく必要があります」
50年後を考えた結果、行き着いたという「百貨店をやらない」選択。百貨店の「次」を占う上で、試金石になるのは間違いない。
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