
★★★★★★★★★☆
LAのシンセ・ファンク・ガール、Ramona Gonzalezこと、Nite Jewelの新作。前作『Good Evening』はチルウェイヴの文脈で評価されたが、そのプロデューサーがアリエル・ピンクのギタリストCole MGNであること、またデイム・ファンクとのエレクトロ・ブギー・ユニットNite Funkや、Julia Holterとのアンビエント・ユニットNite Jeweliaといったの活動を考えると、彼女の本質はチルウェイヴというよりは、アリエル・ピンクらに代表されるローファイ・ポップやストーンズ・スロウ以降再熱したブギー・シーンなどの組み合わせにあると言えるだろう。新作発売に先立って公開された「Autograph」はデイム・ファンクが参加した、ミッド・グルーヴのシンセ・ファンク。タイトル曲も同系統の曲だが、前作の半数ほどを占めていたそうしたエレクトロ・ブギーは控えめで、St.ヴィンセントを彷彿させるポップ・チューンや、ビートを抑えたアンビエント曲などが中心になっている。つまり、より歌メロのセンスの良さが際立っているわけだが、それをさらに引き立てているのが、前作同様プロデュースを務めているCole MGNの仕事。極端なローファイ・サウンドでチープにすら感じられた前作とは違い、80年代ブラコンを思わせる、メロウでアダルト、かつ ヴォーカル・パートの抜けが良い、ムード歌謡プロダクションが施されており、歌モノとしてもシンセ音楽としても非常にバランスの良い一枚になった。



★★★★★★★★★☆
Nite Jeweilaのもうひとり、ジュリア・ホルターの新作も出た。彼女は上のナイト・ジュエル新作にもコーラスで参加しており、このアルバムにもやはりCole MGNがかかわっているが、こちらはムード歌謡ではなく、“宗教歌”のような風合い。程よくローファイな音像が、幻想的なアンビエント・サウンドを神々しく飾り立てている。シンセやオルガンを中心に、ネオ・クラシカルなアンサンブル、オペラともゴスペルともとれる荘厳なアレンジ、アジア~中東的なメロディ(「Our Sorrow」では北インドの古典音楽のメロディを歌っている)、リヴァーブがかけられたヴォーカルなど、神秘的な印象の要素を多分に含み、ヴァージニア・ウルフやフランク・オハラなど、文学作品から採られた歌詞も併せ、どこまでも霊妙でファンタジックな世界が展開されている。となると、エンヤを彷彿させるが、荘厳ななかにもUSインディ・ロックらしい部分がちらほら顔を出し、ナイト・ジュエルやアリエル・ピンクなど、彼女の周辺アーティストとのつながりも同時に思わせる。全体的に素晴らしい出来だが、ヴォコーダー・ゴスペル「Goddess Eyes I」 「Goddess Eyes Ⅱ」 が白眉。ロボ声クワイアをバックにリヴァーブ・ヴォーカルでリードをとるジュリアの声は神に語りかけるシスターのそれのようでもあるし、黄泉の国からの声のようにも聞こえる。理想的なロボ声使いなのだ。
Julia Holter - Marienbad by RVNG Intl.
Julia Holter - Goddess Eyes by Squealer Mag

★★★★★★★★☆☆
Crystal Stilts, Dum Dum Girls, Vivian Girlsなどでドラマーとして活躍していたブルックリンのフランキー・ローズの新作。彼女が在籍していたローファイ・ガレージ・バンドはどれも好みではなかったが、このソロ作はSt.ヴィンセントを思わせるファンタジックなロック・アルバムで、愛聴している。St.ヴィンセントのような痺れるソロはないものの、ベースであるガレージはそのままに、神秘的かつ乙女チックなシンセやコーラス、あるいはリヴァーブ的なエフェクト処理を多用することで、彼女に似たフェミニンでミステリアスな魅力を得ている。さらに、「Pair Of Wings」や「Apples For The Sun」、「The Fall」などは、美しい、幽玄なアンビエント曲に仕上がっていて、それこそJulia HolterやNite Jewelとの近さも感じさせる。
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