「豊かな海づくり」と木曽川水系の希少種 |
今年の6月、岐阜県は「第30回 全国豊かな海づくり大会」を行う。
森・川・海 第30回全国豊かな海づくり大会 ぎふ長良川大会
(岐阜県の公式サイト)
http://www.pref.gifu.lg.jp/pref/s11438/umisite/
「清流がつなぐ未来の海づくり」… はい、その通り。
<大会コンセプト>
○ 森、川、海を一体とした美しい水環境づくり
○ 魚が住まう水づくり
○ ”水との共生”による子ども(未来)にやさしい県づくり
… 結構です、異論ございません。でも「長良川」なんでしょ? だったら「森・川・海の一体性」を遮断しているアノ河口堰をどう考えるの?
「市民による豊かな海づくり大会」が呼びかけられている。
呼びかけ文(PDFファイル版)
元旦から、中日新聞岐阜県版で「アユは語る 第1部 途切れたつながり」という記事が9回にわたって連載された。(PDFファイル版①~⑨)
① よどむ流れ 川下り阻む
② 春の使者に堰堤の”影”
③ 重なる改修 堰がとどめ
④ 大量遡上で小型化加速
⑤ 卵のベッド ダムで消滅
⑥ 縄張り守る闘志 減退?
⑦ ダム湖 新たな繁殖地に
⑧ 清流に迫る外来魚の影
⑨ 人介さねば絶滅恐れ?
(⑦の記事ついて「訂正」が載っています。「琵琶湖産の稚アユ数百トンを阿木川と岩村川に放流」→「稚アユ数百キロ」)
ちょうどこの連載のさいちゅうに木曽川水系のイタセンパラの不正取引の記事が社会面に出ていて、奇しくも「セット記事」になった。
☆中日新聞 2010年1月10日 朝刊
絶滅危惧魚を不正取引 3容疑者きょうにも逮捕
【写真】(上)紫色の婚姻色を帯びたイタセンパラの雄=碧南海浜水族館提供(下)
アユモドキ=岐阜県世界淡水魚園水族館アクア・トトぎふ提供
国の天然記念物で絶滅危惧(きぐ)種に指定されている淡水魚イタセンパラとアユモドキを無許可で不正に取引したとして、愛知県警生活経済課と一宮署は、種の保存法と文化財保護法違反の疑いで、同県一宮市の50代の男、岡山市の60代の男ら3人の逮捕状を取った。10日にも逮捕する。
うちイタセンパラはタナゴ類では最大級で濃尾平野など国内の限られた地域しか生息しないとされ、東海地方を代表する希少種。10月に名古屋市で開かれる生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)を控えて希少生物への関心が高まる中、県警は流通ルートなど全容解明を目指す。
(中略)
【イタセンパラ】 コイ科で全長約10センチ。タナゴ類では最も体が平たく、体高が高い。9~11月に2枚貝のイシガイなどに産卵し、翌年5~6月に稚魚が泳ぎ出る。木曽川水系では、国土交通省が2008年度に行った調査で生息が確認されている。
【アユモドキ】 ドジョウ科で全長約15センチ。体がアユに似ていることが名称の由来とされる。淀川水系と岡山県内の河川にのみ生息する。岩場に隠れ、朝晩にえさの水生昆虫などを求めて活動する。産卵期は6~8月。
◆密漁横行、保護が急務
イタセンパラなど希少性の高い魚をめぐっては、密漁やインターネットなどを介した不正取引が横行しているとされる。
(中略)
専門家によると、日本固有種のイタセンパラの生息が確認されているのは濃尾平野と淀川水系、富山県氷見市の3地域だけ。希少価値が高い上、産卵期の雄は美しい紫色の光沢を帯び人気が高い。
このため、ネットや口コミなどでのヤミ取引の価格は、1匹数1000~3万円に上るとみられる。個体が大きいほど高い値が付き、濃尾平野産は絶滅に近い状態にある分、他の地域に比べ、高額の取引になる傾向がある。
個体数が激減したのは、護岸工事などで環境が悪化したこと、ブラックバスなど外来魚が繁殖したことに加え、密漁が横行したことが原因。国は木曽川水系の一部で外来魚の駆除やヘドロの除去に取り組んでいるが、密漁対策は手付かずだ。
10月に開かれるCOP10では、絶滅の危機にある生物の保護や、多様性の保全が重要なテーマとなる。
イタセンパラの保護に取り組む岐阜経済大の森誠一教授(動物生態学)は、「今回の事件は密漁者に対する大きな警告となるだろう。地元でも、濃尾平野の環境に合わせ太古から生き延びてきたイタセンパラを『郷土の財産』と認識し、保護する機運が高まってほしい」と訴えている。
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筆者は、カスミ網による野鳥の密猟を追ったことがある。巨大な鳥屋場の痕跡を確認するために揖斐川上流のヤブ山に何度か入った(油断していて、危うく遭難しかかった、自慢できない)。
イヌワシ・クマタカは密漁者の「的」となるため、調査結果をみだりに公表できないのは理解している(ゆえに、徳山ダム集水域のイヌワシ・クマタカについては部分的にしか知ることができない)。
その上で、密猟と(「開発」という)大規模な人為的自然改変と、どちらがより大きなダメージを与えているのであろうか、と考えてしまう。
大規模な開発行為を行う事業者は、希少種をきちんと調査することになっている。少なからぬ予算がその調査に投じられる。環境省は、その生データに接する立場にないのだそうだ(環境アセス方法書などにとり纏めたものだけを見ている)。
生物多様性-種の保存は国際公約であり「国家戦略」である。せめて環境省に、希少種の調査の生データを集約するのがは当たり前にならないのか?
… 徳山ダム集水域の大型猛禽類調査には、(試験湛水前までに)7億6000万円が投じられた。06年、「公費を投じて調査したデータなのだから、その生データを環境省に渡すべきだ」と国交省中部地整に言ったら、「ウチの予算で調査したものですから(渡せない)」と宣った。徳山ダム集水域に関しては、1999年にクマタカFつがいの育雛失敗で「問題」が表面化したことがあって、2000年に質問主意書を重ねての答弁書で「必要がある場合には環境庁が助言を行う」旨があった。その答弁書をまさに「埃を払って」持ち出すことで、「本省マター」となり、7ヶ月かかってデータは渡った。だがその後の調査データは渡っていない。他の場所・事業のデータも渡っていない。
相変わらず「嗚呼、弱小官庁 環境省」である。