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男性の未婚率については、年収と密接に関係する。これは紛れもない事実です。年収が低くなればなるほど未婚率は高いし、年収の高い男性から結婚していきます。
もちろん、年収が高ければ結婚できるという因果はありませんが、少なくとも年収が低すぎれば、結婚相手として女性から選ばれることはないでしょう。
以前、こちらの記事で、妻の年齢29歳以下の子無し夫婦について、それぞれの年収が夫>妻、夫=妻、夫<妻のいずれにあたるかを2022年の就業構造基本調査より明らかにしたことがあります(参照→「結婚できる高所得層・できない中間層の残酷格差」)。それによれば、夫>妻が7割、夫=妻が2割、夫<妻が1割という結果でした。
女性は結婚相手の経済力をシビアに見る
その是非はともかくとして、結婚というものは、基本的に夫が妻より年収の高い「妻の経済上方婚」になるのです。これはあくまでまだ子のない夫婦ですので、子が生まれた場合には、妻が一時休業や退職などがあり、さらに夫>妻の割合が増えることでしょう。
だからこそ、そうした夫一馬力になるケースも考慮して、女性は結婚相手の経済力をシビアに見るのです。結婚は経済生活なのですから当たり前の話です。
とはいえ、何も「何千万円の年収」などという桁違いの高望みをしているわけではありません。自分の年収を基準として「自分と同等」ではダメで、「少なくとも自分より上の年収」を希望しています。
先般、公表された2024年にこども家庭庁が実施した「若者のライフデザインや出会いに関する意識調査」によれば、「配偶者の年収は自分より高い方が望ましい」と回答している割合は、25~34歳の未婚女性で77.2%に達します。未婚女性だからこの割合になっているわけではありません。
同じく25~34歳の既婚女性も、自分が独身の時はどうだったかという前提で聞いていますが、81.7%と未婚よりも高くなります。むしろ「年収は自分より上」という相手と巡りあったからこそ既婚となれたのではないかとも思うのです。
要するに、結婚を実現させるために「男性の年収」というものはそれくらい重要な位置を占めるのですが、それゆえ、結婚が減少している原因もまさにここにあります。
今回は、男性の年収にフォーカスして、人口ボリュームの多い中間年収帯の男性の未婚率についてご紹介したいと思います。
年収200万未満男性の未婚率は7割
就業構造基本調査によれば、30~39歳の有業男性の未婚率は、2012年では37%でしたが、2022年は41%へと上昇しています。10年間で4%の増加です。それでも、半数以上は39歳までに結婚しているじゃないかと思われるかもしれませんが、これはあくまで全体の未婚率であり、年収単位で見れば、低年収ほど未婚率は高くなります。
例えば、年収700万円以上であれば未婚率は2割を切りますが、年収200万未満では7割を超えます。男性の場合は、年収が下がれば下がるほど未婚率が高まるわけで、こと男性に限れば「結婚できるかできないかはお金の問題」であることは間違いありません。
それでも、人口ボリュームの多い中間層の年収があれば結婚できている(=未婚率が低い)のであれば、これほどの婚姻減少にはなっていません。問題は年収中間層の男性が結婚できなくなっていることにあります。
具体的にデータで見ていきましょう。同じく就業構造基本調査より、30代の有業未婚男性の年収中央値を計算します。そして、その中央値年収での未婚率、つまり年収中央値未婚率というものを割り出します。
それによれば、年収中央値未婚率は、2012年48%だったものが、2022年には55%へと7%も上昇しています。前述した全体の未婚率と比べれば、全体より中央値における未婚率の上昇の方が大きいわけです。言いかえれば、2012年頃までは中央値の年収があれば、半分以上の52%は結婚できていたのに、2022年には45%しか結婚できなくなっている。つまり、結婚の年収ハードルがあがっているということです。
しかし、これはあくまで全国の数値です。当たり前ですが、東京と地方とではその年収分布も異なり、年収中央値も変わります。仮に絶対額の年収300万での未婚率を都道府県で比較してもあまり意味はありませんが、都道府県別の年収中央値で比較すれば相対的に正確な比較が可能になります。2012年と2022年の各都道府県の年収中央値未婚率を計算し、その増減を一覧にしたものが以下です。点線は全国値を表しています。
唯一、佐賀県だけが年収中央値未婚率が減少ですが、それ以外の都道府県は増加しています。しかも、増加幅は都道府県によって差があり、必ずしも全国値と同様な増加率にはなっていません。
地方の未婚率の増加が著しい
特徴的なのは、2012年においては、東京圏や愛知、大阪などの大都市が全国値より高い未婚率だったのに対し、2022年は大都市の未婚率増加は抑えられていて、むしろ地方の未婚率の増加が著しいこと。
特に、宮城、福井、滋賀、徳島などは10年前より20%ポイントもの大幅増となっています。それも、これらの県は2012年では全国値よりも低かったのに対し、2022年はいずれも全国値を上回る逆転現象が起きています。これは、10年前までは、その県の中央値の年収があれば結婚できていた層が結婚できなくなっていることを示します。
それを裏付けるのが、未婚者と既婚者との中央値年収格差です。30代の有業既婚男性の都道府県別年収中央値を計算し、それぞれ未婚と既婚の中央値の差を求めて、それの2012~2022年の増減と未婚率の増減をプロットしたものが以下のグラフです。明らかに、未既婚の年収中央値格差が広がっているほど未婚率が高まることがわかりました。相関係数は0.6311ですから、強い正の相関があります。
誤解のないように、これはあくまで2012~2022年の増減率ですから、マイナスとなっているものが既婚より未婚の年収中央値が高いということではなく、その格差幅が10年前に比べて減少しているという意味です。
中央値以上稼いでいる者だけが結婚できるように
未既婚格差が広がっているということは、そのエリアでは、ある程度の年収以上でないと結婚に至らないということを示しています。わかりやすくいえば、中央値以上稼いでいる者だけが結婚でき、中央値では結婚できなくなったということです。ですから、全体の婚姻数が減っているわけです。
個々の都道府県の値云々より、ここで大事なのは、未婚と既婚の年収格差、結婚できない者とできる者との年収格差が大きくなっているところほど未婚率が増える傾向にあるという全体の流れです。
あわせて、この10年間で、未婚の年収中央値の増加率とその中央値未婚率増減との相関も見てみましょう。
こちらは逆に、未婚男性の年収中央値があがればあがるほど、未婚率は減少するという強い負の相関になります。
計算上は、未婚の年収中央値が17.5%あがれば未婚率は上昇しないということになります。年収17.5%アップと聞いてしまうと現実離れした話だと思うかもしれませんが、これは10年間の増加率で、1年あたり1.6%程度の年収アップで到達できる数字です。逆に言えば、この10年間未婚男性の年収はこの程度しかあがっていなかったわけで、それ自体が異常だったというべきでしょう。
男性の場合、年収があがらなければ、結婚に至らないということは明らかです。同時に、女性の場合も、自分より低い年収の男性と結婚するくらいなら、一人で自由にお金も時間も使った方がマシと非婚化します。どっちにせよ、「男の年収」が結婚の数を決定づけていると言えるでしょう。
求められる経済的な「お膳立て」
もちろん、これは賃上げだけの問題ではありません。額面の年収があがったからといって、手取りが増えるというものでもありません。社会保険料負担は増え続けていますし、ただでさえ何の手当も控除もない独身はいわば「ステルス独身税」を課せられているようなものです。今回ご紹介したように、未婚男性の年収中央値があがれば未婚率は改善する余地があるというのはひとつの突破口になります。
何度も繰り返しますが、婚姻数が増えなければ出生数は絶対に増えません。子育て支援も大事ですが、それだけでは新たな出生を生む婚姻には結び付きません。
今こそ令和のお膳立てが必要です。それは何も昭和の時代のように、結婚に向けて背中を押してくれるお節介上司や世話焼きおばさんを復活させることではありません。経済的なお膳立てが求められています。せめて中間層の若者が結婚に前向きになれるよう、官民一体となって、給料全体の底上げと減税などで背中を押してほしいものです。