坂口志文さん、不遇乗りこえノーベル賞に 妻・教子さんと続けた研究

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 免疫の暴走を止めるブレーキ役――。ノーベル生理学・医学賞の受賞が決まった大阪大特任教授の坂口志文さん(74)が見つけた制御性T細胞は、がんや関節リウマチなど幅広い病気に関わっている。30年以上前にその存在に気づいたが、当初は受け入れられなかった。不遇の時代でも信念を貫き、免疫学の新たな扉を開いた。

 ノーベル賞の原点は1977年、坂口さんが京都大の大学院生のときにふと目にした論文だ。「生後3日のマウスから胸腺を取り除くと、病原体に感染しなくても卵巣などで炎症が起きた」と記されていた。

 心臓の近くにある臓器、胸腺(Thymus)は、免疫細胞の一種「T細胞」を生み出す。T細胞は当時、自ら病原体を攻撃したり、ほかの免疫細胞に攻撃を促したりする役目が知られていた。

 では、胸腺を取ると、炎症が起きたのはなぜか。考えられる炎症の理由は、花粉症などアレルギー反応のような免疫の暴走。免疫細胞が病原体ではなく、誤って自分の体を攻撃したことだ。

 そこで、坂口さんは「自分への攻撃を抑えるブレーキ役のT細胞も、胸腺でつくられているのではないか。それがなくなったため炎症が起きたのでは」と考えた。自説を証明しようと大学院を中退。きっかけとなった論文を発表した愛知県がんセンター研究所に移って実験に没頭した。

 生まれつきT細胞を持たないマウスに、別のマウスからT細胞を移植。すべてのT細胞を移植すると炎症は起きず、T細胞の一部を取り除いて移植すると、炎症が起きた。「取り除いた細胞の中にブレーキ役が含まれている」。85年、そう指摘する論文を発表した。

 しかし、謎の細胞の正体をは…

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    板倉龍
    (科学雑誌Newton編集部長)
    2025年10月7日12時49分 投稿
    【視点】

    Newton2017年6月号のインタビューの冒頭,坂口志文教授はこう語っています。 「中学生ぐらいまでは美術に興味があり,油絵をかいたり,彫刻をつくったりといったことに没頭していました。父が大学時代に哲学を学んだため,自宅には哲学関連の本が

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ノーベル賞

ノーベル賞

ダイナマイトを発明したスウェーデン人化学者アルフレッド・ノーベル(1833~96)の遺言を元に、1901年に始まりました。毎年10月に受賞者の発表、12月に授賞式が開催されます。[もっと見る]