ジャパンディスプレイの業績が悪化している。2016年4~6月期の連結営業損益は、従来予想の10億円の黒字から一転、35億円の赤字に落ち込んだ。売上高の5割強を占める米アップルの販売失速が大きく影響。アップルの戦略に振り回される同社の苦悩が浮き彫りになっている。

「お約束していた数字が守れず、本当に申し訳ありません。不徳の致すところです」
 液晶パネル大手、ジャパンディスプレイ(JDI)の本間充会長兼CEO(最高経営責任者)は9日、都内で開催された決算説明会の冒頭でこう述べた。2016年4~6月期の連結営業損益は従来予想の10億円の黒字から一転、34億円の赤字(前年同期は22億円の黒字)となった。業績不振の理由について、「中国で売り負けてしまったことと、欧米向けの顧客の需要減少が影響している」(本間会長)と説明。「欧米向けの顧客」が米アップルのスマートフォン(スマホ)iPhone向けであることは明らかだ。

急ピッチで建設した白山工場だが、稼働時期は不透明なまま(写真は昨年10月撮影)
急ピッチで建設した白山工場だが、稼働時期は不透明なまま(写真は昨年10月撮影)

株主の革新機構にも支援を要請

 5月以降は資金繰りも大きく悪化し、足元では筆頭株主の官民ファンド、産業革新機構に金融支援を要請している。革新機構の志賀俊之会長兼CEO(最高経営責任者)は以前、日経ビジネスのインタビューで「我々は(JDIを)再生して終わりではなくて、育てて終わりだと思っている。しっかりと地に足を着けグローバルで勝てるような形にしていきたいと考えている」と述べており、金融支援も含め全面的にJDIをフォローしていく考えだ。

 JDIの本間会長は当面の資金繰りに関して、「現在は銀行様より短期の支援をもらっており、事業運営には一切の懸念はありません。産業革新機構からも全面的に支援していくとのコメントをもらっています。どうか資金繰りについてはご安心ください」と説明した。

 JDIのアップル依存リスクは以前から指摘され続けてきた。JDIもリスクを認識しており、中国スマホメーカーの顧客開拓や、車・医療向けなどスマホ以外のパネルの開発などを進めてきた。しかし、2016年3月期の売上高に占めるアップル向けの比率は前年同期比11.9ポイント増の53.7%と初めて5割を超え、アップル依存が年々高まっていることが浮き彫りになった。

 その「ツケ」が回っているのは業績だけではない。石川県白山市に完成したまま未だ本格稼働していない、白山工場にも回ってきている。

動く気配がない新工場

 「白山工場はいつ稼働するのだろうか」
 JDIと取引のある複数の部品メーカー関係者は、白山工場の稼働時期に関してこう囁いている。昨年5月、同工場の建設に着工した際は、今年5月にスマホ換算で月産700万台分のパネルを生産する計画だった。

 主に今秋発売されるアップルのiPhone7向けと見られており、着工から当初の稼働予定まではわずか1年しかなかった。夜中まで煌々と明かりがともる白山工場の建設現場は、地元では「キレイな工場夜景として有名で、わざわざ見に来る人も多かった」(白山市のタクシー運転手)ほどだ。

 しかし、急ピッチで作られた白山工場は、8月現在もいまだ動く気配はない。9日の決算説明会でJDIの有賀修二社長兼COO(最高執行責任者)は「稼働時期は市場のニーズがどの程度あるのかも含めて変わるが、秋口には(稼働したい)と思っている」と述べたが、本間会長は以前、「白山工場を動かすならフル稼働で」と述べている。スマホ市場の減速が懸念される中で、液晶パネルの生産でフル稼働するだけの市場が秋口に生まれるかには、疑問符がつく。

有機ELの生産も視野に

 さらにここにきて、アップルが白山工場で有機EL(エレクトロルミネッセンス)の生産ができないかを検討し始めていると言う。

 もともと白山工場は建設資金の大半である1000億円をアップルが支払っている。JDIは「アップル専用工場ではない」としているが、「導入している設備などもアップルが指名しているものばかり。アップル的には、自社専用の工場と見ている」(液晶業界関係者)。

 そのアップルが現在着目しているのは、液晶ではなく有機EL。来年発売する一部モデルから有機ELを採用すると見られており、2018年以降は韓国のLGディスプレーとJDIから調達したいと考えている。JDIは現在500億円を投じて茂原工場に有機ELの試作量産ラインを構築しているが、「白山工場でも量産できないか、アップルが検討している」(別の液晶業界関係者)と言うのだ。

 ある資料によると、有機ELの生産に欠かせないキヤノントッキの蒸着装置を、アップルの資金援助によって2017年上半期に白山工場に導入する計画が記されていた。白山市役所の担当者も、白山工場の詳しい稼働時期については聞いていない、としたうえで、「設備的には、液晶だけでなく、有機ELパネルの生産に切り替えることができるようにしていると説明を受けた」と言う。

アップル失速後の成長見えず

 白山工場の生産品目が液晶から有機ELに変わっても、「ディスプレー工場であることは変わりがない」(前出の関係者)との見方もある。むしろ、「需要が頭打ちの液晶よりも、今後市場が拡大する有機ELを生産したほうが工場にとってはいいのでは」との声もあがっている。どちらにせよ、アップルの方針で同工場の役割は大きく変わりそうだ。

 アップル依存のリスクについて、以前有賀社長に聞いたところ、「高精細なハイエンドのパネルが我々の強み。この市場を握っているメーカーのシェアを押さえられていないということは、得意分野の一丁目一番地を落としているということ。もし中国メーカーがこの市場の最大手になれば、もちろん我々は営業攻勢をかけていく」と説明した。

 しかし、アップル依存が高まれば高まるほど、同社の戦略はアップルに振り回される形で変更を余儀なくさせられる。アップルが一丁目一番地の座から陥落した際に、JDIは新たな一丁目一番地を取りに行けるだろうか。今のままでは、気が付けば打つ手がないという状況になりかねない。

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