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日本で最も嫌われる昆虫の一つは、シロアリだろう。見た目で嫌悪されている感も強いゴキブリに比べ、『家を壊す』という実害は大きい。本来のすみかは住宅でなく森林で、朽ち木を分解するという重要な役割を果たしているのだが……。
そんなシロアリには、独特の魅力的な特徴がある。王や女王が、昆虫としては極端に長寿なのだ。新潟大学の
ハチやアリの「ドローン」と違う、雄も実に活動的!
シロアリは、ハチやアリと並ぶ代表的な「社会性昆虫」だ。女王は産卵に専念し、働きアリや兵隊アリ(兵アリ)は巣の維持に専念する。ただ、進化の系統はハチやアリと異なり、祖先をたどるとゴキブリの仲間につながる。いわば「社会性を獲得したゴキブリ」で、ハチやアリとは社会の構造に大きな違いがある。
最初から話がそれてしまうが、戦地でも平和な国でも、最近は「ドローン」の出番が多い。ドローンはもともと飛行ロボットでなく「雄バチ」を指し、「怠け者」の意味が込められている。というのも、ハチやアリの社会では、餌集めや子育て、巣の防衛といった仕事をすべて雌が担う。雄は働かず、存在意義は女王バチと交尾して精子を供給することだけ。雄は交尾が終われば死ぬ。女王は体内に精子をためて、その後の産卵に使う。
これに対し、シロアリは雄も活動的な一生を送る。巣には王と女王がおり、働きアリや兵隊アリも雌雄両方いる。そして、王と女王はどちらも、働きアリや兵隊アリより長寿だ。日本で一般的なヤマトシロアリの場合、働きアリでも数年生き、昆虫の中では十分長寿なのだが、王や女王は10年以上生きると考えられる。
田﨑さんはこの長寿の謎に迫るため、王と女王だけが持ち、働きアリが持たない体内物質を調べている。
働きアリでも数年……「長寿すぎて」難しい実験
田﨑さんは山口大学の学生時代に、この研究を始めた。長寿に関係するかもしれない物質は、これまでにいろいろ見つかっている。
たとえば、人間のアンチエイジングでも話題になることが多い「抗酸化」という作用のある物質。「活性酸素」と総称される数種類の物質は、生命の維持に重要な役割を果たすが、過剰に発生すると細胞を傷つけ、病気や老化の引き金になるといわれる。過剰になった活性酸素を取り除くのが抗酸化の作用で、そのための酵素が王や女王の体内には多いという。
また、傷ついたDNAの修復に関連するとみられる遺伝子の一種も、王の精巣や女王の卵巣で活発に働いている。
しかし、これらの物質と長寿の関連を確認するのは難しい。シロアリが長寿であるためだ。「長寿につながる物質の関連遺伝子を女王で働かなくしたり、逆に働きアリで活発に働かせたりするとしても、効果を確かめるまでに長い年月がかかってしまう。もともと10年以上だったものが数年に縮むかどうかを見るなんて実験は、とてもできない」と、田﨑さんは語る。
そこで田﨑さんが考えたのは、調べたい遺伝子を、短命な実験動物であるショウジョウバエに組み込む方法だ。もしハエの寿命が延びれば、その遺伝子がシロアリの長寿に重要な役割を果たしている可能性が高まる。昨年、新潟大に着任して、この実験を開始した。
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