「メタボの罠 「病人」にされる健康な人々」(大櫛陽一 角川SSC新書002)読了。特別な健康法というのは別にありませんが、次のことは心がけています。(1)間食をしない。(2)薬は飲まない。(3)ジャンク・フードはできるだけ食べない。(4)歩く。(5)7時間以上眠る。しかし寝る前に本を読みながら飲む酒が原因なのか、最近少々腹が出てきました。体重計に乗るという変な習慣もないので、別段気にもしていなかったのですが、山ノ神から「やーい、メタボリック、メタボリック」と揶揄されます。そういえばこのメタボリック症候群という言葉をメディア等でよく耳にするようになり、何となく胡散臭いなあと思っていました。その言葉にできない気持ちに見事形と内容を与えてくれたのが本書、お奨めです。
厚生労働省は、医療改革として2008年度からメタボリック・シンドロームに基づく特定健診・特定保健指導を実施しようとしています。40才から74才までの人を対象とし、市町村が実施している老人基本健診と、会社が実施している職場健診を統合するというものです。これによって医療費を2兆円削減できると厚生労働省は豪語しているとのこと。しかし国が定める目標値に達しないとさまざまなペナルティが科されるなど病気についての自己責任が強調され、その結果市町村や雇用者(企業)が健康維持に関する責任を逃れてしまうといった問題点が指摘されています。 そして本書が指摘するのは、この特定健診の裏の顔は、受診や薬物依存への誘導であるということです。筆者によると、日本におけるメタボリック症候群の基準値はあまりにも厳しくしかも根拠が明白でない。よって多くの健康な人たちがむりやりこの範疇に入れられ、薬物投与などに誘導される。これでコレステロール低下薬などがよく売れ製薬会社は大儲け、そして大学教授へ寄付金などの名目で金を渡し製薬会社に有利な研究を行わせる/捏造させる。傍証をあげておきましょう。メタボリック症候群の提唱者は、日本肥満学会・日本動脈硬化学会の理事長を務めた松澤佑次氏ですが、彼が勤務していた大阪大学医学部第二内科には2000~05年までの六年間に製薬会社からの奨学寄付金が8億3808万円ありました。そのトップは、最も売り上げの多いコレステロール低下薬(メバロチン)を製造・販売していた三共の1億1600万円。そして厚生労働省のキャリア官僚を天下りとして受け入れる見返りに、製薬会社に有利な政策を行わせる。製薬企業の集合体である日本製薬団体連合の代々の理事長ポストは、厚生労働省キャリアの天下り先なのですね。またタミフル問題では、厚生労働省で医薬品の許可を担当していた元課長が製薬会社へ天下っていました。また「厚生労働科学研究費補助金」によって、厚生労働省が医学研究者の首根っこを押さえている状況もあるようです。がしゃん これで産学官による黒い三角形のできあがり。彼らの利権のためのメタボリック症候群特定健診がはじまるわけです。そうそう、圧力を受けたのか自ら尻尾を振ったのかはわかりませんが、NHKがこの動きのお先棒をつとめています。そういえば「ためしてガッテン」という番組でさかんに広報活動をくりひろげていましたっけ。 というわけで、この特定健診は基準を厳しくして患者を増やし、薬物の使用量を増大させる、つまり国民の半数を薬漬けにしようとする悪質なトリックだというのが著者の主張です。さらに氏の批判は、現在の薬漬け医療に対しても向けられます。血圧降下剤による高血圧治療が寝たきり老人を増やしているなどなど。そして日本人においては肥満、高血圧、高脂質よりも、やせすぎ、低血圧、低脂質のほうが死亡率が高い、よって薬でやせたり、血圧や脂質を下げたりする必要はあまりないという意見も述べられています。やせすぎよりもちょいメタの方が長生きできる! BMI(肥満度の度合を測る数値:体重(キロ)÷[身長(メートル)×身長(メートル)])が35を越えない限り、そんなに心配することはないという説には安堵の溜息をつきました。ちなみに私の身長は1.73m、つまり体重が104kgをこえない限り大丈夫。ちょっと肥っただけで健康を害するという肥満神話の蔓延に警鐘を鳴らしています。 そして健康のために氏が提唱するのが適度の運動です。車依存社会から脱皮して、よく歩くこと。これは地球温暖化対策にもつながる一石二鳥の良策でもあります。本当に国民の健康のことを考えているのなら、自動車依存症をなくす方策を考えるべきなのですが、ま、自動車業界に遠慮して政治家・官僚諸氏は絶対に動かないでしょう。国民の健康よりも、製薬・自動車業界の利益のほうが大事ですから。 難しい医学用語やデータが時々出てきて七転八倒しますが、正確を期すという意味でこれはやむをえないでしょう。またもや日本の政治家・官僚・大企業・学会がはなつ腐敗臭を嗅いだ思いです。清流で鼻の穴を洗いたいですね。地方自治体における年金の使い込みをヒステリックに糾弾する舛添要一厚生労働大臣にはつねづねいかがわしさを感じていましたが、その理由がわかりました。われわれの憎悪をそちらに向け、こうした問題から目を逸らせようとしているのでしょう。 そして冒頭に書いた「私の健康法」がそれほど的外れなものではないことも分かり、意を強くしました。うしっ、これからも適当に健康に気をつけよう。禁酒? うーん、ワンパス。禁煙? うーん、ツーパス。
by sabasaba13
| 2007-10-17 06:08
| 本
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Comments(3)
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by
みつひろ
at 2007-10-17 10:16
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本当に医療費が2兆円減るのなら許せますけど。
ただしその査定は、きっといい加減でしょうね。高齢化して、どっちにしろ 総出費は増えるでしょうから。 腐敗官僚め! メタボ・・・ぜったい電通か博報堂のやつらがからんでますね。 国と企業が、国民を収奪している構図。 でも、国と企業も結局国民だから、国とか企業とか国民という言葉ではなく、人間が人間から収奪しているという話になる。 奴隷制度がなくなっても、身分制度がなくなっても、国だとか、憲法だとか、いい言葉を使っても、人間が人間から収奪しているという事実は、 かわらない。と改めて思いました。とほほ。
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sabasaba13 at 2007-10-18 18:36
こんばんは。なるほど、電通か博報堂には気づきませんでした。たしかに片棒を担いでいる可能性は大いにありますね。
現在すすんでいる事態は、事実上、再版奴隷制と定義すべきだと思います。ただ自分が奴隷であることは自己責任であるという、とんでもない言説を盲信させられているのではないのでしょうか。これは自民党+公明党と官僚と大企業の責任だと気づく人が増えれば事態は好転すると信じます。「王様は裸だよ」と言った子どもの勇気をみならいたいですね。
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at 2008-02-22 12:25
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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