Jaspects. You guys make my heart sigh(Peachtree Blues). Thanks soooo much for playing on this suite. I love you all!
ジャスペクツ! アトランタをベースに活動するジャズ・セクステットで、ジャネル・モネイとかなり早い段階からかかわってきたことから、このブログでも何度か取り上げている、(勝手に)ソウルメイトである。
メンバーは、上の写真を見ると18人いるように見えるが(これは6人×3通りなので)以下の6人。
Terrence Brown : Piano, Music Director
Jon Christopher Sowells : Bass
Henry C. Coneway : Drums
D'Wayne "Spacey" Dugger : Tenor Saxophone
"Sir" Jay Price : Alto Saxophone
James E. King : Trumpet, Flugelhorn
メンバーのほとんどが、アトランタのモアハウス大学の卒業生。モアハウス大学は現在アメリカでも数少ない男子大学で、キング牧師が輩出したことで有名だそう。キング牧師以外にも、スパイク・リー、サミュエル・L・ジャクソン、グールー(ギャングスター)、ババトゥンデ・オラトゥンジ(ナイジェリアのドラマー)など、多くの有名人がこの大学を卒業している。
さらにジャネル関係でいえば、まずディープ・コットンのチャック・ライトニングとネイト・ワンダー、『The Archandroid』収録「Dance or Die」で客演していたソウル・ウィリアムズ、『The Believer』のコンピで取り上げられていたジョージ2.0、そしてこのジャスペクツの面々がそうで、彼女を取り巻く関係者の多くがこの大学の出身なのである。そもそも、ジャネルとディープ・コットンのふたりとの出会いは、ディープ・コットンのふたりが参加していた「Dark Tower Project」という、モアハウス大学とスペルマン大学の学生によるアート・サークルでのこと。ここらへんの事情については、ディープ・コットンのふたりのところで詳しくみていくが、「モアハウス大学」がジャネル・モネイ/ワンダランド・アート・ソサイエティの人脈形成に大きな役割を果たしたというのは重要だ。ジャスペクツとジャネルもおそらく「ダーク・タワー・プロジェクト」で出会ったのだろう。
話はそれるが、「ダーク・タワー」で思い出すのがアレリア・ウォーカーだ。米黒人女性初のミリオネアーになったマダム・C.J.・ウォーカーの一人娘として、莫大な遺産を受け継いだアレリアは、自宅に様々な分野の芸術家、白人パトロンを呼び、連夜パーティーを開いた。その会場がダーク・タワーと呼ばれていた。ハーレム・ルネッサンスの狂騒を象徴する出来事のひとつと言えるが、同時に無名のアーティストとパトロンを結び付ける場でもあり、アンダーグラウンドなアート活動をサポートすることを目的とした「The Dark Tower Project」の活動と通じるところがある。ここらへんは「ゲイ音楽連載」の続きで触れる予定。
話はそれるが、「ダーク・タワー」で思い出すのがアレリア・ウォーカーだ。米黒人女性初のミリオネアーになったマダム・C.J.・ウォーカーの一人娘として、莫大な遺産を受け継いだアレリアは、自宅に様々な分野の芸術家、白人パトロンを呼び、連夜パーティーを開いた。その会場がダーク・タワーと呼ばれていた。ハーレム・ルネッサンスの狂騒を象徴する出来事のひとつと言えるが、同時に無名のアーティストとパトロンを結び付ける場でもあり、アンダーグラウンドなアート活動をサポートすることを目的とした「The Dark Tower Project」の活動と通じるところがある。ここらへんは「ゲイ音楽連載」の続きで触れる予定。
ジャスペクツのデビューは2005年。『In "House" Sessions...』("House"とはおそらく「Morehouse」のことだろう)でのことで、既にジャネルは1曲に参加している。Jaspectsというバンド名は、彼らがテーマにしている「Redefining All Aspects of Jazz」に由来するが、この1枚目の大半はオーソドックスなジャズ。ただ、ソウル・マナーなホーンズとテレンス・ブラウンのオルガンがグルーヴィーな「Slick Bottom "Soul"」はキング・カーティスのバンドを思わせるソウル・インストだし、Basheer "Tha Truth" Jones(モアハウス大出身のラッパー)をフィーチャーした「Can U Relate?」ではヒップホップとジャズを自然と溶け合わせている。そして、ジャネルが参加した「My First Love」はジル・スコットを彷彿させる、ジャズとネオ・ソウルの間をいくスタイルの曲と、新しい世代のジャズを彼らなりに模索している様子が分かる。
なお、ここに収録されている「West End Station」は、『Future of Jazz Volume #1; Live in Atlanta - Artists for the Art』にライヴ版が収録されている。これは、アトランタで開催されている“Future of Jazz"というフェスティヴァルの模様をCD化したもので、ジャスペクツは2005年、2006年と優勝している。
2006年リリースのセカンド・アルバム『Broadcasting The Definition』。デビュー作『In "House" Sessions...』は7曲(うち1曲はイントロ)しか収録されていないお披露目的なミニ・アルバムだったが、今回はその倍近い曲数を収録し、多数のゲストを呼び、また演奏もぐっと風格を増した。メンバー紹介代わりのファンキー・ジャズ「2 Kool for Earth」、硬軟自在にエレガントなアンサンブルを聞かせる「Next Stop, MLK」といったジャズ・ナンバーは迫力倍増、どれも素晴らしい演奏(「Walking Bayou (Under The Pale Moonlight)」はもう少しドロッとした土臭さがほしいところだが・・・)。
ただ、そこで終わらないのがジャスペクツ。スカスカのトラックにIyana(多分この人)のM.I.A.のようなラップが乗る「Throw Yo J's Up (Interlude)」から、前作にも参加したBasheer "Tha Truth" Jonesによるポエトリー・リーディング「Music Was My First Love」の流れは、ここだけ聞く限り、これがジャズ・グループのアルバムだと思う人はいないだろう。ゴスペル・シンガーのTerrence Cottonが客演する「That's All I Wanna Say」もそう。コンテンポラリー・ゴスペル以外の何物でもない。
これらの変化球は確かにアルバムに動きを付けていて、一定の効果を上げていると言えるが、やはり最大の聞きものはジャズ・ナンバー。それも、個性豊かなヴォーカリストを招いた曲である。まず、ジャネル・モネイ。(もうこれが「サンクス欄」の話だというのを忘れてしまいそうだが)上のジャネルのコメント(「You guys make my heart sigh(Peachtree Blues)」)にある「Peachtree Blues」である。レコードのチリチリというノイズから始まるこのバラードは、まるで40年代のジャズ・ヴォーカルをそのままパッキングしてしまったかのような、クラシックな肌触りを持っている。ジャスペクツのムーディな演奏を纏いながら、いつも以上に大人びた表情を見せるジャネルが新鮮だ。
スカーの「Lets Just Keep In Touch」も良い。ラファエル・サディークにも似た軽いテナーが、スウィングするリズム、華やかなメロディをいっそう弾ませる。ジャネルとスカーの2曲はこのアルバムでも屈指の出来。そのほか、Donald "DJ" Wright参加「Is She...?」、Promise参加「My Sincerity」も、ネオソウル風の洗練された色気が香る佳曲だ。
前作から1年、2007年には3作目となる『Double Consciousness』を発表。リチャード・ボナのようなコーラス・パート、未来的なシンセサイザー音、『The Archandroid』の「序章」にも似たミュージカル風コーラスで構成される「Revolution: The Encryption」、打ち込みを導入し、メンバーによるラップ・パートが大きくフィーチャーされた「Be Hop」の冒頭2曲で、これまでのスタイルとは違ったアルバムであることを示す。それは、ロボ声を使った「Please Step Up Your Game」はもちろん、インタールードで挟まれた「Hip-Hop & Jazz Don't Mix?」という曲名や、「Chitlins & Challupas」でのドラム・ソロのアフリカ色など、いたるところに散りばめられた“仄めかし”からも判断できる。新しいジャズのかたちをテーマにして、これまで様々な試みを続けてきた彼らだが、ここでの試みは全く新しい。前作までのように「単純にジャズと何か別のものを足す」のではなく、「ジャズ」の中に息づく雑多なアフリカン・アメリカンの遺産を、電子音や「ジャズ」以外のものを利用して浮かび上がらせている。結果、前作までは若干感じた異物感が、逆に消えた。ジャスペクツが新たな領域に踏み出した一枚と言えると思う。「A Night In Tunisia」のカヴァーで聞けるラップも違和感はなく、同じくアフリカン・ディアスポラの音楽を探究するオマール・ソーサの曲を思わせるほどだ。
ゲストは今回も多いが、やはりスカーが参加した「Shawty Dead Wrong」が良い。あの伸びやかなテナーを持つ喉を、ついつい力強く振り絞ってしまう直球リズム&ブルースで、サム・クックのビリー・ホリデイ・トリビュート盤にも似た良さがある(褒めすぎかもしれない)。
そして2009年リリース、現在の最新作『The Polkadotted Stripe』。『In "House" Sessions...』『Broadcasting The Definition』『Double Consciousness』の前3作で、地道に独自のジャズ観を提示してきた彼らだが、ここで一気に宇宙へ飛んで行ってしまった。もう、ジャズじゃない。以下、(疲れたので)アルバム発売当時に書いたものの一部を再掲する。
ジャネル・モネイが参加するのは「2012」という、彼女にぴったりの未来ソング(って3年後だけど)。Perfume風のエレクトロ・サウンド、オートチューン・ヴォーカルが未来感を高めたところに、颯爽とジャネルが登場。澄んだ美声できりりと歌い上げる、ミュージカル・スター然とした姿にノック・アウト。素晴らしい!続く「Fallin'」はジャジーでポップなナンバーで、柔和でスタイリッシュな鍵盤の伴奏がベニー・シングス、ウーター・へメルを思わせる。スぺーシーなギターとキーボードにラップが乗るタイトル曲は、ところどころに挟み込まれる管楽器や終盤のリリカルなピアノ、複雑な曲構成が効いていて耳当たりはネオソウル・ミーツ・オマール・ソーサな趣き。シェイクスピアの詩を引用した「Play On」では、リチャード・ボナがデジタル・ディレイで行う一人ポリフォニーを、シンセとオートチューン(ヴォコーダー?)が生じさせる倍音でやってのけ、そのまま中田ヤスタカ印の「Unifunk」へなだれ込む。カニエ風のゴージャスなトラックと、加工されて深くくぼんだヴォーカルのコントラストが絶妙な「Like A Drum」、スティーヴィ・ワンダーがハウスに手を出したような「Be Your Man」、へヴィなギターを伴った激しいラップとガール・グループ風のキュートなコーラスが交互に現れる「Chuck Jones」など、ひとくせもふたくせもあるハイブリッドな曲が並ぶ。一方でChantae Cannという女性シンガーを迎えた「Find My Way To Love」はストレートなしっぽり系ジャズ・チューンだし、「Liquid Sounds」ではPJモートンが登場し、自身の曲に近いスウィートなネオソウルをひねりなく展開するなど、逆にその真意を疑いたくなるような素直な曲もあったりして、アルバムとしての方向性、こちらの印象も拡散する一方。さらにラストには子供声で歌われる1分足らずの「1963」という曲が配されていたりして。2012年と1963年。1963年といえばワシントン大行進とキング牧師の例の演説があった年、2012年はアメリカ次期大統領選挙がある年・・・と、たった今思いついたことを書いてみたけれど、意味ありげなだけだな、これじゃ。つながりはよく分かりません。ただ、このバンドの前作は『Double Consciousness』=二重意識だし、この新作のジャケはスタイリッシュにキメてはいるが、モデルがアメリカ国旗であることは間違いなく、政治意識の高い人たち(あるいはそういうコンセプトで作品を作る人たち)であるとみていいだろうと思う。・・・と書いたところでブックレット内の絵を見てみると、何とアメリカ国旗を持ってオバマ夫妻の後を歩くメンバーの姿が。最初の思いつきは遠からず、ってところだろうか。そういえば「Unifunk」の終盤で「Yes, we can」と言っている。“ポスト・ソウル”という文脈でみると(それが黒人音楽の未来を占うキーワードであるとすると)、このアルバムの重要度は高いかもしれない。ポスト・ソウル世代(公民権運動後に生まれた世代)の黒人音楽の特徴は、ソウル世代の黒人文化(ブラック・イズ・ビューティフル)の客観視とそれに伴う音楽性の拡散だ(とする)。彼らはジャズやソウルやブルースの延長線上にいながら(またそれを理解しながら)、“ブラック”の名の下に団結した経験が無く(あるいは希薄で)、生まれた時にはすでに種々の権利やある程度の社会的・経済的状況が整っており、黒人文化の伝統はリスペクトするものではあっても絶対的なものではなく、無数にある音楽の選択肢の中で“比較的”高い位置にあるというだけだったのではないか。ゆえにポスト・ソウル世代の黒人音楽は拡散する。今のハウス・サウンドの流行、ヒップホップでアフリカやアラブの要素を取り入れたトラックの増加、これには世界に拡がったヒップホップ文化の逆輸入や“ネタ切れ”といった理由も考えられるが、ポスト・ソウル世代という視点も有効ではないかと思うのだ。
(2009年09月07日)
無茶苦茶なアルバムなのだ。「Redefining All Aspects of Jazz」を標榜して活動してきて行きついたのがこれかよ!という感じだが、同時にこのアルバムはものすごく完成度の高い傑作でもある。「Redefining All Aspects of Jazz」というのは、「ジャズ」に何かを足したり、何かを混ぜ合わせたりすることではなく、「ジャズ」のフォーマットなり、ムードなり、スタイルなりを、あるいはその奥底に潜む“ジャズの結晶”のようなものを利用して新たな「ジャズ」を再構築することであり、その意味において、このアルバムには一貫性があるし、その大きな試みにも成功しているように僕には思えるのだ。
※「ポスト・ソウル」云々については、『水声通信』の「ポスト・ソウルの黒人文化」特集参照。
一番下の動画は「2012」~「Unifunk」のライヴの様子だが、もう最初完全に楽器持ってないし、まさかの「Beat It」まで! すごいぞ、ジャスペクツ!
あぁ、そうだ。ジャスペクツはジャネル・モネイのデビューEP、デビュー・フル・アルバムのどちらにも参加している。また、テレンス・ブラウンは個人名でもライナーに載っているので、チェックしてみていただきたい。
コメント