クロマグロに近い味とされるサバ科の魚「スマ」の販売が東京・日本橋で始まった。愛媛県の漁協が販売元だ。大振りで脂も乗った種類を1週間限定で売り出す。今年秋をめどに本格販売も予定している。水産資源の枯渇が深刻な問題になっているが、スマのような「代替魚」が消費者にとって身近な存在になっていきそうだ。

鮮魚売り場に並ぶスマの刺身(日本橋三越本店)
鮮魚売り場に並ぶスマの刺身(日本橋三越本店)

 3月9日朝、東京・日本橋の日本橋三越本店の鮮魚売り場に、スマの刺身がお目見えした。切り身のほか炙り、中落ち、握りなど様々な種類の商品が並び、見た目はマグロやカツオのよう。午前10時の販売開始と同時に買い物客が訪れ、商品を次々と購入していった。

クロマグロの代替で期待

 スマはタンパク質や脂質の含有量がクロマグロとほぼ同じという、隠れた名魚だ。味もクロマグロに近いとされる。

 出荷時の体重は3~4kg程度と、50kgほどある養殖クロマグロの10分の1以下で、ブリよりも小ぶりだ。大きな養殖場や配送設備を用意せず、一般的な養殖設備を転用できる。泳ぎ続けないと死んでしまうのはクロマグロと同じだが、岩場近くにも生息する特性から、障害物を認識し、避けながら泳ぐ能力はクロマグロよりも高い。

 こうした養殖のしやすさに加えて、味も良いことから、資源の確保が難しくなっているクロマグロの代わりに利用できるとの期待が高まっている。愛媛県と、愛媛大学南予水産研究センター(愛媛県愛南町)が2011年から研究し、地元の養殖業者がスマを養殖している。

 愛媛県はこのスマの中でも、体重2.5kg以上、脂肪含有率が本マグロの中トロ相当以上に当たる平均25%以上のスマを厳選。「伊予の媛貴海(ひめたかみ)」というブランド名で地元の漁協が販売する。日本橋三越本店で売り出したのも、この伊予の媛貴海だ。愛媛県漁政課は「マグロよりも脂のキメが細かく、口当たりはなめらか。刺身や炙りのほか、酢飯にも合う」とアピールしている。

 日本橋三越本店では3月15日までの1週間、毎日5尾分を限定販売。水揚げ量が限られるため販売量も少ないが、現在は量産化の準備を進めている。今年秋をめどに本格販売し、他の首都圏の百貨店のほか、高級スーパー、飲食店にも売り込む予定だ。

愛媛大学南予水産研究センターでは、低温耐性のスマの開発など量産化への研究を続けている(愛媛県愛南町)(写真:菅野勝男)
愛媛大学南予水産研究センターでは、低温耐性のスマの開発など量産化への研究を続けている(愛媛県愛南町)(写真:菅野勝男)

 日本橋三越本店の売り場に並んだスマの商品を見ると、5貫入りの握りや6切れ入りの刺身、中落ち100グラムで価格が1300~1500円台だった。他の刺身に比べると価格は高めで、タイの刺身の約3倍といったところか。幅広い消費者の支持を集めるには、販売価格の引き下げが不可欠。そのためには、養殖コストをいかに抑えるかが今後の課題だろう。

課題は養殖コスト低減

 スマは小さいうちは空腹になると共食いを起こすことが多いため、生の魚を餌としてこまめに与えるなど、養殖方法に工夫を重ねている。この餌の種類や、与え方などに改良の余地がありそうだ。スマは愛媛県のほか和歌山県でも研究、養殖を進めているが、「餌を工夫するなど養殖コストを抑えて、採算が合うように研究を続けている」(農林水産総務課)。こちらも悩みは同じのようだ。

 スマは太平洋やインド洋の温帯・熱帯域に生息する魚で、国内でも愛南町や、和歌山県の一部など平均水温が高めの地域でしか育たない。そのため愛媛大は、より低い海水温でも育つ「低温耐性」のスマの開発も進めている。低水温に強いスマ同士を掛け合わせる取り組みだが、研究が成功すれば、愛南町の北部で、愛媛県宇和島市など養殖業が盛んな地域での養殖も可能になる。

 愛媛では2016年度までは県が補助金を出すなどスマの養殖を支援するが、17年度以降は養殖業者たちの取り組みに任せたい意向だ。自治体の支援がなくなっても事業として続けられるか。スマが消費者に身近な魚として根付くには、水揚げ量の増加と、コスト低減への取り組みを急ぐ必要がある。

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