「スカスカおせち」で世間を騒がせたあのグルーポンが今年末、おせちのクーポンを販売する。クーポン商品としておせちを扱うのは、4年ぶり。騒動を引き起こした2010年末のおせちは1店舗、1種類だったが、今回は5店舗、計15種類程度を用意する。11月にも予約販売を開始し、事前に試食できるイベントも実施する計画だ。

2011年正月に騒動を巻き起こしたグルーポンの「おせち」クーポンの販売画面

 どうしても、あの記憶が蘇る。「12月31日着、ワイン・シャンパンに合うお節33品、配送費込。定価2万1000円のところ、50%OFFの1万500円でご堪能いただけます!」――。

 2010年12月、グルーポンのサイトでそう謳われていた豪華おせちが、蓋を開ければ中身はスカスカ。大晦日の配送を確約していたにもかかわらず、元日以降に遅配されたところもあり、年明けからメディアを巻き込んだ大騒動に発展した。

ネット上には次々と購入者が写真をアップし、多数の「まとめサイト」なども作られた。画像はその1つ

 米グルーポンの創業者、アンドリュー・メイソン最高経営責任者(CEO)がビデオで謝罪。グルーポンはおせち購入者に全額を返金し、5000円相当分の商品を提供する形で幕引きした。

「本当に間違ったことで、最悪なこと」

 あれから約3年9か月。グルーポンはどう変わったのか。なぜ、あえておせちを復活させるのか。今回は本当に大丈夫なのか。筆者は当時、グルーポンでクーポンを販売した店舗を広範囲に取材し、「クーポンサイト、隆盛の陰にひそむ危うさ」という記事にまとめた。グルーポンの強引で荒っぽい営業体質を報じただけに、直接、確かめたい。

 10月中旬、東京・渋谷のオフィスビルに入居するグルーポン・ジャパンの本社を久方ぶりに訪れ、米グルーポンのカル・ラマン最高執行責任者(COO)におせち復活の真意と覚悟を聞いた。

 ラマンCOOは、アジア太平洋地域を統括するグルーポンAPACのCEOでもある。米イーベイ、アマゾンなどの幹部を経て、騒動後の2012年にグルーポンに移り、日本法人の立て直しも直轄してきた。そのラマンCOOにまずはおせち騒動について突っ込むと、彼はこう答えた。

 「私たちにとってあの騒動はとても受け入れがたいことであり、同時に非常に重い責任を背負いました。本当に間違ったことで、最悪なことだと思っています。言い訳はしません、おせちに関しては」

 米eコマース界のエリートの口から出てきたのは、意外なほど真摯で率直な反省の弁だった。そして、この3年弱、再発防止のためにいかに組織や業務を変えてきたかをアピールした。

米グルーポンのカル・ラマンCOO。米イーベイ、アマゾンの上級副社長などを経て2012年にグルーポンへ(撮影:陶山勉)

 「我々はおせちの事件をいいチャンスだと思い、この数年間ずっと、サービスのクオリティーを高める努力をしてきた。従業員、パートナー、業務プロセス、この3つのクオリティーを重点的に改善してきた。この改善は長い旅をしているようなもので、終わりはありません」

 ラマンCOO曰く、クーポン商品を開拓する営業部隊の評価制度を、それまでの売上げ偏重から、クーポンを利用した消費者の満足度も加味するよう改めた。クーポン商品を掲載するか否かの審査基準も厳格化し、従前の7倍近い200項目とした。

 さらに、それまで外注していたサイト制作を内製とし、消費者の目に触れる最終的な掲載情報を内部で複層的にチェックするようにした。サポート体制も見直した。騒動以前はメール対応のみで72時間以内の返信率が7割だったが、電話での問い合わせも開始し、約98%の受電率、24時間で約94%のメール返信率まで引き上げたという。

しわ寄せや歪みが飲食店に向かう構造問題

 しかし、ラマンCOOの言葉を簡単に受け入れ、安心するわけにはいかない。事の本質は強引な営業体質であり、消費者保護と同時に、クーポンの販売元となる店舗の保護も課題だったからだ。

 2010年7月のサービス開始時、わずか20人ほどだった従業員数は、10月で約200人、年末には約700人まで膨れた。雨後の筍のように一気に100社以上がひしめき急拡大したクーポン市場で、熾烈な競争に晒されていたグルーポン・ジャパン。一方、長引く不況下で飲食店を中心とする店舗も、ある一定期間、大幅に割り引くクーポンで集客する「フラッシュマーケティング」という手法に頼り始めていた。

 グルーポンの営業担当はそうした店舗の事情につけ込み、「上限枚数の妥当性」のチェックを疎かにして攻勢をかけた。50%以上の大幅割引はざらで、サイトには魅力的な文言が並ぶ。結果、クーポンが売れすぎて消費者が店舗に殺到し、満足なサービスが提供できない例は枚挙に暇がなかった。おせち騒動は、その氷山の一角に過ぎない。

 嵐のように消費者が過ぎ去り、後には「安かろう悪かろう」の悪評しか残らない。グルーポンを利用したある店舗の店長は「クーポンをやって得をしたのはグルーポンだけで、僕らは使い捨てにされたような気分。このままでは、焼き畑にされる」と吐露した。

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