核兵器廃絶とアメリカ

 ノーベル平和賞授賞式における被団協代表委員・田中熙巳氏のスピーチを聞いて、あらためて核兵器の残虐性と非人道性、そしてその廃絶の必要性についての思いを強くしました。どうすれば核兵器を廃絶できるのか。そのひとつの鍵を握るのが、アメリカの態度だと思います。
 広島・長崎への原子爆弾投下によって日本政府は降伏をし、日本本土上陸作戦を避けることができた。結果として多くのアメリカ兵および日本人の犠牲をなくすことができた。よって原爆投下は間違っていなかった。Q.E.D. これが戦後の、そして現在のアメリカ政府の公式見解ですね。ということは、「犠牲を減らすために核兵器を使用してもやむを得ない」という論理が、今でも通用するということです。ロシア政府が「ロシア人・ウクライナ人の犠牲を減らすため」、あるいはイスラエル政府が「イスラエル人・ガザ市民の犠牲を減らすため」に核兵器を使用しても、世界はそれを許容せざるを得ない。
 しかし本当にそうなのでしょうか。管見の限りでは、もう日本の降伏は決定的であり、原爆を投下する必要はなかったと考えられます。それでも原爆を投下した理由として、アメリカの軍事力で日本を降伏させたという印象をつくり戦後の日本を勢力範囲に入れること。すでに始まっていた冷戦下、ソ連に核兵器の威力を見せつけて優位に立つこと。莫大な予算を使ったことに対する議会へのexcuse。核兵器の破壊力や放射能の人体への影響に関するデータが欲しい、つまり人体実験。世界のウラン鉱山を支配している大財閥ロックフェラー(スタンダード石油も支配)とモルガンからの圧力。以上のような理由が考えられます。
 つまり、自国の利益と都合のために、その必要性もないのに、残虐かつ非人道的な原爆を投下したのではないか。自国の利益と都合のために他国の民衆を犠牲にするという政策は、実は原爆だけに限りません。第二次世界大戦後、アメリカが広範に行ってきた外交政策です。そのことを歯に衣着せずに真っ向から批判したのがコロンビアの作家、ガブリエル・ガルシア・マルケス氏(1928‐2014)です。そう、最近彼の傑作『百年の孤独』が文庫化されて話題になりましたね。『しんぶん赤旗』(2003.2.16)によると、アメリカのジョージ・ブッシュ大統領に対して、2003年2月6日に公開書簡を出しています。以下、引用します。

 どのように感じますか。戦慄が隣人の居間でなくて、あなたの庭を走っているのを見たとき、どう感じていますか。
 あなたの胸を締め付ける恐怖、耳をふさぎたくなるような騒音がもたらす大混乱、制御できない炎、倒壊する建物、肺の奥までしみとおる嫌なにおい、血と埃でおおわれて歩く無実の人々の目をどう感じますか。
 ある日あなたの家で何かわからないことが起きるかもしれないときどうしますか。
 どのようにショック状態から立ち上がりますか。そのショック状態の中で、1945年8月6日、広島の生存者たちは歩いたのです。
 アメリカ軍のエノラ・ゲイの砲撃手が爆弾を投下した後、その都市では立っているものは何もなくなりました。
 数秒にして8万人の男女、子どもたちが死にました。さらに25万人が放射能が原因でその後の数年間で死ぬことになりました。
 しかし、それはずっと遠いところの戦争で、その時はテレビもありませんでした。
 忌まわしい9月11日の事件が遠い土地で起きたのではなく、あなたの祖国で起きたことを、恐ろしいテレビの映像があなたに語るとき、今日、あなたは戦慄をどう感じるのでしょうか。
 もうひとつの9月11日、しかし28年前に、サルバドール・アジェンデという名前の大統領があなたの政府が計画したクーデターに抵抗して死にました。
 それもまた、恐怖の時でした。しかし、それは、あなたの国境から大変遠く離れた、南アメリカの無知の共和国もどきで起きたことでした。
 いくつかの共和国もどきが、あなたの裏庭にあり、あなたの海兵隊が血を流し、砲火を交え、自分たちの立場を他国に押し付けたとき、あなたは大して気にもかけませんでした。
 1824年から1994年の間に、ラテンアメリカ諸国を73回も侵略したことをあなたは知っていますか。犠牲者は、プエルトリコ、メキシコ、ニカラグア、パナマ、ハイチ、コロンビア、キューバ、ホンジュラス、ドミニカ共和国、バージン諸島、エルサルバドル、グアテマラ、グレナダでした。
 ほぼ1世紀前から、あなたの政府は戦争状態にあります。20世紀の初頭から、あなたの国防総省の人々が参加しなかった戦争は世界でほとんどありませんでした。
 もちろん、爆弾は常にあなたの国土の外で爆発しました。例外は、1941年日本の飛行機が第七艦隊を爆撃したパールハーバーの時でした。
 しかし、常に恐怖は、遠くにありました。
 ツインタワーが埃の中で倒壊したその朝、あなたはマンハッタンにいましたので、テレビの映像を見て、叫び声を聞きました。その時、あなたは、ベトナムの農民が長年にわたって感じたことを一寸たりとも考えましたか。マンハッタンでは、人々が、摩天楼から悲劇の操り人形のように落下しました。
 ベトナムでは、ナパーム弾が長い時間肉を焼き続けたので、人々は悲鳴をあげました。ちょうど空中に絶望的に身を投じて落下した人々と同じように、その死はすさまじいものでした。あなたの飛行機は、ユーゴスラビアでは工場や橋をひとつ残らず破壊しました。
 イラクでは50万人が死にました。
 50万の魂が、砂漠の嵐作戦で失われました…
 何人が、異国で、遠いところで、血を流したことでしょうか。ベトナム、イラク、イラン、アフガニスタン、リビア、アンゴラ、ソマリア、コンゴ、ニカラグア、ドミニカ共和国、カンボジア、ユーゴスラビア、スーダンで。それは、果てしないリストになります。
 それらのすべての場所で、使用されたミサイルは、あなたの国の工場で製造されたものであり、あなたの若者によって、あなたの国務省によって雇われた人々によって発射されたものです。これらは、あなたがアメリカ式生活様式を引き続き楽しむことができるようにするためだけでした。
 ほぼ1世紀前から、あなたの国は世界中で戦争状態にあります。
 奇妙なことに、あなたの政府は、自由と民主主義の名のもとに黙示録の騎士を投入します。
 しかし、世界の多くの国民にとって(この地球では、毎日2万4千人が飢えと治癒可能な病気で死んでいます)、アメリカ合衆国は自由を代表するものではないこと、そうではなくて、戦争、飢餓、恐怖、破壊をばらまいている遠くて恐ろしい敵であることを、あなたは知らなければなりません。あなたにとっては、戦争は、常に遠いものでしたが、しかし向こうに住んでいる人々にとっては、爆弾によって建物が破壊され、恐ろしい死をまのあたりにする戦争は、身近な痛ましい現実です。そして、犠牲者の90%は、住民、女性、老人、子どもでした(当然の結果ですが)。
 たとえほんの一日であっても、あなたの家の扉を恐怖が叩くとき、どのように感じますか。
 ニューヨークの犠牲者たちが、税金をきちんと納め、一匹のハエも殺せないような秘書や、証券市場のオペレーターや、清掃人であったならばどう考えますか。
 どのように恐怖を感じますか。
 アメリカ人よ、長い戦争が、最終的に9月11日にあなたの家に到着したとわかったならば、どう感じますか。
 ガブリエル・ガルシア・マルケス (新藤通弘氏訳)

 核兵器廃絶のためにも戦争や武力紛争をなくすためにも、まず止めるべきは、ロシアやイスラエルや北朝鮮や中国の暴走ではなく、アメリカの暴走だと考えます。いかがでしょう。

by sabasaba13 | 2024-12-16 09:47 | 鶏肋 | Comments(0)
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