ノーベル生理学・医学賞、阪大の坂口志文氏らに 制御性T細胞を発見
スウェーデンのカロリンスカ研究所は6日、今年のノーベル生理学・医学賞を、大阪大の坂口志文(しもん)特任教授(74)らに贈ると発表した。業績は「免疫が制御される仕組みの発見」。病原体を攻撃する免疫細胞の中に、免疫反応の暴走を止めるブレーキ役の「制御性T細胞」を発見した。この細胞の働きが弱まると、免疫細胞が体内の正常な組織を攻撃して自己免疫疾患などの病気になることも突き止めた。
同日夜に会見した坂口さんは「うれしい驚き。この研究がもう少し人の役に立つとなんらかのごほうびがあるかもしれないと思っていた。驚きとともに光栄です」と話した。
受賞が決まったのは坂口さんの他に、米システム生物学研究所のメアリー・ブランコウさんと米ソノマ・バイオセラピューティクスのフレッド・ラムズデルさん。
人の体内には、様々な種類の細胞が連係し、病気を引き起こす細菌やウイルスなどの異物を排除する「免疫」の機能が備わっている。しかし、何らかの原因で、病原体でないものに免疫が強く働くことがある。自分の組織を攻撃する関節リウマチや1型糖尿病といった自己免疫疾患や、本来は無害な花粉などに過剰に反応するアレルギーを引き起こす。
坂口さんは1980年代、免疫の司令塔役の「T細胞」をつくれないマウスを使った実験で、免疫の働きにブレーキをかけるタイプのT細胞があることに気づいた。ブレーキ役を取り除いたT細胞の集団をこのマウスに移植し、自己免疫疾患が起きることも確認した。95年に存在を証明する論文を発表。ブレーキ役を「制御性T細胞(Treg(ティーレグ))」と命名し、さらに詳しい機能を明らかにした。
2011年度に朝日賞、15年にガードナー国際賞、17年にクラフォード賞、20年にロベルト・コッホ賞をそれぞれ受賞した。
免疫のブレーキ役となる制御性T細胞は様々な病気に関わる。制御性T細胞の働きを強めることで、自己免疫疾患やアレルギー、臓器移植後の拒絶反応を抑えられる可能性があり、治療への応用に対する期待も高い。
一方で、がん細胞を攻撃する免疫細胞にまでブレーキをかけてしまい、がんを守る「盾」のように振る舞うこともわかってきた。そこで、逆に制御性T細胞を弱めてがんを治療する研究も国内外で進んでいる。
ブランコウさんとラムズデルさんは、制御性T細胞の存在を裏付ける重要な発見をした。1940年代、原子爆弾の開発を進めていた米国の研究所で、放射線の影響を調べる過程で偶然、病弱な雄のマウスが生まれた。その後、研究者たちはこのマウスが病弱になる原因を調べていた。
90年代、米のバイオ企業で働いていた2人は、病弱となる原因の遺伝子を調べ「FOXP3」という遺伝子を発見。この遺伝子が、制御性T細胞の働きを決めていることが後に明らかとなった。
日本のノーベル賞受賞(米国籍を含む)は、24年平和賞の日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)に続き2年連続。個人では21年物理学賞の真鍋淑郎氏以来29人目。生理学・医学賞は利根川進・米マサチューセッツ工科大教授(87年)、山中伸弥・京都大教授(12年)、大村智・北里大特別栄誉教授(15年)、大隅良典・東京科学大栄誉教授(16年)、本庶佑・京都大特別教授(18年)に続いて6人目。授賞式は12月10日にストックホルムである。賞金は1100万スウェーデンクローナ(約1億7000万円)で、3人で分ける。
相次ぐノーベル賞受賞者からの喜びの声
大阪大特任教授の坂口志文さ…