「超偏極MRI」という、すごそうな名前の画像診断技術

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編集委員 増満浩志

 病気やけがの診断で磁気共鳴画像(MRI)のお世話になったことがある人は、少なくないと思う。MRIはコンピューター断層撮影法(CT)と並び、体内の状況を調べることができる代表的な画像診断技術で、日本は装置が特に普及している国の一つだ。

 そのMRIで「超偏極」という新技術が登場し、欧米では装置の導入や臨床試験が進んでいる。日本でも、量子科学技術研究開発機構(量研機構)など産学官の協力で、研究プロジェクトが動いている。通常は捉えられない物質の検出感度が1万倍にも高まり、体内での化学変化を調べられるという。これまでのMRIとは質の違う検査が、量子技術によって実現するかもしれない。

従来は水素の信号しか捉えられなかった

 私たちの体は、炭素や窒素、水素など様々な種類の原子からできている。このうち、いくつかの種類の原子は、中心の原子核が「スピン」という磁石のような性質をもつ。強い磁場の中で電磁波を当てると、スピンをもつ原子核はそれに反応して信号を発することがある。MRIは、この信号を検出して分析する。

動物実験用の最新のMRI装置。タッチパネルで操作できる(千葉市の量研機構で)
動物実験用の最新のMRI装置。タッチパネルで操作できる(千葉市の量研機構で)

 信号を最も強く発するのが水素の原子核で、従来のMRIはもっぱら水素を測定してきた。水素原子は水や脂肪などの一部として、体内の様々な組織に豊富に含まれる。組織ごとに水素原子を取り巻く環境が異なり、信号の出方も少しずつ違うので、それを分析するとがんや出血による組織の変化などを知ることができる。

 一方、水素以外の原子核からの信号は弱すぎてMRIにほとんど使えなかった。そこで、強い信号を発する特殊な炭素などを精製し、造影剤として使おうという研究が今世紀に入って本格化してきた。これが「超偏極」だ。炭素原子は、体内で働く多様な物質を構成しており、その動きを追うことで、様々な情報を得られると期待される。

量子技術で、原子核の磁石の向きをそろえる

 原子核のスピンは、磁場の中に置くと全て同じ向きにそろいそうな気もするが、実際は半数近くが逆を向いてしまう。方位磁石にたとえると、N極が北を向くものと南を向くものがほぼ半数ずつで、北を向くものの方がわずかに多いといった状況だ。逆向きのもの同士が互いに磁力を打ち消し合う効果で、差し引きわずかに多い分だけがMRIに役立つ信号を出す。

 「超偏極」はその名の通り、磁石の極を1方向へ大幅に偏らせる技術だ。極低温の装置内で炭素などの原子核の向きをそろえ、その試料を体内に注入してMRIを行うと、十分に強い信号が出てくる。欧米で研究用の装置が市販され、米国では臨床試験も進んでいる。

  ()(ごろ) 誠・大阪大准教授(40)(量子情報科学)が率いる量研機構・量子生命科学研究所のチームは、極低温での超偏極の実用化を推進する研究と並行して、室温で超偏極を行う新技術の開発にも取り組んでいる。試料にレーザー光を当てると、電子の向きがそろう(偏極)。そこにマイクロ波を照射すると、電子の偏極が原子核へ移り、原子核の向きもそろっていく。最先端の量子技術を駆使する。

 根来さんは「極低温の装置に比べ、室温の装置は省スペース・低価格。この技術で偏極させられる物質の種類はまだ限られており、課題は多いが、実用化できれば爆発的な普及が期待できる」と意気込む。

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