全国の刑務所には障害者や高齢者が多数服役している。彼らの中には釈放後に必要な福祉サービスにつながることができず、生活に困り窃盗などを繰り返し、刑務所に戻る人も少なくない。
群馬県地域生活定着支援センターは2010年に設置された。受刑中から対象者を福祉サービスにつなぎ、地域で安定した生活を送ることで結果的に再犯を防止するという、司法と福祉を橋渡しする事業を担っている。
当センター設置のきっかけは、刑務所の実情について自らの受刑体験を記した山本譲二氏の『獄総記』による。彼が刑務所で出会ったのは認知症の高齢者や、知的障害があり共同での生活が難しい人、食事や排せつ、入浴などを自分でできない人たちだった。多くは身寄りがなく、家も仕事もない状況で万引や無銭飲食などを犯し、服役していた。刑務所というと重犯罪者のイメージだが、実際には福祉施設のような光景が広がっていた、との投げかけは社会、特に福祉関係者に衝撃を与えた。
その後、下関駅放火事件が起きた。40年以上を刑務所で服役した74歳の男性は、それまでの裁判で6回も知的障害などを指摘されていたが、一度も福祉サービスにつながることはなかった。福岡刑務所を出所した数日後から事件までの間に警察や福祉事務所など八つの公的機関に対して生活保護を求めるなどしたが、公的支援は受けられなかった。犯行の動機は「刑務所に戻りたかった」。その結果、三角屋根の駅舎は全焼した。
法務省による06年度の矯正統計では、新規受刑者でCAPAS(矯正独自のIQ検査)が69以下(知的障害の疑い)の人が全体の2割強である。15刑務所の抽出調査では410人の知的障害のうち、療育手帳所持者は26人にとどまる。福祉サービスにつながっていない実態を受け、退所後に必要なサービス利用へ橋渡しをする定着センターが設置された。
これまで支援してきた方々の背景をひもとくと、生活困窮、重複する障害や疾病、アディクション、家族内外での虐待や暴力、社会的孤立や排除など、問題性が重なり合っている。また社会的な背景として、世帯が縮小し家族機能が希薄になり、地域関係が衰退している実態がある。生活を支える制度は存在しているものの、申請主義のため制度と制度を橋渡しするシステムがないか、または十分に機能していない。そのため地域の中では複合的な問題が置き去りにされ、孤立を深めている。
障害者・高齢者だからと言って犯罪が許されるわけではない。しかし人間は過ちを犯すことがある。彼らの犯罪に至る理由は表面に現れにくく気付きにくい。地域の中で彼らはただただ生活に困っている人だったのかもしれない。
皆さんが暮らす地域は、困って助けを求めたときに問題が解決できる地域だろうか?
【略歴】1998年、社会福祉法人はるな郷に入職。2010年に同法人が県の委託で県地域生活定着支援センターを設立。主任相談員を経て13年から現職。日本福祉大卒。