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かっこつけて英語のタイトルをつけてみたが、要はブルー・アイド・ソウルのいま、について。ブルー・アイド・ソウルといえば、文字通り、ソウル・ミュージックに影響を受けた青い目の人たち(aka 白人)の音楽のことで、例えばホール&オーツとかフェリックス・キャバリエとか、まぁ、あとは各自でいろいろ挙げて楽しんでもらいたいのだが、そうだ、先日亡くなったエイミー・ワインハウスなんかもそう括れるシンガーのひとりだ。

もっとも、「ソウル」といっても、広義ではソウルに限らず、それ以前のリズム&ブルースや派生ジャンルであるファンクもその対象だし、これは解釈の問題だが、目も必ずしも青い必要はなく、黒くても茶色くても、ざっくり言えばアフリカ系でなければいい。つまり、時代的にも古く、地理的にも広く存在し続けてきた確固としたジャンルなのだが、それがいま、大きく変化してきている、という話。

htdw変化が起きたのは、How To Dress Well『Love Remains』以降、と言えるか。How To Dress Well(以下HTDW)は、ケルン/ブルックリンを拠点に活動するTom Krellのソロ・ユニット。学生時代、周囲が聞いていたグランジに馴染めず、一人R&Bに耽溺していたらしく、そうした屈折した青春時代の記憶と90年代R&Bに対する強烈な愛を基に作り上げたのが、ドローン/アンビエントとスロウ・ジャムが歪にとけ合った『Love Remains』だった。深くかけられたリヴァーブの靄を核にしたダークなサウンドは、チルウェイヴやウィッチハウスの亜種とも言えるものだが、その靄の奥底からクレルの妖艶なファルセットを通じて浮かび上がるのは、90年代R&Bの洗練されたメロディーであり、それは異形のブルー・アイド・ソウルとでも言えるものである。実際、収録曲の「Ready For The World」はR・ケリーの「I Wish」を元にした曲で、またライヴではジャネット・ジャクソンの「Again」もカヴァーしている。

HOW TO DRESS WELL "WAKING UP TO LIFE SOMETIMES SEEMS WORSE" from Yours Truly on Vimeo.

 
 

最初は、上にも書いたように、HTDWは「異形の」ブルー・アイド・ソウルだと思った。目指すところこそ一緒だが、従来のブルー・アイド・ソウルとはあまりにも違い過ぎていたから。R&Bとソウルの差ではない。アプローチの仕方の違いだ。同時代に活躍する白人シンガー、例えばロビン・シックやジャスティン・ティンバーレイクは、ジョス・ストーンやエイミー・ワインハウスとは違い、ソウルではなくR&Bのシンガーだが、そのアプローチは「従来の」ブルー・アイド・ソウルと変わらない。

ブルー・アイド・ソウルは常に黒人に限りなく近づくことを目指してきた。喉をディープに震わすオーティス・レディングやタイトなリズムを刻むジェイムス・ブラウン、あるいはモータウンの華やかなダンス・チューンを、ロック・バンドはそのスタイルに取り込んで、本格派のシンガーはソウルの世界に自ら飛び込み、自分のものとした。つまり、自らの手元に引き入れるか、相手の懐に飛び込むか、大きく分けてふたつの方法があったわけだが、ヒップホップとR&Bの誕生がその状況を変えることになる。

R&Bとソウルは、ある意味で地続きの音楽だが、制作環境という点で見れば両者の間には大きな開きがある。バンドによって作りだされたソウルとデジタル機材によって生みだされたR&Bは、黒人歌モノという共通点こそあれど、断絶があるのだ(そういう意味ではディスコの時代から断絶は始まっていたのかもしれない。ディスコによってソウルが死んだ時代だ)。それは当然ブルー・アイド・ソウルのあり方にも影響を与えた。つまり、ロック・バンドの形態では、ソウルのようにR&Bを取り込むことができなくなった。ブルー・アイズたちが黒人歌モノに接近するためには、(バンドでできる)過去のソウルを演奏するか、あるいは(デジタルの)R&Bの世界に飛び込むしかなくなったのである。もちろん、ジョス・ストーンは前者、ロビン・シックは後者だ。


Sex Karma Live @ Jimmy Fallon BMF 投稿者 BlakMusicFirst

ただし、そうした状況の中で、自分たちのスタイルにR&Bを取り込む方法を模索してきた人たちもいる。例えば、ケヴィン・バーンズ。彼のバンド、オブ・モントリオールはロック・バンドでありながら、リリースを重ねるごとに徐々にブラック・ミュージックへの傾倒を深め、近作『False Priest』ではロック系のゲストを差し置き、ジャネル・モネイとソランジュといった、R&Bシンガーが参加するに至った。彼はまた、M.I.A.の「Jimmy」のカヴァーも残している。

そして、そのソランジュはというと、R&Bから離れ、いまはインディ・ロック界隈での活動に専念している。チャリティー企画でTwin Shadow、Chris Taylor(Grizzly Bear)と組み「Kenya」を歌っているほか、Dirty Projectorsの「Stillness is the Move」をカヴァーしている。いずれもUSインディを代表する面々だが、ダーティ・プロジェクターズとはライヴでも共演し、彼らの演奏をバックに90年代R&Bデュオ、Groove Theoryの「Tell Me」を歌ってみせた。R&Bとロックの境はどこに?


ヒップホップにおいても、MGMTをアルバムに招いたキッド・カディやボン・イヴェールに惚れこんだカニエ・ウェストを始めとして、USインディへの急速な接近がみられるようになった。また、ドレイクのように、メロディアスなサウンドに歌うようなラップを乗せるラッパーが現われたかと思えば、メインストリームのR&Bではスカスカのビートが流行し、歌モノというにはビートの立ちすぎたスタイルが主流となった。ヒップホップはR&Bへ向かい、R&Bはヒップホップを取り込み、どちらもロックへ近づいていく。そして、当のロックはというとずっと彼らに憧れ続けていたわけだが、プロトゥールズの低価格化と普及が進んだことで(といっても機材については何も知らないからここらへん怪しいのだが)、バンドではないかたちの、いわゆる宅録による音楽制作がより簡単になった。それはデジタル化によりバンドでは再現困難になった現行ブラック・ミュージックと同じ地平にたったということ。ヒップホップとR&Bとロックは、エレクトロニクスを交点に交わり、ブルー・アイズたちは再び歌モノ黒人音楽を手元に引き戻したのだ。

チルウェイヴもこの流れで捉えられるだろう。彼らが参照するのは主に80年代黒人ダンス・ミュージックだが、それは偶然にもR&Bにおける80年代ブームと重なった。似たような機材で、似たような音楽を元に作り上げたそれらの音楽の違いはなんだろう? さらにオートチューンの流行は? デジタル時代の新しいこぶしであるオートチューンは、機械と人間、男性と女性、そして人種の違いも無化する。ジェイムス・ブレイクとボン・イヴェールとタイラー・メジャーとの間に、どれだけの違いがあるだろうか? 黒人音楽とロックは、かつてそれが最も近かった60年代以上に接近している。いや、融解しているとすら言えるだろう。

そして、その象徴がHTDWだ。ダークで奇怪な彼の音楽は、一聴すると「絶対的に異形」なものとの印象を与えるが、それは黒人音楽へのアプローチの方法が従来のやり方と違う、新しいものだからにほかならない。HTDWが決して「異形」ではないことは、いま続々と現われている、ほかの新しいブルー・アイド・ソウルの担い手たちをみれば明らかなのだが、ちょっと長くなったのでそれは次回に。