2006年 12月 06日
ヘッジファンドのレバレッジ問題 |
最近好調すぎるLBOとレバレッジドファイナンス市場に対して、ウォールストリートやその周辺から「デットバブル」を懸念する声が上がっていると言うのはいつも書いている通りですが、レバレッジの問題は何もLBOに限った問題とは言い切れないようです。
そう書くと、そのデットを銀行から買っているのがヘッジファンドであり、実質リスクの多くがそこに移転していると言う話か、と思われるかもしれませんが、今回はそうではなく、ヘッジファンド自身が用いるレバレッジの話です。
ヘッジファンドを悪い意味で有名にした「ソロス」と「LTCM」のケースが語られる際に、前者は為替市場の混乱者として、後者は超過レバレッジの使用によって危なく金融機関の破綻連鎖を招きそうになった存在として語られるのはご存知の通りです。
これらのファンドが用いていた「グローバルマクロ」と呼ばれる戦略は、スプレッド(利幅)が薄いことから大きなレバレッジを用いるため、何かおかしくなると短期的に大きな損失が発生する可能性があります。LTCMの場合には、天才集団であった同社に最大で100倍近いレバレッジを大手金融機関が提供していたと言われ、LTCMの破綻が危なく金融業界全体に拡がりそうになったわけです。(関連エントリー:「ヘッジファンドのイメージ」)
同社の破綻の反省を受けて、グローバルマクロ戦略は90年代後半から大幅に衰退したと言われますが、それでもヘッジファンドは引き続きその運用実態が見えにくい存在であるため、当局などは常にオーバーレバレッジの問題に目を光られているといわれます。
そんな中、最近大手ヘッジファンドのCitadel Investment Groupが、業界初と言われる公募のデットファイナンシングを行って、注目を集めています。
シカゴに本拠を置くCitadelは、運用資産額$13bn(約1.6兆円)の最大手ヘッジファンドの一つですが、ここが最近、Lehman、Goldman、そして先日取り上げた大手オルタナティブファンドのFortressを主幹事として、業界初のパブリックデットの調達($2bn、約2,300億円)を行っています。
Citadelは、天才(と言ってよいと思いますが)Ken Griffinと言う人が、1990年にHarvardの学生時代に20歳そこそこで、転換社債アービトラージ戦略を生み出したことで設立された、代表的なCBアーブのファンドです。
現在では現場を離れて経営に注力しているとされるGriffin氏(写真の方です)は、今でも若干38歳で、保有資産は2,000億円とも言われているそうです。
同社はファンド規模の拡大に伴ってマルチストラテジーに転身しており、3年ほど前に株式ロングショートのファンドを立ち上げたり、先日も破綻したAmaranthから天然ガストレーディングのポジションを購入したりと、よくメディアでも名前を聞く存在です。
そんな大手ヘッジファンドのCitadelですが、今回の案件が特に注目を集めているのは、ヘッジファンドが大型の公募デット案件を始めたから、と言うこともありますが、むしろその開示文書を通じて明らかになった、同社が通常業務を通じてウォールストリートに支払っているとされるフィーの総額です。
12月2日のFTによると、同社が借入金(レバレッジ)に関して支払っている金利や、証券売買に関するトレーディングフィーなどの支出額の合計は、$5.5bn(約6,500億円)にも上っているそうです。この金額は、このファンドの運用資産$13bn(1.6兆円)と比較すると、異様に大きな額と言える気がします。
FTによると、この支出の9割方は金利だそうで、そんな巨額の金利を生み出すレバレッジの元本、つまり銀行やプライムブローカーであるMorgan StanleyとGoldmanから提供されているデットの総額は、$150bn(約18兆円)と、運用資産の10倍超に上るそうです。($5.5bnの9割は約$5bn、これをこの元本で割ると、3.3%の金利ということになりそうです。)
私はこうした大手マルチストラテジーファンドがどの程度のレバレッジを使っているのか詳しく知らないので、FoFの仕事をされている方などに是非ともコメントを頂きたいのですが、とりあえずLTCMの利用していた100倍超と比べれば、大した規模ではないのかもしれません。
(ちなみにボラティリティが全く違うので一緒に議論してもあまり意味がないですが、株式ロングショートのヘッジファンドが用いているレバレッジは、1倍からせいぜい2~3倍程度と言われています。)
それでもFTが書いていたように、このフィーの金額が業界人を驚かせる規模であったとすると、今回のCitadelの案件は、同社が図らずとも規制当局の注目を集めてしまうかもしれません。
ただ先月辺りにも書いた気がしますが、当局が恐れているのは金融機関のメルトダウンであり、ヘッジファンドを規制すると言うよりも、銀行側のアグレッシブな姿勢に注目する気がします。と言うのは、FTの中でも述べられていましたが、銀行は大手ヘッジファンドとのビジネスを確保するために、金利を下げたり資金使途の規制を緩めたりと、リスクの高い融資を積極的に行っている模様だからです。
ちなみに銀行は、LBO案件でもレバレッジをかなり有利な条件で提供したり、LBO後にファンドに配当金を支払うために行われるレバレッジド・リキャップ(要は追加のデットファイナンシング)では、投資銀行では到底考えられないような、恐らく損失覚悟のレートを提示したりしています。
もちろんそこで若干損をしても、その結果LBOファンドからIPOなどのエグジット案件をもらえればよい、との計算があるのでしょうが、そのようにして拡大した信用リスクが景気後退時に大きくはじけることが、最近深刻に心配されています。
ヘッジファンドのレバレッジは、LTCMの時にまさにそうであったように、LBOと比べると瞬間的に問題となりえることから、米国や英国の規制当局の動きが今後が注目されるところです。
そう書くと、そのデットを銀行から買っているのがヘッジファンドであり、実質リスクの多くがそこに移転していると言う話か、と思われるかもしれませんが、今回はそうではなく、ヘッジファンド自身が用いるレバレッジの話です。
ヘッジファンドを悪い意味で有名にした「ソロス」と「LTCM」のケースが語られる際に、前者は為替市場の混乱者として、後者は超過レバレッジの使用によって危なく金融機関の破綻連鎖を招きそうになった存在として語られるのはご存知の通りです。
これらのファンドが用いていた「グローバルマクロ」と呼ばれる戦略は、スプレッド(利幅)が薄いことから大きなレバレッジを用いるため、何かおかしくなると短期的に大きな損失が発生する可能性があります。LTCMの場合には、天才集団であった同社に最大で100倍近いレバレッジを大手金融機関が提供していたと言われ、LTCMの破綻が危なく金融業界全体に拡がりそうになったわけです。(関連エントリー:「ヘッジファンドのイメージ」)
同社の破綻の反省を受けて、グローバルマクロ戦略は90年代後半から大幅に衰退したと言われますが、それでもヘッジファンドは引き続きその運用実態が見えにくい存在であるため、当局などは常にオーバーレバレッジの問題に目を光られているといわれます。
そんな中、最近大手ヘッジファンドのCitadel Investment Groupが、業界初と言われる公募のデットファイナンシングを行って、注目を集めています。
シカゴに本拠を置くCitadelは、運用資産額$13bn(約1.6兆円)の最大手ヘッジファンドの一つですが、ここが最近、Lehman、Goldman、そして先日取り上げた大手オルタナティブファンドのFortressを主幹事として、業界初のパブリックデットの調達($2bn、約2,300億円)を行っています。
Citadelは、天才(と言ってよいと思いますが)Ken Griffinと言う人が、1990年にHarvardの学生時代に20歳そこそこで、転換社債アービトラージ戦略を生み出したことで設立された、代表的なCBアーブのファンドです。
現在では現場を離れて経営に注力しているとされるGriffin氏(写真の方です)は、今でも若干38歳で、保有資産は2,000億円とも言われているそうです。
同社はファンド規模の拡大に伴ってマルチストラテジーに転身しており、3年ほど前に株式ロングショートのファンドを立ち上げたり、先日も破綻したAmaranthから天然ガストレーディングのポジションを購入したりと、よくメディアでも名前を聞く存在です。
そんな大手ヘッジファンドのCitadelですが、今回の案件が特に注目を集めているのは、ヘッジファンドが大型の公募デット案件を始めたから、と言うこともありますが、むしろその開示文書を通じて明らかになった、同社が通常業務を通じてウォールストリートに支払っているとされるフィーの総額です。
12月2日のFTによると、同社が借入金(レバレッジ)に関して支払っている金利や、証券売買に関するトレーディングフィーなどの支出額の合計は、$5.5bn(約6,500億円)にも上っているそうです。この金額は、このファンドの運用資産$13bn(1.6兆円)と比較すると、異様に大きな額と言える気がします。
FTによると、この支出の9割方は金利だそうで、そんな巨額の金利を生み出すレバレッジの元本、つまり銀行やプライムブローカーであるMorgan StanleyとGoldmanから提供されているデットの総額は、$150bn(約18兆円)と、運用資産の10倍超に上るそうです。($5.5bnの9割は約$5bn、これをこの元本で割ると、3.3%の金利ということになりそうです。)
私はこうした大手マルチストラテジーファンドがどの程度のレバレッジを使っているのか詳しく知らないので、FoFの仕事をされている方などに是非ともコメントを頂きたいのですが、とりあえずLTCMの利用していた100倍超と比べれば、大した規模ではないのかもしれません。
(ちなみにボラティリティが全く違うので一緒に議論してもあまり意味がないですが、株式ロングショートのヘッジファンドが用いているレバレッジは、1倍からせいぜい2~3倍程度と言われています。)
それでもFTが書いていたように、このフィーの金額が業界人を驚かせる規模であったとすると、今回のCitadelの案件は、同社が図らずとも規制当局の注目を集めてしまうかもしれません。
ただ先月辺りにも書いた気がしますが、当局が恐れているのは金融機関のメルトダウンであり、ヘッジファンドを規制すると言うよりも、銀行側のアグレッシブな姿勢に注目する気がします。と言うのは、FTの中でも述べられていましたが、銀行は大手ヘッジファンドとのビジネスを確保するために、金利を下げたり資金使途の規制を緩めたりと、リスクの高い融資を積極的に行っている模様だからです。
ちなみに銀行は、LBO案件でもレバレッジをかなり有利な条件で提供したり、LBO後にファンドに配当金を支払うために行われるレバレッジド・リキャップ(要は追加のデットファイナンシング)では、投資銀行では到底考えられないような、恐らく損失覚悟のレートを提示したりしています。
もちろんそこで若干損をしても、その結果LBOファンドからIPOなどのエグジット案件をもらえればよい、との計算があるのでしょうが、そのようにして拡大した信用リスクが景気後退時に大きくはじけることが、最近深刻に心配されています。
ヘッジファンドのレバレッジは、LTCMの時にまさにそうであったように、LBOと比べると瞬間的に問題となりえることから、米国や英国の規制当局の動きが今後が注目されるところです。
by harry_g
| 2006-12-06 18:03
| ヘッジファンド・株式投資