海の汚染プラスチックを微生物に食べさせる…「マイクロドローン」作成に取り組む研究者

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編集委員 増満浩志

 大きさ5ミリメートル以下の「マイクロプラスチック」による海洋汚染が、深刻な問題となっている。人間の生活圏から排出されて海に流れ込み続け、それが自然界ではなかなか分解されないのだから、放っておけば悪化の一途をたどるのは明白だ。何とか改善できないか――。静岡大学の中村彰彦准教授(38)(酵素学)は、マイクロプラスチックを自ら探して食べてくれる微生物を作り出そうとしている。名付けて「バイオマイクロドローン」。

お手本は海のビブリオ菌

かけがえのない海をむしばむ「マイクロプラスチック」は深刻な問題になっている(写真はイメージ)
かけがえのない海をむしばむ「マイクロプラスチック」は深刻な問題になっている(写真はイメージ)

 一見、奇抜な発想だが、実は自然界に手本となる微生物がいる。ビブリオという細菌の仲間だ。

 「海にはカイアシ類という小さな甲殻類がたくさんいて、大量のキチンを作ります。キチンはエビやカニの殻の成分として知られている硬くて壊れにくい物質ですが、これを分解する微生物が自然界にはちゃんといる。その代表がビブリオ菌。キチンを探して寄って行き、食べるのです」と、中村さんは語る。

 意思など持たないであろう微生物が「探して寄って行く」とは不思議だが、その仕組みを聞くと、実に分かりやすい。まず菌は、キチンを分解する酵素を分泌している。近くにキチンがあると、この酵素がくっついて働き、分解で生じた物質が水中に拡散する。菌の表面には、この分解物を検知するセンサーのたんぱく質があり、菌は分解物の濃度が高くなる方へと、べん毛を動かして泳いで行く「走化性」が備わっている。

 そこで、こうしたビブリオ菌の遺伝子を操作して、(1)キチンの代わりにプラスチックを分解する酵素、(2)プラスチックの分解物を検知するセンサー、(3)その分解物を自分の栄養にするための酵素――を組み込むというのが、中村さんの作戦だ。

病原性のない菌はデータが少ないのが悩み

 中村さんによると、陸上では植物の体を作るセルロース、海ではキチンが、特に多い有機物なのだという。どちらも生物の体を支える役割があるだけに、分子の鎖がカチカチに集まった頑丈な物質だが、地球の長い歴史の中で、これらを分解する仕組みが進化した。中村さんは、もともと分子科学研究所(愛知県岡崎市)で、セルロースとキチンの分解酵素を研究していた。

 2020年初めに静岡大へ赴任した頃から、ペットボトルなどの材料「ポリエチレンテレフタレート(PET)」を分解する酵素の研究も始めた。そして、「キチンを分解するビブリオ菌の仕組みと組み合わせれば、海をきれいにできるのではないか」と思いついた。というのも、自然界でキチンをまとっているカイアシ類は、体長が数ミリメートル。ちょうどマイクロプラスチックと同じサイズなのだ。

実験器具を手にする中村さん(静岡大農学部で)
実験器具を手にする中村さん(静岡大農学部で)

 「ビブリオ」と総称される細菌の中で、有名なのはコレラ菌と腸炎ビブリオだろう。だが、ビブリオの仲間には、人への病原性がない細菌もたくさんいる。それをバイオマイクロドローンに活用しようと考えている。中村さんは「ビブリオ菌についての研究は過去にたくさんあるのですが、大半が病原菌の研究なんですね。無害な菌は分からないことばかり。遺伝子の解析などを、一からやらないといけない。やりがいはありますけど」と、苦労を明かす。

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