銅のさびから青銅器の製作年を測定、出雲大社で実証 名大助教ら発表
生物の骨や木の化石などに残る放射性炭素(C14)の量で年代を調べる「放射性炭素年代測定法」。銅の表面に生じるさび「緑青」から抽出した炭素にこの測定法を使い、年代を測定することに名古屋大学宇宙地球環境研究所の小田寛貴助教らが初めて成功した。
様々な遺物の緑青に含まれる炭素の測定が進めば、青銅器などの製作年代をより正確に把握できると期待される。
研究結果は、松江市で9月14~19日にあったアジア太平洋放射化学学会のポスターセッションで発表された。これまで放射性炭素年代測定法の対象となってきた考古学、歴史学の資料は、木片や木炭、骨や毛、紙や絹といった動植物由来のものが主だった。
小田助教らは、青銅器を皮膜のように覆う緑青に着目。緑青には青銅器などが作られた時期の大気中の炭素が残っていて、それが年代測定に利用できるという。
助教らが年代測定の「白羽の矢」を立てたのは、遷宮が60年に一度ある出雲大社(島根県出雲市)。2013年にあった「平成の大遷宮」以前の本殿で、垂木の先に1953年から取り付けられていた青銅製の金具が、元興寺文化財研究所(奈良市)で保存処理されていた。助教らは金具の緑青の資料提供を求め、快諾を得た。
続いて年代測定だ。わずかな緑青約0.05グラムを試験管に封入し、温度250度で2時間、真空の中で加熱して二酸化炭素を抽出する。
これを使って2015年2月に測定をした結果、「1957年の前後1年」と判定され、実際に金具が取り付けられた53年と4年ほどの小差であることが分かった。
金具が大気にさらされた時に緑青は発生しはじめ、8年ほどで成長が止まる。「4年」は緑青の成長期間のほぼ平均値であり、逆に測定値から4年を引けば、青銅器の製作年が分かることになる。
また小田助教らは、和歌山県最古の寺といわれる道成寺(日高川町)近くの水田で1762年に出土し、保管されてきた鐘巻銅鐸(かねまきどうたく)の緑青を、寺の協力で採取。製造年代を測定したところ、3世紀中ごろから4世紀初頭と判明した。考古学的には弥生後期のものとされており、ほぼ一致した。
小田助教は今回の測定法について、「歴史学的にすでに年代が示されている遺物でも、さらに詳しい年代を調べることができる」と特長を語る。
ただ、測定するものが出雲大社の金具のような高所ではなく、容易に人の手が届く場所にある場合は、緑青の生成が遅れたり、はがれたりして測定が不正確になる。小田助教はこう付け加えた。「よく掃除をする小僧さんがいる寺には向きません」