全日本柔道連盟(全柔連)は29日、強化委員会を開き、2024年パリ五輪の日本代表に、男子66キロ級の阿部一二三(25)=パーク24、神港学園高出身=と女子52キロ級の阿部詩(22)=パーク24、夙川高出身=を内定した。21年の東京五輪で日本初の男女きょうだいによる五輪金メダルを成し遂げた2人は、宿敵との決着、けがの克服とそれぞれの壁を乗り越え、全競技を通じて兵庫勢一番乗りでパリ行きの切符をつかんだ。目指すは「2人で五輪連覇」だ。
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兄・一二三はずっと、4学年上の丸山城志郎(ミキハウス)と激しいライバル争いを繰り広げてきた。東京五輪の代表決定戦で24分にも及ぶ死闘を制し、五輪での金メダル獲得後も宿敵との戦いは続いていた。
パリ五輪代表の選考を兼ねた今年5月の世界選手権。大会前の時点で4連勝中の一二三が6勝4敗と優勢だったが、数字上は拮抗していた。周囲の関心が高まっても、本人はいたって冷静で「すごく意識する部分はもうない」と言い切っていた。
直接対決となった決勝。今回も10分を超える激闘となったが、一二三は終始、主導権を握って反則勝ちを引き出し、「一区切りついた」と誇った。丸山は「負けを認めるしかない」と受け止めた。
好敵手との差を広げ、つかんだ2度目の五輪出場権。かつては「丸山対策」に意識を向けていたが、今回の世界選手権前には「自分のパフォーマンスを出す」「自分の柔道を研ぎ澄ます感覚」と、己と向き合うことで心身を成熟させた。
「パリ五輪が懸かり、世界選手権には特別な思いがあった。今後の柔道人生にプラスになる」。敵は自分。柔道家としての幹を太くした一二三に隙はない。
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妹の詩は東京五輪前から体に異変を感じていたという。「両肩が緩く、引っ張られたら抜けてしまう感覚。そういう部分ではすごくセーブしながら試合をしていた」。故障を明かすことなく、世界一の強さを証明してみせたが、大会後の2021年秋、手術に踏み切った。
新型コロナウイルスの影響で東京五輪が1年延期になり、24年夏のパリ五輪までの間隔は1年短い3年。術後は8カ月も競技を離れ、「ちゃんと元に戻るのか」と焦りもあったが、懸命にリハビリに励み、徐々に筋肉量を取り戻していった。
22年10月の世界選手権で優勝し、復活を印象付けた。「肩の不安がないだけで本当に変わった」と、日を追うごとに稽古の質が増し、今年5月の世界選手権はオール一本勝ちを飾った。今では「世界一強」と呼べるほどの地位を築いている。
今月10日には地元兵庫で兄の一二三と柔道教室を開いた。県内の小学5、6年生283人が熱心に取り組む姿に「昔を思い出した」という。「私自身もこの兵庫で強くなった。金メダルを持って帰りたい」。子どもたちの憧れのヒロインが、決意を新たにしている。(有島弘記)
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