ちょうさ‐ほうどう〔テウサホウダウ〕【調査報道】
調査報道
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/27 00:07 UTC 版)
報道 |
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ニュース / スタイル 倫理 / 客観性 価値 / 情報源 名誉毀損 編集の独立 ジャーナリズムスクール |
分野 |
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社会的影響 |
報道機関 |
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カテゴリ |
調査報道(ちょうさほうどう、英: investigative journalism)とは、報道のスタイルの1つである。あるテーマや事件に対して、取材する側が主体性と継続性を持って様々なソースから情報を積み上げていくことによって新事実を突き止めていこうとするタイプの報道である。なお、警察・検察や官庁、企業などによるリーク、広報、プレスリリースなどを中心とする報道は発表報道という。
概要
日本では、近代新聞の発行が始まった明治以降にこの概念が持ち込まれたが、大東亜戦争(太平洋戦争・第二次世界大戦)までは時の政府に対する調査報道は極めて難しく、財界や大物経済人のスキャンダル(不正行為・汚職)にほぼ限定されていた。これは、検閲制度により政府・与党・軍部に不利な発表は排除されていたことと、取材する側も明治憲法で天皇の神聖不可侵が定められたことにより、天皇を輔弼する内閣総理大臣や閣僚の私生活および裏事情に迫ることは任命権者たる天皇への不敬になる恐れがあるとして、憚られたことによる。
戦後(主権回復後)も官公庁などに記者クラブがあるため、大手マスコミすら発表報道偏重に陥りやすく、調査報道をしようとするフリージャーナリストが取材活動しづらいと指摘されている。
北海道新聞・高知新聞OBで東京都市大学教授の高田昌幸によれば、一介の個人にはできない、組織や権力者(警察、検察、官庁や大企業、大政治家)が絡む調査報道の目的は以下のことにあるという[1]。
ただし、2については、書かれた相手がアウトローな組織(暴力団、右翼団体、左翼団体、カルト集団)の場合は、「自分たちにデメリットな報道内容を事実だと認めさせること」が、政府機関や一般組織や大政治家と比較して難しいことが多い。特にオウム真理教は、一連のオウム真理教事件のさなかに取材のため近づいたジャーナリストを殺害しようとした。
また、各種の報道におけるタブーの存在により、明らかになった新事実が日の目を見ない、もしくは握り潰されることもある。
ちなみに、他社がスクープしたニュースが虚偽報道でないかを確認するのも、調査報道の一種である。
調査報道は取材による手間とコストがかかる手法でもある。またそうして取材で手間とコストをかけたが取材結果が既存の公開情報と同じで新事実が出てこなかった場合、取材による手間とコストに見合うスクープという利益が得られないことになる。
事例
海外
- アイダ・ターベルによるen:The History of the Standard Oil Company
- ソンミ村虐殺事件 - フリージャーナリストシーモア・ハーシュがザ・ニューヨーカー紙に出稿。ピューリッツァー賞受賞。
- ウォーターゲート事件 - ワシントン・ポストの記者2人が調査報道を積み重ね、その結果第37代アメリカ大統領リチャード・ニクソンを辞任に追い込んだ。
→詳細は「ウォーターゲート事件 § ワシントン・ポストと「ディープ・スロート」」、および「ボブ・ウッドワード § プロフィール」を参照
- ボストン・グローブによるカトリック教会の性的虐待事件
- PRISMの存在の暴露 - 英国大手大衆紙ガーディアンとワシントン・ポスト両紙による合同取材。
日本
新聞社・テレビ局による調査報道は日本新聞協会賞・日本記者クラブ賞特別賞や国際ニュースではボーン・上田賞を受けることが多いためそちらも参照されたい。本項では、新聞協会賞の選考から漏れた、または選考対象にならない雑誌媒体による調査報道のうち、特に秀逸とされた案件を紹介する。
- 菅生事件 - 共同通信社・大分合同新聞社など各社の取材により公安警察の自作自演による冤罪事件であることが判明。潜入捜査を行った警察官は事件後に庇護を受けていた事も明らかになった。
- ジャニー喜多川性加害問題 - 1950年代から2010年代にかけて、ジャニーズ事務所創業者のジャニー喜多川が性加害を繰り返していた。喜多川の生前は話題になることが少なかったが、2023年にイギリス・BBCニュースが週刊文春の協力を得てドキュメンタリー番組を制作し、イギリスや日本を始めとする世界各国で放映・配信、問題として広く認識されるようになった[2]。
- 田中金脈問題 - 文藝春秋社OB立花隆が月刊『文藝春秋』に出稿。時の内閣を退陣に追い込んだ[3]。
→詳細は「立花隆 § 田中角栄研究」、および「田中金脈問題 § 概要」を参照
- 生活保護問題 - 札幌テレビディレクター水島宏明が北海道札幌市白石区で起こったシングルマザー餓死事件に着目し、日テレに提案して『NNNドキュメント』で放送。生活保護制度、特に「123号通知」と「水際作戦」の存在に陽の目を当てた[4]。その後、水島は日テレに移籍して『Nドキュ』チーフディレクター、解説委員に出世した。
→詳細は「生活保護問題 § 事例」を参照
- リクルート事件 - 朝日新聞社横浜・川崎両支局が第一報を報道したが、新聞協会賞受賞に至らなかった。
- NHK会長島桂次の偽証問題 - 朝日新聞の第一報に東京スポーツが追随したが、新聞協会賞受賞に至らなかった。
- 山一證券の損失補填疑惑 - 東洋経済新報社『週刊東洋経済』が第一報。その後、山一證券は自主廃業した。雑誌ジャーナリズム賞受賞。
→詳細は「山一證券 § 三木淳夫時代」、および「野澤正平 § 山一最後の社長」を参照
- 則定衛の女性問題 - 雑誌『噂の眞相』が第一報を報じ、朝日新聞が追随。則定は法務大臣に指揮権発動を検討される手前まで行き、辞職に追い込まれた。
→詳細は「則定衛 § 疑惑報道」、および「三井環事件 § 事件一覧」を参照
- 松本サリン事件 - TBSテレビ『スペースJ』で下村健一が冤罪だといち早く指摘。テレビ信州も別ルートで調査報道を蓄積し河野義行の冤罪確定に貢献した。
→詳細は「松本サリン事件 § 冤罪・報道被害」を参照
- 桶川ストーカー殺人事件 - 新潮社の写真週刊誌『フォーカス』が第一報を報じ、全国朝日放送(現・テレビ朝日)が『ザ・スクープ』で追随した。
→詳細は「桶川ストーカー殺人事件 § FOCUSの犯人追跡報道」を参照
- 北海道警裏金事件 - 北海道新聞が報じ、テレ朝『ザ・スクープSPECIAL』が追随。同時期に道警を取材していた作家佐々木譲の道警シリーズを執筆する際のたたき台となる。
- 足利事件 - FOCUS廃刊後に日テレに移籍した清水潔が、『ACTION 日本を動かすプロジェクト』で冤罪だと指摘。被告人は再審の結果無罪判決を獲得した。民放連賞最優秀賞受賞。
→詳細は「足利事件 § 冤罪事件として」、および「清水潔 (ジャーナリスト) § 経歴」を参照
- オリンパス事件 - ファクタ出版『月刊FACTA』が第一報を報じ、日本経済新聞が追随。
- 偽装請負問題 - 日本共産党『しんぶん赤旗』が第一報を報じ、朝日新聞が追随した。
- 精神医療を問う - 東洋経済新報社『東洋経済オンライン』で連載された[5]
- かんぽ生命保険の不正契約問題 - NHK G『クローズアップ現代+』が第一報を報じたものの、かんぽの親会社日本郵政の圧力で続編を放送出来なくなったところへ西日本新聞『あなたの特命取材班』が追随。早稲田ジャーナリズム大賞受賞[6]。
→詳細は「あなたの特命取材班 § かんぽ生命保険をめぐる不正契約問題」、および「かんぽ生命保険 § 不正契約問題」を参照
- 富山市議会政務活動費私的流用問題 - 北日本新聞が第一報を報じ、チューリップテレビ(TBS系列)が追随。定数38人のうち14人が辞職する異常事態となる。北日本新聞が新聞協会賞、チューリップテレビは菊池寛賞をそれぞれ受賞した。
- お笑い芸人による闇営業問題 - 講談社『FRIDAY』が第一報を報じ、スポーツ新聞各紙が追随。
- アサリ産地偽装問題 - CBCテレビが第一報を報じ、TBS系列のキー局TBSテレビでも『報道特集』などに引用放送[7]。その結果、熊本県が同県産のアサリ出荷を一時停止する事態となった[8]。
- 湖東記念病院事件 - 中日新聞本社特別取材班が創出版『月刊創』で連載[9][10]。司法の実態を告発した。早稲田ジャーナリズム大賞草の根民主主義部門受賞。
- キッズラインをめぐる一連の不祥事 - メディアジーン『Business Insider日本版』が第一報を報じ、複数の媒体が追随[11]。
- 東京オリンピックにおける食品ロス問題 - TBSテレビ『news23』『報道特集』が明らかにした。
- 自由民主党の政治資金パーティー収入の裏金問題 - しんぶん赤旗が第一報を報じ、その後神戸学院大学教授上脇博之による刑事告発を経て、読売新聞が追随[12][13]。自由民主党の派閥が一部を除き解散に追い込まれる事態になった[14]。しんぶん赤旗にJCJ大賞が贈られたが[15]、新聞協会賞は朝日新聞が受賞した[16]。
インターネット上での調査報道を採用している媒体
2018年1月に西日本新聞社が開始した調査報道企画「あなたの特命取材班」の成功を機に、新聞社を中心に「あなたの特命取材班」と同種の調査報道企画を採用している報道機関が増えている。いずれの報道機関も、読者からインターネット経由で情報提供を受けて、記者が取材を行い、ニュース化しているのが特徴である[17][18]。
- 2024年2月時点。
- 表中「JOD」は「あなたの特命取材班」と提携しているメディア(JODパートナーシップ参加媒体)。詳細は、公式サイトの《JODの理念とパートナー一覧》を参照。なお、東奥日報のように通常記事閲覧が有料のウェブサイトにおいても、当該記事は基本的に閲覧制限が設定されていない。
- 「NHK」は各地のNHK放送局(全ての局で調査報道を実施している訳ではない)。詳細と参加局の一覧はNHK NEWS WEB内の「声を聴かせて!あなたのお困りごとをNHKが調べます」も参照。
- 表中で「(東京新聞、NHK)」のようにカッコ書きで媒体名が記載され「連携」欄が「△」の場合、県域紙やローカル局でなく県内を頒布対象とするJOD参加のブロック紙、もしくはNHK首都圏局がカバーしていることを表す。「-」はその媒体で独自に調査報道を行っているが、JODには非参加。「採用媒体なし」で「×」の場合、県域紙やローカル局では調査報道を行っていない(全国紙のみフォロー)。
- 海外については、西日本新聞の自社支局があるアメリカ・タイ・韓国・中国において『あなたの海外特派員』というタイトルで同様の企画が行われており、その取材結果は西日本新聞のWebサイトやSNSを通じてフィードバックされる。
脚注
注釈
- ^ 取材源の秘匿はジャーナリズムの大原則であるが、それに反しない形でテーブルに出すことになる。
- ^ 一説にはジョージ・オーウェルの言葉だとされている。
出典
- ^ 調査報道とは何か―日本ジャーナリスト会議の勉強会から 本人ブログ「ニュースの現場で考えること」
- ^ “【独占インタビュー】英BBC「ジャニー喜多川氏告発番組」取材記者が語る「4年間の戦い」”. FRIDAY. p. 1 (2023年3月18日). 2023年9月7日閲覧。
- ^ 「調査報道」の社会史 小俣一平、2017年5月20日閲覧。
- ^ 水島宏明「母さんが死んだ ―しあわせ幻想の時代に―」、ひとなる書房
- ^ 精神医療を問う 東洋経済オンライン
- ^ コーナーページ
- ^ “輸入アサリが国産に アサリ産地偽装の実態は”. 報道特集. TBSテレビ (2022年1月22日). 2024年2月8日閲覧。
- ^ 石田剛、古川努 (2022年2月9日). “熊本産アサリ、今後2カ月出荷停止 知事「産地偽装を根絶」”. 西日本新聞. 2024年2月8日閲覧。
- ^ 浅野健一「冤罪逮捕をメディアはどう報じたのか-再審・滋賀湖東記念病院事件の報道検証」『創』第50巻第1号、創出版、2020年1月、98頁。
- ^ “2019年第19回「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」授賞作品”. 石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞. 早稲田大学 (2019年12月20日). 2020年11月11日閲覧。。
- ^ 【調査報道】シッター逮捕のキッズライン、レビューに浮上する深刻な疑惑
- ^ ““増税メガネ”岸田総理に降りかかる「政治資金パーティー」過少申告問題 告発者は「裏金作りの温床になっている」”. 週刊新潮. p. 1 (2023年11月8日). 2024年2月8日閲覧。
- ^ “政治資金パーティー、告発の裏金「氷山の一角」 調査した神院大・上脇教授 資料見て「法律違反確信」”. 神戸新聞 (2023年12月17日). 2024年2月8日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2024年1月25日). “自民 森山派が解散を決定 党内6派閥のうち4つが解散へ”. NHKニュース. 2024年2月8日閲覧。
- ^ “「赤旗」日曜版にJCJ大賞/自民党派閥の裏金スクープ/“日本の政治揺り動かした””. しんぶん赤旗. 日本共産党中央委員会 (2024年9月10日). 2024年9月30日閲覧。
- ^ “朝日新聞社が自民裏金報道で新聞協会賞 新編集システムで技術賞も”. 朝日新聞 (2024年9月4日). 2024年9月30日閲覧。
- ^ “SNSでつながる、取材力でこたえる 西日本新聞の調査報道「あなたの特命取材班」の挑戦”. news HACK by Yahoo!ニュース (2018年4月13日). 2022年4月29日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2020年2月25日). “あなたのニュースで社会が変わる 〜信頼のジャーナリズム〜”. NHK クローズアップ現代. 2022年4月29日閲覧。
- ^ NHK放送センター(東京都渋谷区)、さいたま局、千葉局、横浜局の総称。
関連項目
- ジャーナリスト
- センター・フォー・パブリック・インテグリティ
- オープン・ソース・インテリジェンス
- 発表報道
- 国別にみた情報公開法
- 日本新聞協会賞 - 編集部門賞は調査報道の成果が授賞対象となることが多い
- あなたの特命取材班
- 潜入報道(アンダーカバー・ジャーナリズム )
- コタツ記事
調査報道
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/01 05:13 UTC 版)
「ジェシカ・ミットフォード」の記事における「調査報道」の解説
1961年5月にジェシカはアラバマ州モンゴメリーに旅し、『エスクァイア』にアメリカ合衆国南部の心性についての記事を書いた。滞在間、ジェシカは友人とフリーダム・ライダーズの到着に立ち会い、クー・クラックス・クランがに率いられた暴徒が公民権運動家を襲撃する暴動に巻き込まれた。暴動の後、ジェシカはマーティン・ルーサー・キング・ジュニアが率いる決起集会に参加した。この会合に使われた教会もKKKに襲われ、ジェシカを含めた一同は州兵による暴力が鎮圧されるまでバリケードを築いてその中で一夜を過ごした。 ロバートは組合や死亡給付金に関する仕事をする中で葬儀業界に関心を持ち、ジェシカにこのテーマについての調査記事を書くよう強くすすめた。『フロンティア』誌で発表された記事「聖ペテロさま、お呼びではないのですか」はあまり広く流通したわけではなかったが、ジェシカが葬儀業界代表者2名と地方局のテレビ番組に出演した時にかなりの関心を引きつけた。一般大衆はこのテーマに関心があると確信したジェシカは『アメリカ式死に方』(The American Way of Death)を執筆し、1963年に刊行した。 この本でジェシカは、悲しんでいる家族を利用する無節操な業界の習慣を厳しく批判した。この本はベストセラーになり、葬儀業界に関するアメリカ合衆国議会聴聞会も開かれた。この本は、トニー・リチャードソン監督が1948年のイーヴリン・ウォーの短編「ご遺体」を原作として1965年に撮った映画『ラブド・ワン』にも影響を与えた。 『アメリカ式死に方』の後、ジェシカは調査報道を続けた。1970年には『アトランティック・マンスリー』に「今こそフェイマスライターズを見直そう」を書き、ベネット・サーフが設立した通信教育講座フェイマスライターズスクールが疑わしい運営を行っていると暴露した。1970にベンジャミン・スポックをはじめとする5名の男性が徴兵法に違反したかどで基礎された裁判を追ったThe Trial of Dr. Spock, the Rev. William Sloane Coffin, Jr., Michael Ferber, Mitchell Goodman and Marcus Raskinを刊行した。1973年にはアメリカの監獄システムを厳しく批判したKind and Usual Punishment: The Prison Businessを刊行した。 ジェシカは1973年の秋学期にサンノゼ州立大学特別教授になり、ウォーターゲート事件やマッカーシズムの時代をカバーする"The American Way"という授業を担当した。忠誠の誓いと指紋提出について学部長と意見が合わなかったため、キャンパスでは抗議活動が行われ、ジェシカは教育を続けるため裁判に訴え出ざるを得なかった。
※この「調査報道」の解説は、「ジェシカ・ミットフォード」の解説の一部です。
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