ある日、記者のスマートフォンに、法律事務所からショートメッセージ（ＳＭＳ）が届いた。「受任通知を送付しました。至急、開封のうえ、ご対応をお願いします」。身に覚えはなく、詐欺の類いだと思って無視していると、８月には毎日届くようになった。調べると、法律事務所は東京に実在している。放置すべきか、反応すべきか。そしてついに、事務所から電話がかかってきた－。

　■携帯に「受任通知を送付した」

　メッセージが最初に届いたのは６月２３日。宛先は記さず、最後に「弁護士法人○○○○法律事務所」と記されていた。スマホは会社名義で、仕事以外に使わない。自宅にも会社にも「受任通知」は届いていない。

　「折り返して連絡を取ると、だまされたり、個人情報を取られたりするのではないか」。そう思い、無視を決め込んだ。２日後にも、支払い期限が６月２７日だというメッセージが送られてきた。

　その後は何もなかったが、８月１９日に再び１通目と同じ「受任通知を送付しました」とのメッセージが届いた。２２～２４日は毎夜届き、さらに「確認させていただきたい事項があります。連絡くださいますようお願いします」とメッセージが連続して届いた。

　■無視を決めたが

　さすがに気持ち悪くなり、法律事務所名をインターネットで検索した。東京都に実在し、債権回収などを請け負っているようだ。事務所のホームページによると、１４人の弁護士を擁し、名古屋、大阪にも事務所を置いているという。

　ホームページには「当事務所名をかたり、請求に関するＳＭＳを送付する悪質な行為が多発しています」という注意喚起もあった。記者へのＳＭＳも法律事務所になりすました詐欺に違いない－。そう思い、無視を決め込むことにした。

　だが、８月３１日、東京の番号から着信があった。出ようとするとすぐに切れた。念のため、ネットで番号を検索すると、その法律事務所の番号だった。記者は意を決して折り返した。

　■記載ミス？　でたらめの番号？

　電話すると、事務員らしい男性が事務所名を名乗った。折り返しの電話であることを告げると、事務員は電話番号から「△△さんでしょうか」と別人の氏名を告げた。

　つまり、ＳＭＳはなりすましではなく、本当に法律事務所が債権回収目的で送ったもので、連絡先がなぜか、記者の携帯電話番号になっていたのだ。記載ミスなのか、でたらめの番号がたまたま記者の番号だったのかは分からない。

　事務員は「債権回収の依頼主に電話番号のデータを削除してもらう」と言って、通話を切ろうとした。だが、金銭にまつわる連絡を糸口に、個人情報を盗んだり金をだまし取ったりする犯罪が増えている中で、本人確認もなく連絡を求める手法に問題はないのか。

　事務員は「法的には問題がないので…」と答えに窮したため、さらに説明を求めると、「上席」という男性事務員に交代した。

　■「私どもには都合の良い方法」

　上席によると、記者の携帯電話番号で登録された別人が金融会社への後払い方式で買い物をして返済が滞り、金融会社が法律事務所に回収を委託したのだという。上席は謝罪した上で「金融会社が本人確認を済ませている」と説明したが、過去、記者に対して金融会社からの照会はなかった。

　この電話の間、記者はこの法律事務所の債権回収方法を巡る苦情がネット上にあふれているのを確認した。複数の掲示板に合計百件以上もの書き込みがあり、記者のケースと同じく「身に覚えのない債権回収の受任通知を一方的に送りつけられた」というものも多かった。

　こうした書き込みについて聞くと、上席は「これまでに同じような苦情はあった」と認めた。詐欺まがいのＳＭＳのように、本人確認もなく唐突に連絡を求める方法は、詐欺行為を誘発する結果につながらないか。上席は「私どもには都合の良い方法だからやり続けるという経営者の判断です」と話した。

　■弁護士会にも苦情が

　この法律事務所の債権回収方法について、事務所の代表弁護士が所属する「第一東京弁護士会」（東京都）に、是非を聞いた。

　対応した弁護士によると、同弁護士会には以前から同じような苦情があったという。そのたびに法律事務所に説明を求めたが、「おわびの上で電話番号を抹消しました」という報告があるだけだと明かした。

　弁護士は個人的な見解として「法律上の規定を調べたが、ぎりぎりひっかかっていない」としながら、「詐欺のメールなどと区別がつかないというのはその通りで、問題がない訳ではない。対策は必要になる」と話した。

　後日、法律事務所の代表弁護士に電話取材を申し込んだが、上席から「弁護士の取材はお断りさせていただきます」という返答があった。