F1レースの技術で再生可能エネを

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

編集委員 増満浩志

 ホンダの創業者・本田宗一郎は、自動車レースのF1を「走る実験室」と呼んだ。有人宇宙開発と同様、極限の環境で使うために磨き上げられた革新的技術は、社会に広く役立つことが珍しくない。

浅井健彦准教授(茨城県つくば市の筑波大で)
浅井健彦准教授(茨城県つくば市の筑波大で)

 マクラーレンが2005年に導入した「イナーター」という装置も、その一つだ。車体の制振用に開発されたが、近年は建築物などの制振に応用が広がっている。そして、さらに「振動のエネルギーをイナーターで電力に換えよう」という研究に、筑波大の浅井健彦准教授(41)(建築構造学)らが取り組んでいる。

秘密兵器のコード名は「Jダンパー」

 イナーターは、英ケンブリッジ大のマルコム・スミス教授が1997年頃に考え出し、2002年に論文を発表した。同大のウェブサイトに、その歴史が紹介されている。

 それによると、マクラーレンは同大の技術移転機関「ケンブリッジ・エンタープライズ」から独占使用の権利を得て、開発を推進。05年のスペイン・グランプリで実戦投入し、勝利を挙げた。車輪と車体をつなぐサスペンションは、精密なハンドル操作には硬くした方がよく、タイヤが路面をしっかり捉えるには軟らかくした方がよいが、その二律背反をイナーターが緩和してくれる。

F1の「スパイ事件」を伝えた記事(2007年11月9日 読売新聞朝刊スポーツ面)
F1の「スパイ事件」を伝えた記事(2007年11月9日 読売新聞朝刊スポーツ面)

 イナーターは「Jダンパー」というコード名で呼ばれ、秘密保持が徹底された。「Jは何の意味か?」という議論も専門家の間で盛り上がったが、ライバルの目をくらますためのおとりの文字に過ぎなかった。07年、ルノーが図面を入手したものの、何のための装置か分からなかったという「スパイ事件」が発覚。マクラーレンの独占契約は08年に終了し、米企業から他のレーシングチームなどにも広く供給されるようになったという。

 ただ、国際自動車連盟が定めた昨年のF1技術規則で、イナーターは禁止された。なぜなのか気になり、国内でモータースポーツを管轄する日本自動車連盟(JAF)に尋ねてみたが、残念ながら「(禁止の)経緯や理由は分からない」という。

揺れを回転に換える「イナーター」

 建物や機械の揺れを抑える「制振」には、「ダンパー」という装置が使われることが多い。揺れによってピストンが動くと、内部のオイルなどがそれを受け止め、摩擦によって動きが減衰する。つまり、揺れのエネルギーを吸収し、摩擦熱に換えて放出する。車のサスペンションの主要部品でもある。

1

2

スクラップは会員限定です

使い方
「Webコラム」の最新記事一覧
記事に関する報告
4123995 0 挑む―科学の現場から 2023/05/17 10:00:00 2024/02/15 15:37:23 /media/2023/05/20230515-OYT8I50067-T.jpg?type=thumbnail

主要ニュース

セレクション

読売新聞購読申し込みバナー

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)