私は高崎市出身で、中学高校を安中市の新島学園で過ごした。その後大学や就職で高崎を離れ、現在は栃木県北部にある、ちょっと変わった学校の校長を務めている。初回は、私が29年間勤めるこのちょっと変わった学校を紹介したい。
法人名はアジア学院、学校の名はアジア農村指導者養成専門学校。名前の通り、アジアの農村の人々のためにつくられた学校だが、日本人学生はほとんどいない。栃木県認可の専修学校で、平均年齢は30代半ばだ。
というのも、「学生」としてやって来るのはいわゆる開発途上国と言われる国や地域の、貧困、食糧難、教育、健康、人権といった母国の農村のさまざまな問題に取り組む組織や団体の中堅リーダーだからだ。今、国内の多様な業種で働き日本の産業を支える「技能実習・特定技能」の外国人労働者とは来日の目的が異なる。
アジア学院の学生たちは、母国の農村のコミュニティーを代表して、コミュニティーが抱える問題の解決のために必要な技術や知識を習得しようとやって来る。壮絶な貧困や差別、戦争や災害を乗り越えてきた人も少なくないが、自分よりもさらに厳しい境遇にある人たちの状況を改善し、地域全体を良くしていくことを最優先課題にしている、献身的で経験豊かな草の根のリーダーたちだ。
創立から50年となり、これまで世界61カ国に1425人の卒業生を送り出した。
アジア学院の研修は毎年4~12月までの9カ月間。毎年十数カ国から25~30人を那須塩原市のキャンパスに招いて、スタッフやボランティアたちと共に多文化多宗教の共同体を形成する。今年は例年より少なめで13カ国から21人が集まった。
スタッフとボランティアを合わせれば国籍は16になるが、同じ国でも言葉や文化が全く違う人もいる。多種多様な考えや価値観が交じり合う中で、互いの違いを尊重し、公正で平和な生活を送るために努力することが人間性を開発してくれると考えているので、アジア学院は国の数が増えることは大歓迎だ。
学院には広い農場があり、私たちは有機農法で自分たちの食べる食料をほぼ自給している。研修も兼ねた農作業、調理・加工など食に関わる作業を私たちは「フードライフ」と呼び、それは学院生活の大きな部分を占める。フードライフは有機農業に関することだけでなく、食べ物の大切さ、食料自給、食料主権、労働の尊厳、自然への畏敬など、多くの大切なことへの理解を深めてくれる。
このキャンパスにいると、今よく話題になっている多様性や共生、持続可能な農業、循環型社会、気候変動と気候正義、平和構築などが世界的な視野で見えてくる。次回からはそうしたことを取り上げていくつもりだ。
【略歴】高校教師を経て1995年からアジア学院勤務。2015年から現職。新島学園高―国際基督教大卒。米ミシガン州立大大学院修了(社会学)。高崎市出身。