うちこのヨガ日記

ヨガの練習や読書、旅、生活、心のなかのこと。

秘密と友情 春日武彦 / 穂村弘

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春日武彦さんの本で息抜きをしたくて読んだのですが、ここ数年で読んだ対談本の中でダントツのおもしろさでした。設定されている14テーマがよいし、精神科医と歌人の組み合わせなのに、歌人のほうがロジカル。
このブログをはじめる前の2004年に、歌人・穂村弘さんの「世界音痴」「もうおうちへかえりましょう」を読んで、その頃「やばい。同調すると、本来のわたしのダメさが引き出されてしまう気がする」と思ったのを記憶していて、以後なんとなく読まないようにしていたのですが、その理由がいまわかった。
対談自体は仲のよい中年男性がお話している感じなのだけど、以下のようにあまりに実感の湧くことを、でもあまり言えないことを、あっさりとおっしゃる。

昔ながらの友情みたいなイメージを求めるなら、一瞬のものに仮託するしかないんじゃない? リアルタイムに捉えようとしたら、とても脆弱なものだと思うよ。
(「友情」より 穂村氏)



恋愛の中にも宗教的な側面があって、「あんたを愛している」と言い切られた時、証拠を出せとも言えないし、無根拠で言い切れるはずのないことを言い切るところに愛が潜んでいるのではないかという理論展開をしがちだよね。
 人はたぶん、あなたがあなたであるだけで生きていていいんだという他者からの無根拠の保証がどうしても必要なんだよ。主に親がその部分を担ってきたわけでしょ。たとえ何人人を殺しても、あなたはいい子よ、と言ってくれる人がいないと、生きていけない。この初期設定自体が相当ヘヴィなんだけどね。
(「救い」より 穂村氏)



それを秘密と呼ぶかどうかは人によると思うけど、いずれ俺は何かを書くんだと決めて、思いついたことをメモしておくとかさ。秘密は、志に近いものとリンクしていると思う。
(「秘密」より 春日氏)



僕は、唯一の根元的な宇宙原理によって世界が動いていてほしい。だから、思考はどこまでもメタ化し、ついに神を凌駕するシステムに指先がかかるんじゃないかと常に思っているわけ(笑)。でも、そういう発想をすればするほど、現実のランダムなジャンプに足をすくわれるんだ。
(「不安」より 穂村氏)



精神の病気の人は基本的に権威主義的だから、古くから生き残ってきたものが好きなんだよ。
(「言葉」より 春日氏)

このピックアップだけでも特選だけど、なかでも「秘密は、志に近いものとリンクしている」というのにうなずいた。




以下の、鉄棒の話もすき。

穂村:あ、そうか。救いって、その前段階に「時間」があるんだ。悩んだり、苦しんだりした時間が。で、そこから助かると救われたと感じる。絶妙のタイミングで何かが上手く発せられて、それで救われる瞬間が訪れる。
春日:俺も逆上がりがどうしてもできなくて、「身体(からだ)をもっと鉄棒に巻き付けるようにすりゃいいんだよ」って、そばで見てた友達から一言言われただけでできるようになったことがあったけど、あれにはグッときたからなぁ。
(「救い」より)

こういうとき、その言葉を発した人が神に見えますよね。神を創ったのは自分なんだけど。




以下の感覚も、これまたうなずく。

穂村:先生はどうしてその不安が狂気のゾーンまでいかないの?
春日:それを違和感として感じられるからだと思う。批判力はあるから、狂気には陥らないけど、でも、苦しみは持続するのよ。
(「不安」より)

批判力があるから狂うに狂えない苦しさみたいなのが、あっさり語られている。




以下は、穂村氏が企業で採用面接をやっていたときの体験談からの流れ。

春日:へタレを採ってみてどうだった?
穂村:やっぱりダメだったね。人はいつか、自分だけが特別じゃないということを受け入れて粘り強く現実に対処するか、自分の打たれ弱さを自覚して一生稼げる独自のパターンを見つけるか、ちゃんと考えるべきと思った。
(「仕事」より)

穂村氏は「それいったら、もう、そうだし」ってことを言い放つ。こういう夢のない感じがいい。そのほうが結局は充実する。穂村弘さんの本を10年以上前に読んだときは、「働き盛りの時期に読んじゃ、だめな気がする。職場で演技ができなくなりそう」という感じがしたのだけど、もう読んでも大丈夫(笑)。


この本、すごくおすすめです。おもしろいです。対談本の名作だと思う。


▼紙の本

秘密と友情 (新潮文庫)
春日 武彦 穂村 弘
新潮社 (2014-09-27)


▼Kindle版