この季節 経営者として、少~しだけ憂鬱になることがあります。ホリデーチップ(Holiday Tips) という習慣―
ここアメリカでは受けたサービスに対して「お心付け」を渡す習慣があるのは、みなさんご存知かと思います。レストランで、タクシーで、ヘアサロンであらゆるサービスを受ける場面、代金とは別の現金を「感謝の気持ち」として渡す習慣は、欧米諸国の昔からの文化。慣わし。チップという伝統。
なかなか日本人他アジア諸国の人間は、このチップの習慣に慣れないと聞きます。かくいう僕も渡米当初は戸惑っていました。レストランでお代のだいたい20%前後のキャッシュをテーブルに置いて出る。これくらいはわかる。
でも、ホテルにタクシーで到着して、エントランスまでほんの10歩、ドアマンが荷物を運んでくれたら?それが中流以下のホテルの場合は? 量販店で家電を購入した際、店員が表の車のトランクまで商品を運んでくれたら? それがほんの4~5メートルの場合は? 実は 四半世紀暮らしても 「この場合は、はて?」と一瞬、悩むシーンは日常少なくない。家内と一瞬目が合い「5ドルでいいか?」と「いらないでしょ」が同時にハモられることもある(女って現実的ね)。
で、これらチップを支払う際のスマートな対応絶対法則を僕はアメリカ人からも サービス業の方からも 在米期間の大先輩からも、一度も具体的に聞いたことがない。
聞いても彼らは口を揃えて「ま、そこは、まぁ、ね、気持ちだから、いくらでもいいんじゃない?」とか答えます。
うそつけ。絶対にそんなことはない。
日本食レストランで客のチップが少ない場合、厨房ではその客の悪口で大盛り上がりだとか(笑)「あの駐在員、高っいスーツきてるくせに10%しか置いて行かなかった!」「あの社長さん、5ドル札1枚渡されたよ!ケチくさーい」 etc…。
でも、当然なんです 飲食店によっては、時給ゼロ$の勤務条件も珍しくはない。あくまで店側は料理を出す。それを客にサーブして、その客からチップをもらうのは、おまえ(ウエイター)の自由。働き次第でもらえるチップの額が変わってくる。なので、この街でのチップは「お心づけ」というよりは、支払い義務のある当然の対価。彼らの時給。生活費に直結する。
よくガイドブックに明記してある「気持ちいいサービスを受けた場合は、数ドル渡そう♪」は、あきらかに間違い。チップはマスト。観光で来られる際は、覚えておいてください。
ヨーロッパ系の客がたまにチップをまったく置いていかないまま退店して、ウエイトレスが店外まで追いかけてくるシーンを何度か見たことあります。彼女たちにとっては死活問題。当然、です。
僕も渡米当初、インド人の経営する散髪屋さん(バーバーね。ヘアサロンじゃなく店頭に赤と青のぐるぐるサインポールがあるような理髪店)に入店した際、座ると同時にいきなり真横と後ろを刈り上げられ、バリカン入れるたび、文句をいう隙間を与えないよう満面の笑顔で「Good? グッド?」を連呼、親指を立て続けられたことがありました。
ま、これも経験だなと、日本では見かけることのない奇妙なカットのソフトモヒカン頭で、料金を払い店を出ようとした際「おい、てめえ、チップは!?」と、さっきまでの人懐っこい笑顔のおじさんとはまるで別人の悪人顔に詰め寄られました。その時は まだヘアカットにもチップが必要という認識がなかった。この場合、彼らが正しい。彼らにとっては、当然の報酬なんです。
つまり、この街は、チップで回っているということです。で、特に12月を回ったこの時期、チップ界隈は――(この記事は約18分で読めます ※7,171文字)
この記事の著者・高橋克明さんのメルマガ
image by:D-VISIONS/Shutterstock.com