「複数のunsolicited(アンソリシテッド)な買収提案を受領した。株主価値の最大化を目指し、競争的な戦略検討を開始する」
2023年8月、米鉄鋼大手のUSスチールが発表したリリースだ。USスチールには同年春以降、様々な企業から提案が持ち込まれていた。3月、ある社から合弁事業の検討要請が寄せられると、6月には別の会社からUSスチールの一部事業の買収提案があった。さらに7月、米鉄鋼大手のクリーブランド・クリフスが100%買収の提案を行った。複数の提案にもかかわらず、いずれも成約までには至らなかったため、より魅力的な買収案を募るため、USスチールは同意なき買収の存在を公表した。
呼応した複数社がUSスチール買収に名乗りを上げ、最終的に約2兆円の買収額を提示した日本製鉄が制した。今や、買収完了を巡り、日米両政府を巻き込む政治案件化しているのは、周知の通りだ。
■本連載のラインアップ
・第一生命がベネワン争奪戦で破ったタブー 担当者が明かす対抗TOBの内幕
・ニデックのTAKISAWA買収、あえて待つ永守流 過去の失敗に学ぶ
・ニデック永守氏「基本はもめない方がいい」 徹底分析がTOB成功のカギ
・「同意なき買収」の20年史 王子製紙がたたいた扉が今開く
・同意なき買収とは何か 経産省「企業買収における行動指針」を解説
・ローランドDG買収を断念、ブラザーが翻弄された「ディスシナジー」防衛策
・日本製鉄のUSスチール買収を生んだ 米国流の「招かれざる提案」(今回)
アンソリシテッドな提案とは、買収対象の会社の意向に関わりなく提示される案のことを言う。日本語では「招かれざる提案」や「一方的な提案」などと訳され、敵対的(ホスタイル)でも友好的(フレンドリー)でもない中立的な状況を指す。経済産業省がいう「同意なき買収」は、敵対的だけでなく、アンソリシテッドな提案の一部も含む。米国の同意なき買収は、どう進んでいくのか。一例を見てみよう。
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