銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

金融庁の「高校生のための金融リテラシー講座」が示唆に富みすぎている

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金融庁が発表した「高校生のための金融リテラシー講座」が、ツイッターでオススメだと紹介され反響を呼んでいると報道されています。

2022年4月からは高校の必修科目である家庭科で「資産形成」についても教えられることになります。そして、成人年齢は18歳に引き下げられます。

金融リテラシー、すなわち「お金にかかわる、金融や経済に関する知識や判断力」を高校時代から磨くことは、学生一人ひとりの人生にとって重要になってきています。

世の中には、様々な投資話が溢れています。仮想通貨、NFT、不動産投資、FX、株式等々、投資の勧誘は日常的でしょう。経済的に自立し、早期リタイアを実現する「FIRE(ファイア:Financial Independence, Retire Early)」が若者を中心に大きな目標となっていることをお聞きになったことがあるかもしれません。

特に若年層においては、実態のない投資話を持ち掛ける悪質商法や投資詐欺の被害は後を絶ちません。このようなトラブルを避け、確かな生活を実現できるようにするためにも、金融リテラシーを育む「金融経済教育」が求められていることになります。

今回は、金融庁が公表した「高校生のための金融リテラシー講座」から、役に立つ知識についてご紹介していきたいと思います。

 

はじめに

金融庁の「高校生のための金融リテラシー講座」の資料については以下のリンク先にあります。

https://www.fsa.go.jp/news/r3/sonota/20220317/20220317.html

今回の記事では、この資料から引用していきます。

まず、金融リテラシーの必要性について説明した箇所は以下となります。

金融リテラシーが高いと、

  •  家計管理がしっかりしていて、借金が少ない
  •  計画を立ててお金を準備しているので、やりたいことを実現しやすい
  • 緊急時の備えがあるので、危機(自身のケガや病気、不景気による収入減など)に強い
  • 詐欺や借金などのトラブルにあうことが少ない
  • 経済的に自立し、より良い暮らしを送ることができる

(出所 金融庁「高校生のための金融リテラシー講座」)

まさに若年層に身に着けて欲しい要素であることが分かるでしょう。

実際に成年年齢の引き下げにより、18歳になると以下のようなことが出来るようになります。

  • 携帯電話を契約する
  • 一人暮らしの部屋を借りる
  • クレジットカードをつくる
  • ローンを組む

要は自分で様々なことを管理していかなければならないということです。人生を生き抜くために金融リテラシーは必要ということなのです。

そして、この講座では金融リテラシ―を教える前に、まずはライフプランニングの重要性を説いています。

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(出所 金融庁「高校生のための金融リテラシー講座」)

金融リテラシーを学ぶためには、「将来どんな人生を送りたいか」についての構想を描くことが先なのです。将来の夢、将来やりたいこと、希望するライフデザインのために、どうお金を準備するかを考えるのが金融リテラシーと言えるかもしれません。

この流れは若年層にとっては非常に重要です。

そして、家計管理のポイントも教えられています。

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(出所 金融庁「高校生のための金融リテラシー講座」)

この図は、非常に示唆に富んでいます。この図を見ると「痛い指摘をされている」「分かっているけど出来ない」と思う方も多いのではないでしょうか。

この講座では、「必要なもの」と「欲しいもの」を区別し、お金の使い方を考える時は、「それは必要なもの(ニーズ/needs)なのか、欲しいもの(ウォンツ/wants)なのか」、自問してみること、そして「必要なものを優先する」(欲しいものは余裕があるときに買う)ことを勧めています。

 

資産形成について

資産形成の項目でも、この講座では冒頭に重要な教えを持ってきています。

目的別に金融商品を活用しながら、皆さん一人一人が自分に合った資産形成を行い、将来に向けて準備していきましょう。

語学やPCスキルを学ぶ、資格を取得するなど自己投資を行い、稼ぐ力を高めることも大切です。

(出所 金融庁「高校生のための金融リテラシー講座」)

筆者は、資産形成を考える前に、特に若年層は後段の自己投資を行い、稼ぐ力を高めることが必要だと考えています。

資産を作ること、資産を運用して不労所得を得ることが重要と考えている方は多いと思いますが、不透明な時代に最も強いのは「自らが稼ぐことが出来る能力」です。例えば、資産は場合によってはインフレで価値が低下してしまうかもしれません。しかし、稼ぐ能力(もしくは適正な価格で雇われる能力)があれば、その時点の物価に応じた稼ぎを得ることが出来ます。これほどインフレに強いことはありません。

そして、自ら稼ぐ力を強化すれば、得られる収入は増え、貯蓄ができ、運用できる資産額も増えていきます。資産を親から受け継いでいるような資産家でなければ、まずは自らの稼ぐ力を強化することが一義的に大事ということです。

そして、この講座では、資産形成について以下のスライドでポイントを教えていきます。

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(出所 金融庁「高校生のための金融リテラシー講座」)

ここまでの流れは、まさに資産形成(運用)における基本が簡易な言葉で説明されています。

安全性、収益性、流動性の3つの項目を同時に満たす金融商品が無いということを明確に説明しています。この常識こそが、金融犯罪や詐欺に巻き込まれないための重要な指針となります。

「元本を100%保証する」「絶対に儲かる」「いつでも換金できる(換金に応じる)」というような金融商品は基本的に成立しないのです。うまい話には裏がある、ということを見抜くためにも、上記の指針(常識)は必要なのです。

そして長期的に複利効果を享受することが資産形成の大事な常識です。

 

所見

若年時というのは、収入も貯蓄も少ない一方で、支出をしたくなる時期でもあります。今の時代は少し異なるかもしれませんが、交際相手とのデート、車、ファッション、旅行、資格取得等々にお金が必要であるはずなのです。

安易にクレジットカードを使ったり、ローンを組んでしまったりして、経済的に破綻する若者は過去も、そして現在も相応の数が存在します。そして、詐欺等の被害にあうこともあるのです。

もちろん、大人になっても、かぼちゃの馬車事件(スルガ銀行の事件でもある)のように、一般のサラリーマンが不労所得を夢見て大きな損失を抱えそうになったことを記憶している方もいるでしょう。「大人」だって簡単にうまい話に飛びつく人は多数存在するのです。

今回ご紹介した金融庁の「高校生のための金融リテラシー講座」は、普遍的で根本的な内容となっています。大人であっても自身の行動を考えさせられ、非常に示唆に富んだ講座なのではないでしょうか。